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質問は善なる覚醒剤
みなさん、こんにちは。
事務局のマリーアントワネットこと、桜井ひまりです。
今回は、カウンセリングでよく使う10の質問…というお話です。
当事務所では、何かしらお困りごとを抱えている人たちのために、24時間365日対応の電話相談以外にも、フェイス・トゥー・フェイスおよびバーチャルでのカウンセリングも行っています。
事務局のスタッフは電話対応だけで、カウンセリングは専門職が対応しています。でも、入社時研修には、コミュニケーション技法のひとつとして質問話法が含まれています。その時に教えていただいた『カウンセリングで有効な10の質問』が、私としてはとても印象深いものでしたので紹介したいと思います。
カウンセリングに訪れる人たちは、基本的にネガティブな状況である場合が殆どです。悩みが深刻であればあるほど、口が重かったり、適切な言葉や表現が出てこなかったりするものです。
なので、カウンセリングを行う側が効果的に質問することで、相談者の胸の奥にあるであろう問題解決のためのヒントに気づいていただくようなステップで話を進めていきます。
そもそも、相談者の人たちは、他者からいきなり「こうすれば?」とアドバイスしてもらったとしても、見かけ上は肯定するものの、実行に移す人はいないのだそうです。だからこそ、本人に考えさせて、気づかせて、自分の口から言葉を発してもらうことが大事になってくるということです。
となると、相談を受ける側としては、限られた時間内に少しでも問題解決に近づくために、
相談者が自問自答したくなるような質問や、そうせざるを得くなるような質問を投げかけなければなりません。
そこで、ボスをはじめ、当時在籍していたカウンセラーのみなさんが実際に使ってみて効果的だった質問を出しあって、現在のカウンセリングマニュアルができあがっています。
カウンセリングのはじめに、相談者には最大10分間、『今回相談に来られた理由と、カウンセリング終了時にどうなっていたいか』を自由に話してもらいます。その際に、相談者の多くが口にする代表的なフレーズというのがあって、それをさらに深掘りしたり、視点を変えたり、具体的なエピソードを引き出したりしながらカウンセリングが進んでいきます。
冒頭にカウンセリングを申し込んできた理由と、帰り際に手にしていたいものを訊く…と書きましたが、それも含めて、相談者が抱えている問題を少なくとも7割から8割は共有できるよう、頭の中で困っている相談者の日常をカラー動画でイメージできるようにする。それがカウンセリングの前半45分の目標です。
それでは、相談者の話の中によく出てくるフレーズとリンクさせながら、『カウンセリングで有効な10の質問』を紹介していきます。
① 相談者の話が途切れた際には、『で?』と問いかける。
② 「母親のことで困っている」・「おカネのことで困っている」・「かかりつけ医との関係のことで困っている」・「先行きが不安で困っている」・「財産の引継ぎのことで困っている」等々のフレーズが出た場合は、『例えば最近、それを象徴するようなことがありましたか?』と訊く。
③ 「いまの状況は、あなたにとって絶対にのぞましくない、絶対に変えなければならないものですか?」・『いまの状況が続いたとしたら、あなたはどうなってしまうと思いますか?』と訊く。
④ 「本当にそうですか?心のどこかに、現状を受け入れている自分がいませんか?」
⑤ 相談者の抱える問題の5W1Hを把握できたと思ったら、現状を客観視してもらうために、「あなたが同じような悩みを抱えている人から相談されたとしたら、あなたならどんな言葉をかけてあげますか?」と訊く。
⑥ 問題解決のゴールを設定するために、「もしも明日の朝めざめたら、その問題がすべて解決しているとしたら、あなたの日常はどうなっていますか?」と訊く。
⑦ 続けて、現在置を定量化するために、「いまの苦しい状況に点数をつけるとしたら、10点満点(点数が高いほどクリティカル)で何点ですか?」と訊く。
⑧ さらに、「その点数を改善するために、まずはどうなったらいいと思いますか?」
⑨ 大体の場合、いくつもの要因が絡み合ってネガティブな状況が生じているので、「いろいろな要素がある中で、ボトルネックは何だと思いますか?」と訊く。
⑩ こちらのサポート項目を絞り込むために、「そのボトルネックを解消するために、どんな支援があったら有効ですか?」
これらの質問をこうして文字にしてしまうと杓子定規に感じてしまうのですが、相談者を前にしたら、ペーシング(言葉を発するスピード、声のトーンと抑揚を相手に近づける)とミラーリング(写し鏡になるように身振り手振りを相手に近づける)を意識的に行います。
こうして、大きなフリップに、相談者の目的地と現在地、両地点を結ぶ道筋を描いていきます。その上で、相談者の口から出てきたボトルネックをつぶすために最初に取るべきアクションを明らかにしていきます。
仮に問題解決の糸口になるようなワードやフレーズがまったく出てこなかったとしたら、相談者がカウンセラーに心を開いていないということになります。私自身、記録係としてすでに100以上のカウンセリングに同席させてもらっていますが、そういう場面には出くわしたことがありません。
ただし、3割くらいでしょうか。以前の記事で紹介した『独白』という手法を使って、押し付けにならないように配慮しながら、過去の成功事例を紹介し、その上で、「今の話、どう思われましたか?」とたずねることで、相談者はほぼほぼ全員、「自分にも有効かもしれない」とおっしゃいます。
ソクラテスの産婆術…というのがあります。
古代ギリシャの哲人・ソクラテスは日に日に街に出て悩める人たちと向き合うのですが、彼はただひたすら質問を繰り返すだけです。決して自分から「こうしたらいいんじゃない?」とは言いません。
それは、専門家がどんな提案をしたとしても、例え相手が「わかりました」と言ったとしても、結局は行動に移さないのだそうです。ソクラテスのアドバイスが、潜在的に相談者本人の頭や心の内になかったとしたら実行しない…。それが人間の特性とのことです。
だから、本人はまだ気づいていない問題解決の糸口やヒントを引っぱりださせるために、手を変え品を変えて質問をするのです。
ソリューションを赤ちゃんに例えて、赤ちゃんは相談者の内側からしか出てこないという意味で『ソクラテスの産婆術』と称されるようです。現代では、コンサルティングに携わる人たちがこの手法を仕事に使っています。
研修でこの話を聴いた私は、あれから今日に至るまで、何か問題にぶつかった時には、鏡の中の自分を相手に10の質問を投げかけるようにしています。まぁ、私の悩み事など、大して深刻なものではないのですが、トレーニングのつもりでやっているのです。私も近い将来、カウンセリングをやっていきたいので。
すでに資格は取ったものの、まだまだ自信がなくって、日々ブラッシュアップを心がけているわけです。
今回の話がどこまでみなさんに届いたか、とても不安です。ロールプレイなしでテキストとマニュアルを読まされるだけの研修だったとしたら、カウンセリングに興味を持つことはなかったと思うからです。
あの研修で、私を含め一緒に受講した4人全員が、ロールプレイをしながら涙を流しました。研修がハードだったからではありません。悩みを抱えた相談者の役を演じながら、それでもいつしか話材(相談の中身)がリアルな悩みに近くなってしまい、気づけばみんな泣いていた…。不思議な時間と空間でした。
そして、涙を流した後の、希望の光が見えたような前向きな気分。絶対に問題は解決できるんだという安堵感。相談に乗ってもらって本当によかったという満足感。ボスがよく言っている、「相談者は親身に話を聴いてあげるだけで、抱えているネガティブの7割が解消されるんだよね」という言葉が、この事務所で5年を過ごした私にはよぉくわかります。
記事タイトルの『質問は善なる覚醒剤』。悩める人の胸の奥深くに潜んでいる、まだ本人も気づいていない問題解決のためのヒントをたぐりよせるという意味で、質問を『善なる覚醒剤』と表現したボスのオリジナルワードです。
それではまた次回。
ごきげんよう。