介護地獄から脱出するための7つのステップその1「もの忘れ外来を受診する」
それでは始めましょう。
誰でもできる介護地獄から脱出するための7つのステップ…。 まずはステップ1です。
お住まいの近隣で、「もの忘れ外来」を行っていて、かつ、入院病棟のある病院を探して、予約を入れます。「もの忘れ外来」は、通常は予約制となっています。大盛況の診療科なので、ちょっと待たされる可能性はあります
ですが、負けじと「どうしても、一刻も早く診ていただきたい。家族がもう潰れてしまう。限界まで追い込まれているんです!」と訴えるようにしてください。前倒ししてもらえる可能性が出てきますので。
初診時には、老親や配偶者の言動について、あなたが「あれっ。何か変だな……」と思ったことを紙に書いて持っていくようにしてください。時系列的に、可能な限り正確な日時を盛り込むように。あと、本人の既往歴と、現在服用している薬があれば併せて持参します。「おくすり手帳」があれば、それを持っていけば事足ります。
おそらく本人は医者のもとへ出向くことを拒絶するかもしれません。しかし、そこだけは、何とかご家族で作戦を立てて突破してください。というのも、私どもでは認知症の方のためのカウンセリングも行っているのですが、追加の費用が発生してしまうからです。それでも……と、依頼される場合も多いのですが、ともかく一度は試してみてください。
本人をうまく連れ出すためには、例えばこんなふうに声をかけてみてください。
「お父さん(お母さん)にはまだまだ長生きしてもらわないとね。そのためには、状態を維持するために最低限の検査とお薬はがまんしてくれないと。お父さん(お母さん)だけの問題じゃないんだからね。わかってくれるでしょう?」
「主治医の先生が紹介したいお医者さんがいるって言ってくれてるんだ。ありがたいことだよね。ちょっと顔を出す程度だから、行ってみようよ。お医者さんも十人十色だろうからね。いろいろ会ってみるのもいいんじゃない?」
「検査だけは受けておいたほうがいいよ。私たちはがんばって仕事してるし、子どもたちはがんばって勉強してるんだから。お父さん(お母さん)は健康管理にがんばってくれないとさ。そこをわかってくれたらうれしいね」
「ほら。最近は認知症ドライバーの暴走で、通学途中の子どもたちが命を落とす事件が多いじゃない。だから、高齢者の認知症検査が義務化されたんだよ。どうせ受けなきゃいけない検査なんだから、早めに済ませちゃったほうがいいと思うよ」
要は、ご高齢の方がもっとも敏感な「自尊心」。これを土足で踏みにじらないことです。人は誰しも、他者から「ほめられたい・好かれたい・必要とされたい・信頼されたい・期待されたい」という根源欲求を持っています。お父さん(お母さん)もきっと同じです。そこを突くようなアプローチが必要です。まちがっても、強引な、お説教的な声かけをしないように気をつけてください。
お父さん(お母さん)のこころに、『そうだよな。子どもや孫たちのためにも検査だけは受けておくか』という気持ちを喚起させられるかどうか。ここが、老親問題を解決できるかどうかの分水嶺だと思って、誠意をもって向き合ってほしいものです。
さて、ここからが大切です。うまい具合にお父さん(お母さん)が納得されて、もの忘れ外来のドアを叩いたとしましょう。
おそらく医師は、「長谷川式認知症チェックテスト」という、簡単なクイズ形式の判定法を使って診察すると思います。併せて、CTやMRIも撮るはずです。
いずれにしても、淡々と所見を述べてくるはずです。しかし、変な話なのですが、それ以上でもそれ以下でもなく、「薬を出しておきますので、また一か月後に来てください」となる可能性が高いです。
要するに、レントゲンの結果、脳の萎縮が思いのほか少なかったりすると、医師は焦って確定診断を下さないものなのです。しかし、それではあなたは困ります。そのまま、「はい、そうですか」なんて言って引き下がってはいけません。
認知症の確定診断があろうとなかろうと、そんなことは二の次です。あなたやご家族が、老親の言動ゆえに、日々困惑して苦悩していることを伝えなければなりません。
認知症の初期の場合、初対面の相手やはじめての場所などでは、本能的に気丈に振る舞うということがかなりあるものです。そうなると、医師に逼迫感が伝わらないわけです。ですから、窮状を訴えようとするあなたの発言を遮ろうとするかも知れない老親を診察室の外に出してでも、医師と差しで会話しないとダメです。そういう意味では、ご夫婦揃って、あるいはお孫さんも一緒に、等々、複数で付き添っていくことがお奨めです。お父さん(お母さん)をひとりぼっちで待たせておくのは不安がありますからね。
いずれにせよ、医師に対して、そうしてSOSを言葉と態度にして明確に伝えない限り、つぎのステップへは進めませんから、十分に注意してください。