【終活110番030】施設さがしで後悔しないために

施設さがしの手順は、以下のようにしてください。

●入所目的の明確化
元気なうちから入るのか、寝たきりや認知症になってしまってから入るのか。寝たきり状態なのか、そうでないのか。認知症の症状はあるか、ないか。これらによって、入所目的はおのずとちがってきます。

●月額予算
「年金受給額」と「預金」と「子どもからの支援」の合計で考えるようにしまする。仮に年金受給額が月額15万円だとします。預金については、例えば80歳時点で施設に入る場合、90歳まで生きるとしても120ヶ月をそこで過ごすことになる。預金が1200万円あるとすれば、ひと月あたり10万円を充当できることになる。他に子どもたちから月額3万円の援助がもらえるとすれば、月額28万円になります。ただ、施設ではあらかじめ提示された見積り以外に、毎月のイベント参加費用や日用品購入代金を上乗せされるので、余裕をみておく必要があります。よって、このケースでは月額25万円以内で入所可能な物件を探すことになります。

●エリア
いざ施設に入るとなると、あれやこれや高望みしてしまうのか人間の性です。でも、やれ銀座だの六本木だのと言ってみたところで、予算で賄える価格帯の物件があるはずもない。なので、きわめて現実的に範囲を広げてエリアを設定すべきです。「東横線の自由ヶ丘から横浜のあいだ」…といった具合に。あえて申し上げますが、ひとつ認識しておいてほしいのは、家族が見舞いに来るのに便利なところ…などという幻想は棄てたほうがいいということ。入所して間もないうちは週1回とか隔週とか顔を出していた子どもたちでも、しばらくすると月イチになり隔月になり、やがては四半期に一度、年に1回か2回になっていくものだからです。子どもは子どもで超多忙だし、ボケた親と顔を合わせても間が持たないし、居心地も悪いものなのです。

このあたりを理解できるのであれば、むしろ思いきってローカルの施設に入るという選択肢もあるでしょう。費用も安いし、温暖な地方なら認知症が落ち着く可能性もある。時間の流れも職員の言動も穏やかです。それだけで虐待リスクは減るはずです。物理的に遠ければ、行くにはおカネも時間もかかりますから、子どもたちも、親を頻繁に見舞えない後ろめたさに縛られることもありません。むしろそのほうが、たまに顔を合わせた親にやさしく接することができる…。そんな現実があるものです。何事もモノは考えようなのです。

●絶対に譲れない条件
さて、経済的に余裕のある人であれば、広すぎる自宅を処分するなどして、元気なうちから施設に入ろうと考える人もいるかと思います。その場合には、施設で暮らすうえで絶対に譲れない条件を具体的に洗い出す作業がとても大切になってきます。朝起きてから夜寝るまでの一日をカラー動画でイメージしてみて、快適な日々を過ごすために、どうしても必要なサービスやサポートを具体的に紙に書き出すようにしてください。
例えば、こんな具合です。

◎最低でも週に一度は出前を取って、自室でゆっくり晩酌ができること。
◎部屋の掃除とベッドメイクだけはどなたかにやっていただけると助かる。
◎介護職員を(年齢と雰囲気が孫娘に近いひとに)できるだけ固定してくれること。
◎身体が動かなくなってもガーデニングだけは続けたい。
◎施設で看取ってくれること。
◎死に支度(知人への手紙や連絡、菩提寺への取り次ぎ、遺言)を全面支援してくれること。
◎毎年、桜の季節には、必ず桜を眺めに行く機会をもたせてくれること。
◎月に何度かは、何かのついでの時でいいから無償で嵩張る買物をお願いできること。
◎いつでも自由にコーヒーを飲める環境(自動販売機でも可)が整っていること。
◎自伝を書き残したいので、部屋にはブロードバンド環境が整っていてほしい。
◎徒歩圏内に図書館があること。

介護施設のパンフレットやホームページはもとより、現地見学説明会であっても総花的な美辞麗句が並ぶものです。施設側も悪意をもってダマそうとしているわけではないでしょう。しかしながら、入所者獲得という至上命令を受けている職員の性として、施設にとって不利になるようなことは本能的に言及しないものなのです。だからこそ、「入所者個々のライフスタイルを尊重して」とか「医療機関と提携しているから夜間や休日でも安心」とかいう耳障りのいいフレーズを鵜呑みにしてはなりません。

自分が自分らしく生活していく上で大切なことについては、具体的に質問して施設側の確約を取る必要があります。「週に一度は外出に同行してほしい」・「部屋での食事にも対応してほしい」・「かさ張る買い物は代行してほしい」・「お酒は自由にたしなみたい」・「重篤な入所者とは食事の場所を分けてほしい」等々。こういった生活上の価値観は、ボケてない元気な人にとっては非常に重要なことです。後々、「言った・言ってない」となるので、施設側の返答をしっかりと録音しておきましょう。

また、施設の中に、コミュニケーションが取れる元気な入所者が何人くらいいるのかも必ず聞き出すようにしてください。せっかく余生をエンジョイしようと思って入ってみたら、周りはすべて重篤な人ばかりだった…などという、泣くに泣けないケースはザラに転がっています。人は環境に馴染んでしまいがちです。入所する施設をまちがえたばかりに、元気だった人があっという間に要介護状態になってしまったり、認知症の症状が出てきてしまったり。そんなことがよくあるものです。

いろいろ書いてきましたが、こうしてみると、施設さがしにおいては、(特に現地見学においては)本人だけで済ませようとするのは現実的でないことがおわかりいただけるはずです。お子さんに同行してもらい、きちんと折衝してもらうこと。契約の際にも、必ず同席してもらうこと。これだけは外せないと思います。

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