【デキる上司の十訓十戒007】聴き方 ~話し手を萎えさせない全身傾聴~
今回の結論は、デキる上司は超能力者であれ、です…。
はじめにテクニカルな話をまとめておきましょう。以下に、カウンセリング時にやってはいけないとされる聴き手側の立ち居振る舞いを示します。部下の相談を受ける際には、こうした態度や仕草が出ないよう、十分な注意が必要です。
・視線を合わせない
・うなずき/あいづちがない
・無表情/無反応
・腕組み/脚組み
・のけぞり(相手の話に興味がある時、人は自然と前傾施設となる)
・ため息
・険しい表情/眉間のしわ
・遮り
・貧乏ゆすり
・携帯やペン等をいじる
・髪や顔をいじる
・呼吸や話し方のペースがミスマッチ
・無責任な言葉(「なんだ、そんなことか」「よくあることさ」「大丈夫、大丈夫」「何とかなるさ」「あんまり気にするな」)
ちなみに、カウンセリングの基本ポーズは、「腰かけて、顎の前あたりで軽く両手を組んで、15度程度の前傾姿勢を取って、相手が気づくか気づかないか程度に口角をあげる」です。これで、相手をして、「ああ、この人は自分の話を真摯に受けとめようとしてくれているのだなあ」と印象づけられる確率が高くなります。
【カジュアルミーティングのすすめ】
俗に、デキる上司は部下の話を聴くだけで部下を育成していると言われます。部下ひとりひとりと定期的に対話する時間を持ちましょう。で、部下に話をさせてやる。仕事の話でなくてもいい。もしも部下のほうからプライベートな話をしてきたとしたら、あなたは上司として捨てたもんじゃない。そう思っていいです。いまの時代の部下というのは、ふつうは上司と飲み食いしたり、プライベートな話をしたりすることを嫌うものですからね。
外資系企業ではよく見かけるのですが、カジュアルミーティングをしくみ化することをお勧めします。早い話が雑談タイムです。部下ひとりひとりと定期的に対話する時間を持つということです。そして、部下に話をさせてやる。仕事の話でなくてもいい。もしも部下のほうからプライベートな話をしてきたとしたら、あなたは上司として捨てたもんじゃない。そう思っていいです。
一般には、役職が上がれば上がるほど忙しくなるものです。必然的に部下とのコミュニケーションが減ってきます。でも、そこを何とか工面して時間を捻出して、部下との接触頻度を維持すべきだと心の底から思っています。接触頻度と心理的距離の近さには正の相関関係があることがわかっています。
例えば百貨店業界では、年に1度だけ100万円の買い物をしてくれる顧客よりも、毎月コンスタントに5万円購入してくれる顧客のほうを貢献度が高いと判断しています。顧客戦略上、年間の購入金額よりも購入頻度のほうを重視しているわけです。夜のお店も同様です。
何かあったときだけ、じっくりと時間を取ってくれる上司。何事がなくとも、週に一回、10分程度の時間を共有する上司。みなさんはどちらがお好みでしょうか? 忙しくてひとりひとりの部下と顔を合せたり会話したりする時間が取れない上司がいたとします。部下からすると、そんな上司に呼ばれたときは、まっさきにネガティブ感が生じます。実際に出向いてみると、案の定、大概が説教かお小言、あるいは「あれ、どうなってるんだ」という催促です。
こうなってしまうと、部下は上司に声をかけられた時点で、本能的に鎧をまとうようになるものです。向き合っている時間は、本音を言わなくなります。評価する側である上司に対しては、上司が気持ちよくなることしか言わなくなります。ミスを犯した時でさえ、主語をボカしたり、あいまいな表現を使ったりして、事実を少しずつ変えて伝えるようになります。これは組織を預かるものとしては怖い話です。
よく、「部下の報告が遅い、事実と異なる、わかりづらい」と嘆いている管理職がいます。でもそれは、まずは部下よりも自分を顧みるべきです。上司であるあなたが、報告しづらい雰囲気を醸し出しているのではありませんか?
そんな芳しくない状況に陥らないためにも、カジュアルミーティングは有効です。例えば、毎月奇数週の水曜夕方(実際は明確に何時間かを決めたほうがいい)は、ひとり10分ずつ対話の時間を設定する。何事があってもなくても、です。仕事の話がなければ家のことや趣味のことでも聴いてあげればいいのです。そうするからこそ、部下は「また説教されるんだな」というネガティブな感情を抱かずに済む。つまり、鎧を外したニュートラルな状態で上司のもとへやってくる確率が高くなります。そうしないと、上下間の心理的距離はなかなか縮まりません。結局は、評価する側と評価される側。ここは割り切って、双方の利害関係は一致しないと考えたほうが気持ちが楽になるというものです。
ひとり10分とすれば、余裕をみて、一時間あたり5人はいけるでしょう? 2時間なら10人。3時間なら15人と時間を共有することができるのです。部下側から見れば、上司とサシで10分間。月一回としても、年間で120分も話すことができるわけです。これはすごいことです。特に入社して日の浅い部下たちにとって、かけがえのない学びの時間となるはずです。その時間が来るのがうれしくて、待ち侘びて、次は何を話そうか、次は何を質問しようか、ワクワクしながらその時を待っている部下が必ず出てきます。
こうなればシメたものです。その部下はあなたと話すだけで前向きになり、自信が膨らみ、あなたのもとで働けることに喜びを感じます。おのずと仕事にも情熱が注がれ、パフォーマンスがよくなり、アウトプットにも期待が持てるようになる。ひとりでも多くの部下がそうなれば、組織全体の底上げにつながります。だから、カジュアルミーティングというのは、とてもコストパフォーマンスのいい人財育成法なのです。忙しくて時間がない、などと言っている場合ではありません。
【主役は聞き手】
そして、部下と向き合った時の注意点です。カジュアルミーティングのポイントは、なるべく部下に話をさせるということ。部下の話を途中で遮ったり、眉間にしわを寄せたり、ため息をついたり、腕組みや脚組みをしたり、そういう上司は上司失格です。部下だって、二度と相談に来ることはないでしょう。
とにかく主役は部下です。部下に話をさせたい。グッとこらえて、部下の話に耳を傾けるようにしてください。その効果は絶大です。私たちは、大人になるにつれて、人に話を聴いてもらえなくなるものです。ご自身のことをちょっと考えてみればわかるはずです。部下にしたって、職場でも家庭でも、誰かに話を聴いてもらえる機会はそうは多くないはずです。だからこそ、上司であるあなたが聴いてやることに価値があります。人は自分の話を聴いてくれる相手を好きになるものなのです。
クラブとかキャバクラとかいった夜の業界が、云十年もの長きにわたり同じビジネスモデルで採算が取れてきた最大の理由はそこにあります。人は話を聴いてほしいから夜の店に通うのです。本気で恋人や愛人をさがそうという人は希少です。
私にも、かつてこんなことがありました。恥を忍んでお話しします。会社で上司からさんざん嫌味を言われ憤慨した私は、自分の美学に反して、めずらしく家で不満をこぼしてしまったことがありました。でもその時、配偶者は相手をしてくれませんでした。それどころか、「愚痴ばっかり言ってないで、早く食べちゃってくださいよ」と文句を突きつけられたのです。あの時、私は心に決めました。二度と家庭で仕事の話をするまいと。二度とこの人に愚痴をこぼすまいと。
ところが、夜の店に行けばじっくりと話を聴いてくれますから癒される。相手はそれが仕事だとわかっていても心が安らぐものです。お世辞だとわかっていても褒められればうれしい、あの感覚と一緒です。スキルフルな相手に出会えれば、こちらの話に共感し、同調し、なぐさめ、励ましてもくれます。よほどのことがないかぎり、親身に聴いてくれる相手に対して好感を持つはずです。そのことの対価として、決して安くないお金を落としているわけです。
「アナタもいろいろと大変なのねぇ」などと寄り添って言われたとしたら、そりゃあいい気分になるでしょう。
「ええっ! ママ、俺のこと、わかってくれるんだぁ」
「もっちろんよ。アナタのことなら、す・べ・て」
なぁ~んて甘い声と一緒に人差し指で頬を軽くタッチでもされようものなら、それはもうダメ押しです。次の瞬間には、「嬉しいなぁ! よし、もう一本、ボトル入れて!」ってな具合に流れていくのも当然でしょう。
話が逸れましたが、それくらい人間は自分の話を聴いてもらえない。だから、話したくて話したくてうずうずしています。ほんのちょっとのきっかけさえあれば、堰を切ったようにまくしたてることだってままあります。だから、上司であるあなたが、部下にそのきっかけを与えてあげてください。
以下は、カウンセリングの王道です。これをカジュアルミーティングに取り入れることができたら鬼に金棒です。まちがいありません。私はこれを、某有名大学が夜間にやっていたビジネススクールで、50万円ものコストをかけて学びました。それがタダで手に入ってしまうのですから、インターネット社会っていうのは驚愕の世界です(苦笑)。おっと、話が逸れてしまいましたね。
はじめは、「最近どう?」「なにかと順調?」「なんか問題ある?」と問いかけるだけでもいいです。そして部下が話し出したら、部下をして「あ、この上司は、自分なんかの話に真摯に耳を傾けてくれているんだなぁ」と思わせるように、全身全霊で聴いてあげるのです。時にうなずき、時に相づちを打ちながら。この共感と受容で、さらに部下は心をひらくはずです。ひとしきり部下の話を聴いてあげたら、こんどはその話の内容について、2つ3つ、質問してあげましょう。部下の話の内容を、自分の頭の中にカラー動画で描けるくらい具体的に共有してあげるのです。
若い部下であれば緊張して真意をうまく伝えられないこともあるでしょう。だから上司のほうから、いろいろな角度から質問を投げかけてあげるのです。部下の頭の中にある映像と同じくらい、部下の考えていることを具体的に鮮明に描くために。そもそも質問というのは、「わたしはあなた(あるいは、あなたの話)に関心を持っていますよ」という意思表示なのです。あなたが質問してあげることで「?」が耳から脳へ伝わると、部下は嬉々として話を続けてくる確率が高い。
そして、部下の胸の内にある絵と、あなたの頭の中の絵が7割方、一致したと思えたら、頃合いをみてその内容を要約してあげます。「わたしは、あなたの話をこのように理解しましたよ」と伝えてあげる。そうすることで、誤解曲解がないかどうかを確認してあげるのです。部下が「そうなんですよ!」と思ってくれたらしめたものです。自分が抱えている問題を上司がきちんと正確に理解してくれたことに、部下は感動するかもしれません。そこまでいかなくとも、自分の話を理解しようと努めてくれる上司のことが好きになるはずです。
場合によっては、「どうしたもんですかねぇ」と、部下があなたにアドバイスを求めてくることもあるでしょう。その時は、説教口調や上から目線にならぬよう、まずは部下にこう断わります。「参考になるかどうかはわからないけれど、君の話を聴いていて感じた(思い出した、思いついた)ことがあるんだよね。ちょっと私のほうから話してみてもいいかな?」と尋ねるのです。
多くの場合、この謙虚さが部下のハートをわしづかみにします。上の立場にいるひとの謙虚な言動は、部下の目にはもっともカッコよく映ることが、もろもろのアンケートで検証されています。当然、部下は「お願いします」と言ってくるはずです。ここで、後述の独白技法を使います。左斜め上45度くらいに頭を上げて、ちょっと遠くを見るような視線で、部下から聴いた話に関連しそうなエピソードをゆっくりと語るのです。長さとしては、1分程度が望ましいでしょう。何せ限られた時間ですし、主役は部下なのですから。部下が話す時間を奪ってしまってはなりません。
深イイ話を終えたら、意識的に「間」を置きます。この沈黙が場をより濃密な空間に変えてくれます。そして再びこう問いかけるのです。「いまの話、どう思った?」と。もうおわかりですよね。「?」がインプットされた部下は考えはじめ、そして何かしら言葉を発しはじめます。そうしたら、再びうなずきと相づちで共感しながら聴いてあげるのです。これが対話のベストプラクティスと言われるものです。
部下と10の時間を共有するとしたら、6割は聞き役にまわり、3割は相手の話を受けて返し、残りの1割は沈黙。意識的に「間」を作ります。お互いが深く深く思いを巡らす時間です。この沈黙の後に発せられる言葉は、お互いのこころに深く染み入って、刻み込まれるものです。「6:3:1」の割合を意識しましょう。考えてみれば、人間の耳は2つあり、口は1つしかありませんからね。話す割合は、聴く割合の半分でいいのです。有能な上司とは、話を聴いてやるだけで部下を育てているに等しいのです。
デキる上司は、超能力ならぬ「聴能力者」たれ、です。
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