【デキる上司の十訓十戒008】訊き方 ~質問は善なる覚醒剤~

今回もかなりお値打ちな情報をお届けします。ひとことで言えば、質問技法の話です。

「訊く」。「聞く」でもなく「聴く」でもない。「訊く」です。英語で言うと、聞く=hear、聴く=listen、訊く=ask となります。つまり、「訊く」とは質問することです。上司が質問した「?」に呼応して、部下は自分の心のデータベースを検索しはじめます。なかなか答えが見つからず、部下がもがいているようなら、また視点を変えた別の質問を投げてあげましょう。そうすることで、部下に気づかせてあげるのです。部下がみずから、問題解決の出口やヒントを見つけ出せるように。人を育てるというのは、初めからなんでもかんでも教えてやればいいというわけではないのです。そうです。気づきとは、起こすものではありません。起きるものなのです。

池で溺れている子どもがいたとします。飛び込んで助けてやれば、子どもも保護者も喜ぶでしょう。しかし、これは物事の一面しか見ていません。助けてやることで、その子どもが、もしかしたら泳げるようになったかもしれない瞬間やきっかけを奪ってしまったかもしれない。上に立つ者は、そこまで深く踏み込んで考える必要があります。他人から言われたことよりも、自分で答えを見つけたことのほうが忘れないのです。行動に移せるのです。そして、人のこころに根づくのです。なんでもかんでも、手取り足取り教えればいいというものではありません。それでは、いつまで経っても自ら気づくことのない、自ら育っていくことのない依存型の人間になってしまう恐れがあります。気の利いた上司の気の利いた質問で、部下の心に立ちこめていた霧が一瞬にして晴れるということだってあるのです。

【訊き方サンプル】

ここに、なにか落ち込んでいるような、元気のなさそうな部下がいます。気の利いた上司であれば、こんなふうにアプローチします。

上司 「まちがっていたらゴメンよ。私には、なにか最近のキミは元気がなさそうに見えてね。ちょっと心配していたんだけど・・・」
部下 「はい。毎日遅くまで仕事して、自分では自分なりにがんばってはいるつもりなのですが・・・。なかなか実力がつかなくて、周囲のみなさんにご迷惑をおかけしているように思えてならないのです」
上司 「うんうん。なるほど、そういうことだったんだね。話してくれてありがとう。もう少し話してみてくれるかな」
部下 「はい。同僚はそんなことないよって励ましてくれるのですが、もしかしたら、自分はこの仕事、向いていないんじゃないかなって考え込んでしまうんです」
上司 「頑張っているのになかなか戦力になれない。だから、この仕事は自分に向いていないんじゃないかって、そう考えてしまうんだね」
部下 「そうなんです。いま任されている案件でも、なかなか取引先とアポが取れなくて、私だけが遅れてしまっていて・・・」
上司 「相手のあることだものねぇ。でも結果として先へ進めないから、他のメンバーに遅れを取ってしまうということなんだね」
部下 「はい。遅くまで仕事をすることは全然苦にならないんです。でも、いろいろな事情で前に進むことができないと、自分だけが空回りしているようで何かこう・・・」
上司 「何かこう?」
部下 「ええっと、何かこう、もどかしいというか、空しいというか……」
上司 「わかるような気がするな。がんばりが成果として形に見えてこないと、このままで大丈夫なのかなって、不安になっちゃうのかもしれないね」
部下 「そうなんです。この仕事は好きだし、今の職場も好きなんです。でも成果ができないことで、みんなからアイツはできないって見られてしまうんじゃないかと考えると不安で不安でしかたないのです」
上司 「なるほど。いくらがんばっていても、成果が出なければ評価されないんじゃないか。そう考えると心配になってしまうんだね」
部下 「はい、そうなんです。ひとつひとつ着実に前に進んでいけば、それが自信になると思うんです。自信が持てないと、いろいろなことを悪い方悪い方に考えてしまって・・・」
上司 「そういうことか。ひとつでも目に見える成果があれば、前向きになれるって感じているんだね?」
部下 「はい・・・」
上司 「目に見える成果。どうすればそれが手に入るか・・・。そこだよねぇ」
部下 「でも・・・。やっぱり成果というのは待っていても出ませんよね。自分から動いて出すものですよね。自信が持てる持てないも、結局は自分次第なんですよね」
上司 「うんうん。確かに成果も自信も、人からハイって受け取れるものでもないからね。なかなか深いことを言うじゃないか」
部下 「いえ、そんな。でも、入社したての頃は、成果が出なくても失敗をしても、あっけらかんとしていたんですよね。なんとかなるさって感じで、ひと晩眠れば気持ちを切り替えることができていたんです」
上司 「ほう。成果も自信も自分次第なのに、結果が出ない状況だけにを観て捉われてしまって、新人時代のがむしゃらさを忘れてしまった・・・みたいな?」
部下 「そうなんですよ。昔は先輩にも図々しいくらい質問したりアドバイスをせがんだりしていたのに・・・。いまは、「そんなこともわからないのか」とか言われてしまうような気がして、自分で抱え込んでしまって相談にも行かなくなっちゃったんですよね」
上司 「ふうん。キミにもそんな図々しいところがあったとはね(笑)。新人時代のフットワークか・・・。いまはそれよりも周囲の目が気になってしまうということかな」
部下 「はい。だから余計に形を出すことばかり考えて、それが焦りになってしまっているんだと思います。それが取引先にも伝わってしまうのかもしれません」
上司 「そうかもしれないね・・・。すると、周囲の目を意識するよりも、もっと先にすべきことがあるってこと?」
部下 「ええ。周囲よりもまず自分。自分は本当にやるべきことをやっているのか。それが大切なんだと思います。そして、困ったときは先輩に相談しに行かないと。やっぱり、自分の評価なんかより、任された仕事を前に進めることを最優先しないとダメですよね。もういちど初心に戻って、自分のすべきことを全力でやってみます」
上司 「周囲に気を取られるばかり、自分のすべきことを見失っていたっていうことなのかな。ちょっと霧が晴れた感じかな?」
部下 「はい。ありがとうございます。おかげさまで、気持ちを整理できたような気がします」
上司 「それはよかった。私も、キミに元気が戻ったとしたらとても嬉しいし安心だよね。存分にがんばって! 応援してるからね」


どうでしょうか?                              ここまでじっくりと向き合ってくれる上司だったらどうでしょう。少しずつ少しずつ、部下は自立し、やがて自律していくだろうと思います。「自立」とは、上司が示したゴール(目標)に向けて、自ら考えて最短最適な道筋(手段や方法)を決められることを言います。さらに「自律」とは、チームや自身の然るべきゴールを打ち立てて、それに向かって然るべき道筋を策定しスタートを切ること。人事部門の人たちは、よく言っています。「ゴールセット」と「セルフスタート」のできる人材を発掘したい、そんな人財を育成したいと。

【外人上司の聴く力&訊く力】

私自身、社会人デビュー3年目のある時、直属の課長に対する苦情(改善要望)を、本人をすっ飛ばして部長に相談したことがあります。そのときの部長はアメリカ人。今にして思えば無謀だった自分を恥じて、穴があったら入りたいくらいです。しかし、その後、何人もの上司と出会い、いつからか部下を持つ側になっていったあれこれを振り返るとき、その経験が実に大きな財産となっていることを実感します。アメリカ人と日本人の上司のちがいをひと言でいえば、それは聴く力と訊く力の差ではないか。そう思うのです。

相談の内容は、「夕方外回りから戻った営業マンたちが仕事をしていると、課長がひとりずつ机を回ってきてグダグダとノルマ達成の見通しを訊いてくる。結果的に、自分の作業を中断せざるを得なくなり、毎晩深夜まで残業しなければならない。できれば、定期的な営業報告の場を設けてもらい、思いつきの場当たり的なチェックを控えて欲しい」というものでした。

部長の部屋をノックして入っていくと、彼は笑顔で歓迎してくれ、ドーナツを勧めてくれました。で、「よく来てくれた」と言って、現場の若い人たちの話をナマで聴くことがいかに重要で、かつ、いかに嬉しいかを話してくれました。

いざ相談の内容に入ると、私のたどたどしい英語も、真剣なまなざしでうなずきながら黙って聴いてくれました。たぶん15分はかかったと思います。ひとしきり話し終えた私に、「よぉくわかった。自分たちのペースで仕事ができないというのはストレスが溜まるだろう。大変だよね。キミの言う通りだと思う」と言ってくれたのです。

お礼を述べると、彼はこう続けました。「ひとつ教えてもらいたいんだが、営業課長はなぜ毎晩毎晩キミたちの席を回ってあれやこれや問い質してくるのだと思う?」と。私はハタと考えました。1年近くも課長のやり方にイライラを募らせていましたが、課長の言動の背景については、ただの一度も考えたことはありませんでした。

そしてしばらく考えた後、「課長は外回りをしない人だから、客先およびセールスの現状がまったくわからない。なので、自分ではノルマ達成の見通しが全く立たないから不安で仕方がない。だから営業マンが視界に入ると、ついついしつこく状況を聞き出そうとしてくるのかもしれない」と答えました。

部長は言います。「Awesome ! (すばらしい)」。自分も同じことを予想していたと、日本人はあまりしない大袈裟なジェスチャーで握手を求めてきたのです。私はよくわからぬままに手を差し出しましたが、なにかこう、相談に来てよかったなぁ~という晴れやかな気持ちになりました。

その後の彼のコメントがまた印象的でした。             

「3つ伝えるよ。①課長は営業経験がないからそうするのであって、たぶん営業マンに対して悪意はない ②イレギュラーケースを除いて、営業報告はスケジュール化させるべき ③自分の発案として、つぎの管理職会議で全課長に徹底させる」。

そして、プライベートのことなどをいくつか訊きながらドーナツを完食すると、再び満面の笑顔と握手で私を見送ってくれたのです。「一ヶ月後、また様子を教えてくれ」と言い添えて。
 
いま思い出しても、私にとってはドラマティックなエピソードです。その後も数名のアメリカ人上司に師事しましたが、やはり日本人とちがって、本当に部下の話に耳を傾けるのがうまいと思います。そして爽やかです。話も短くて完結です。アフター5は飲みにも誘いません。その代わり、繁忙期の金曜日にはピザやフライドチキンやドーナツの出前が届く。開けてみると、グリーティングカードが添えられている。節目の飲み会では、スピーチを終えてしばらくすると誰よりも先に立ち去る。しかも、数万円を置いていく。まぁ、カッコいいと思いましたね。そして、自分が部下を持つようになったら、いつしか彼らをマネている自分がいました(笑)。これが上に立つ者の影響力でしょう。

その後、彼らの訊く力とか聴く力というのは、コーチングという人財育成手法に根づいているのだということがわかりました。コーチングについて学んだことのない管理職は、早急に情報武装してください。上に立つ者にとって、とても重要不可欠なスキルです。これがないと部下たちの人心掌握はままならないと言ってもいいくらいです。コーチングとは、部下の抱えている問題を解決するために、質問を重ねることで部下に自ら気づかせ、アクションプランまで考えさせ、実行させるためのプロセスです。以下に、すぐに使えそうなポイントだけご紹介しておきます。

【部下の相談の受け方】

はじめに、自分のもとへ相談に来てくれたことに対して、ネガティブな話を勇気をもって打ち明けに来てくれたことに対して、感謝の言葉を伝えます。こうすることで、部下の心の鎧を外させるのです。そして、肩の力を抜いて、ゆっくりでいいから、自分のペースで話してほしい旨を伝えます。併せて、決して流暢に話したり、論理的に話したりする必要はないのだとリラックスさせてあげましょう。本題に入る前に、こうすることで部下側の態勢を整えてあげるわけです。そしていよいよ本題に入っていきます。
 
まずはゴール(目的地)を具体的に明確に描かせます。
「いま抱えている問題がすっかり消え去ったとしたら、アナタの仕事はどう変わるかな?」
「一切の制約を取っ払って、明日の朝、何がどうなっていたらアナタはハッピーなの?」
「アナタがハッピーだと思う理想の状況を、カラー動画のように具体的に教えてくれる?」
「その理想的な状態のなかで、アナタはどんなふうに仕事に取り組んでいるかな?」
「その理想的な状態は、チームや部署や会社全体にとっても望ましいものだろうか?」

つぎにリアルポジション(現在地)を具体化していきます。
「理想の状況が10点だとしたら、現状は何点だと思う?」
「現状が5点だとしたら、そこで起きていることをいくつか具体的に教えてくれる?」
「そこで働いているアナタの心の中を言葉で表すとどうなるかな?」
「先輩や同僚や後輩たちは、現状についてどう感じていると思う?」
「10点満点でわずか5点という状況をもたらしたボトルネックは何だと思う?」
 
そして、ゴールまでの道筋について訊いていきます。
「そのボトルネックを解消するためにもっとも有効なことは何だと思う?」
「現有戦力だけで、すぐに取り組めることはないだろうか?」
「私にサポートできることがあるとしたら、それは何だろうか?」
「何でもいい。~さえなければ、~さえあれば・・・というものがあったら教えてくれる?」
「アイデアを実行する上で、不安があるとすればそれは何だろう?」
 
さいごに、覚悟を決めさせます
「そのアイデアを実行できたら、周囲の状況はどう変化すると思う?」
「当面の目標として、いつまでに何点くらいまで改善できたらいいと思う?」
「キミのアイデアに賛同してくれそうな先輩・同僚・部下はいると思う?」
「さっそく実行に移してみて、一ヶ月以内に状況をまた教えてもらっていいかな?」
「前向きに取り組むことに対して、不安をはるかに上回る期待が感じられるかな?」
 
締めくくりとして、本音で話してくれたことに対するお礼を伝えます。部下を見送る際には「また困ったことがあったらすぐに教えてくれるとうれしいね。全面的に応援するから」と、部下の心に「ああ。思い切って相談して、本当によかったな」という余韻を残します。


いかがですか?                            みなさんのまわりには、こんなすっげぇ上司や先輩って、いるでしょうか?おそらく、いないと思います。

だから、だからこそ、みなさんがなるのです。そんなクールな上司や先輩に! そのために、私が持っている拙いネタをどんどん開陳していきます。

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