サ高住がダメなワケ  ~「サービス付き」ならぬ『サービス抜き』~

今回は、サ高住をお薦めしない理由について書いていきます。

まず大前提として、サ高住とは、「サービス付き高齢者向け住宅」の略称です。つまり、とどのつまりは「住宅」なのです。イメージとしては、ワンルームの賃貸アパートまたは賃貸マンションです。そこに、必要に応じて、介護サービスやら医療サービスやらが出前形式で届けられるわけです。

ということは、入所者は必然的に居室で過ごす時間が増えるわけです。というか、基本的に自室に居ることになります。となると、いくら「認知症でも受け入れます」・「最後の最期までお過ごしいただけます」と説明されたとしても、やっぱり不安です。部屋の中で何が起きているのか、まったくわからないのですから、ブラックボックスです。となると、さいごの生活場所として安心して老親や配偶者を委ねることはむずかしいと思うわけです。

最近では、本来「住宅」であるはずのサ高住がどんどん老ホ化してきています。入所者個々のライフスタイルを尊重するのと併せて、同時に施設のような万全の管理体制を敷いていると、パンフレットやホームページには書いてあります。現地説明会でも、そんな説明がなされるでしょう。

でも、真に受けないことです。やはり、居室に放置されている時間が多いのです。緊急連絡装置が取り付けられているサ高住も多いですが、こと認知症になってしまうと、そのボタンを押せなかったり、装置を分解して壊してしまったり……。どうしても職員が最初に気づくタイミングが遅れてしまう場合が多いのです。この点で、サ高住でさいごを迎えるというのはどうにもイメージできないのです。

また、サ高住とは、「サービス付き高齢者向け住宅」の略称であり、業界人には、「サツキ」と呼ぶ人もかなり居ます。しかし、私に言わせれば、世の中にあるほとんどのサ高住は「サービス抜き高齢者向け住宅」であり、「サヌキ」なのです。この点も、私がサ高住を積極的にお薦めできない理由のひとつです。このことを少し解説していこうと思います。

実は、サ高住を建てると国から多額の建築補助金がもらえるのですが、その一方で、入所者のそこでの暮らしを円滑なものとするために、『医療または福祉の専門資格者を(少なくとも日中は)常駐させること』という条件が課せられています。そのことの対価として、「家賃」・「共益費」の他に、「生活支援サービス費」をとってもいいことになっているのです。
ちなみに、「生活支援サービス費」の具体的な金額は、月額3万円~10万円です。

かなり幅がありますが、結構な金額ですよね。支払う側からすれば、月額5万円といえば、決して安くはない金額です。地方都市ともなると、家賃よりも生活支援サービス費のほうが高い物件さえあるほどです。これだけのお金を払うのだから、「老親を住まわせ、忙しくてなかなか様子を見にも行けないけれど、サ高住には生活支援サービスが付いているから、日常生活の中でいろいろと困ったことがあっても、医療や福祉の専門家に対応してもらえるだろうから安心だ。遠方にいる自分に携帯電話をされてもすぐには動けないからな」と考えてしまったとしても当然です。実際にサ高住に見学に行けば、施設の責任者やマネジャークラスは必ずこの「安心」を前面に出してアピールしてくるし、パンフレットやホームページにおいても、きわめて抽象的に、「毎日が安心、万一も安心」と謳っています。

ところが…です。国からの莫大な補助金を受け取るための要件であるはずの『生活相談』の実態は目を疑うばかりです。はっきり言いましょう。

毎月云万円も徴収される生活支援サービス費とは、実体のないムダ金であると!

私どもに寄せられるサ高住関連の相談やクレームの9割は、「サ高住に親を入れたはいいが、当初聞かされていた生活支援への対応が殆どなされておらず、結果的に子ども世帯の負担がまったく減らない。退去したいがどうしたものか」といった具合です。要するに、「生活支援サービス費」の問題なのです。

ほとんどのサ高住では、ほとんど何ら生活相談に応じてもいないし、応じる気もないにもかかわらず、すべての入居者から毎月5万円もの生活支援サービス費を徴収しているわけです! なんともひどい話です。詐欺と言われても仕方ないと思うのは私だけでしょうか。

さて、サ高住をお薦めできないもうひとつの理由。それが、脆弱な緊急時対応です。具体的には、何かしら緊急事態が発生した場合、サ高住には医師も看護師もいませんから、救急車を呼ぶことになります。ここで知っておきたいのが、救急車を呼んでくれたとしても、それに同乗してくれない場合がほとんどだという点です。

ええっ! 苦しんでいる入所者をひとりで救急車に押し込んでしまうの?
こんな声が聞こえてきそうですが、そうなのです。職員はだれも同乗していってくれないのです。で、ご家族に対して、「救急車を呼ぶからすぐに来てください」とか、「搬送先がわかったら連絡しますので、すぐに出向いてください」とか、依頼の電話をかけるのです。

これって、ちょっと非現実的だと思いませんか?
家族だって仕事中かもしれない。たまたま遠方にいるかもしれない。「提携医療機関があるから万一の場合でも安心」などと謳っておきながら、休日や夜間に何かあると、すぐに家族に連絡が入るといったケースは実に多いです。いや、平日の日中時間帯であってもそうです。名だたる大手介護事業者が展開しているサ高住だってそうなのです。

しかし、現実問題として、救急車で搬送先の病院に到着して、本人はどうやって医師に対してふだんの様子を伝えるのでしょうか? 痛みに苦しみながら、日常的にどういった薬を服用していて、どのような治療を受けていて、いま現在はどのような症状で……。そんなことを本人が説明できると思いますか? 救急車に乗せる際に、サ高住の職員が、提携している医療機関からカルテの写しでももらって救急隊員に手渡してでもくれるのでしょうか?

こうしたことを具体的にイメージしてみると、どうでしょうか。とてもではないけれど、サ高住をさいごの生活場所などとは考えられないと思うのです。

仮にいま現在は通院していなくとも、加齢とともに気になってくるのが万一の場合の医療サポートです。ほぼすべての施設が、「夜間に何かがあっても、医療機関と連携しているので安心」と言ってきます。しかし、その内実はピンキリ。入居者の非常事態を発見した時の具体的な対応の流れについて、詳細に聞き出す必要があります。資料化して渡してもらうくらいじゃないと、休日夜間の緊急時対応は特に危険です。全部家族任せなんていう物件だってあるのですからね。

夜間や休日というのは、そもそも職員が手薄になる時間帯でもあるし、シフトに入る職員の質的不安もあります。読者のみなさんも、まだ記憶に残っているでしょう? 昨年、川崎で起きたSアミーユの介護連続殺人事件。当時、Sアミーユ(有料老人ホーム)を経営していたのはメッセージという会社でしたが、同社はサ高住も積極展開をしていました。それがCアミーユです。サ高住では全国シェアトップです。ただし、この事件が起きてすぐに、メッセージ社は損保ジャパンに身売りして姿をくらませています…。

ここで、私どもに寄せられた、元・Cアミーユの管理責任者(30代・女性)の話に基づいて、あまりにも急激に拠点を増やしたばかりに、現場がいかに危険な状態に陥ってしまったかを書いてみようと思います。これを読んだら、まちがっても、自分の老親や配偶者を、大手介護チェーンのサ高住に入れようなどとは思わなくなるはずです。

彼女の話では、Cアミーユの離職率が尋常ではなかったとのことです。

「メッセージ全体の社内データで、3年以上勤務している介護職は1割に満たなかったですよね。介護職向けの転職サイトや求人誌にアミーユが載らない週はありませんでした。離職率が高い理由ですか? 突き詰めていけば、やっぱりトップがろくでもないからじゃないですか(笑)」

以下、彼女から聴いた衝撃の内容をご紹介していきます。

Cアミーユでは、目に見えない虐待が日常茶飯事だったといいます。虐待というと、通常は、暴力(身体的虐待)や暴言(精神的虐待)、盗難(経済的虐待)がよく報道されますが、もっとも表沙汰になりにくい虐待、つまり、「目には見えない虐待」というのがあるわけです。「ネグレクト」と言うのですが、言わば、介護放棄です。放っておく、という意味です。

具体的には、 「ナースコールを取らない」・「お風呂に入れない」・「口腔ケア(歯磨きなど)をしない」・「排泄介助をしない」・「転倒注意の利用者がよろよろと歩いていても、止めずに無視する」などです。

「まあ、あそこほど介護放棄のバリエーションがあるところも珍しいですね」と、彼女は言い放ちました。

でも、本当にこんな状態だったとしたら、管理責任者は何とも言わないのでしょうか?

急激に成長したサ高住の世界では、管理責任者は、他業界からの転職組が多いのです。短期間に全国に物件を開設していますから、企業のリタイア組の再就職先としては候補となりやすいのでしょうね。そんな彼らに共通するのは、とにもかくにも上層部を見ながら仕事をするということです。介護とは全然ちがう世界からやってきて、どんどん拠点を増やしている大企業ゆえの売上至上主義に迎合して、要領よく評価を得ようとする傾向が強いです。中高年の転職組ともなれば、まあ、それも仕方のないことかもしれません。家族を養っていかなければなりませんからね。

だから、現場の職員たちとはどうしたって心理的距離が離れていきますよね。Cアミーユを辞めた彼女の話では、彼らは、数少ない、普通に自分の意見を言えるような入所者に媚びるんだそうです。で、評価コメントを書いてもらって、入所者満足度を上げる。コールがあれば最優先で駆けつけて、30分以上も話し相手をしてあげて、昇進や昇給のネタにする……。

そのあおりで、コミュニケーションが取れない入所者は後回しにされたり、ネグレクトされたりしてしまうとしたら、これはもう虐待以上にひどい仕打ちです。もっと言ってしまえば、重篤で面倒のかかる入所者は、出世の見込みのない奴隷のような職員に押し付けてしまう。すると、奴隷職員だって人間ですから、ついつい介護が荒くなったり、コールが鳴っても感情的になって言葉がきつくなる……。そんな悪循環が蔓延しているのだといいます。

それをトンデモ上司から注意されたり、𠮟責されたりすると、まともな感覚を持っている職員なら、やってられないと辞めてしまうのです。世の中的には、介護職の募集はいくらでもありますからね。となると、現場に残るのは、箸にも棒にもひっかからない使えない職員だけということになります。これはこれで恐ろしい話です。

さいごに、メッセージ社が損保ジャパンに身売りしたことについて、彼女のコメントを紹介しておきます。

「ホント、酷いものでしたよ。現場には何の説明もないんですからね。ネットのニュースで知ったぐらいでしたから。一部の上層部を除いて、現場の職員なんて人間だと思われていないんだな~と思い知らされましたよね。だいたい、あれだけの事件や事故を起こしておいて、さいごまで橋本さん(アミーユシリーズを経営していたメッセージ社の代表取締役、橋本敏明氏)はお詫びの記者会見さえやらなかったじゃないですか。あれがあそこの危機管理能力なんですよ。で、逃げるようにこれまで作ってきた施設を260億円で売却しちゃうんですからね。ま、買うほうも買うほうで、払うべき保険金も払わないようなモラルのない連中ですからね」。

ああ、損保会社によくある不払い事件のことをいっているのだな……。

彼女の話を聴きながら、サ高住を全国にギンギンに増やしまくっている介護大手企業の経営陣たちの顔が浮かんできました。

介護業界の3大不祥事「コムスン、ワタミ、メッセージ」は消えたけれど、こんどはメガ損保を中心に介護業界が再編されました。パナソニックグループもサ高住の積極戦略に舵を切りました。あまりに短期間に、急激に箱モノを増やすことのリスクをどうコントロールしようとしているのか。どうしても気になってしまいます。

まちがっても、彼女がさいごに語ってくれたように、「技術や資格よりも、会社の理念に従うことのほうが大事。入所者よりも上司が大事。ケアプランは出鱈目どころか違法。技術指導もろくにない。あの事件は起こるべくして起きた。メッセージはなるべくして姿を消した」なんてことにならぬよう祈りたい気持ちです。

ということで……、そう。大手介護チェーンのサ高住だけは、相談者にお薦めしない。私はそう決めています。

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