【終活110番028】認知症対応の王道

以下が、認知症対応の標準的な流れです。

まずは、近隣病院の精神科にてモノ忘れ外来を受診します。完全予約制なので、事前にアポを取っていくようにします。この際、クリニックや診療所ではなく、入院病棟のある病院に行くことをお奨めします。

で、診察を受けるだけでなく、医療福祉相談室の相談員にも時間を取ってもらい、入院希望である旨をしっかりと伝えることがとても重要です。外来の予約日時まで間があるようであれば、先に医療相談室との面談を済ませてしまうことをお奨めします。こちらはすぐに面談に応じてもらえますし、入院のキーパーソンである相談員(正式には、MSW:メディカル・ソーシャルワーカー)とは緊密になっておいたほうが絶対に得だからです。

その際には、本人の症状に加え、家族の物理的精神的疲弊を強調することで、入院時期を少しでも前倒ししてもらえるよう工夫することがポイントです。多少オーバー気味でも構いません。「このままにしておくと、この家族は危険かもしれない…」と、相談員に感じさせるくらいが理想です。役者にでもなったつもりで演じてください。そうしないと、なかなか入院の順番が回ってきません。ここはとても重要なポイントです。相談員を味方にすることができれば、経験的に、概ね3週間で入院することが可能です。「いついつから入院させられる…」というように期限が切られてさえいれば、あとしばらくは家族介護の痛みやつらさにどうにか耐えられるものです。

入院当日は、多くの場合、本人は嫌がり抵抗しますが、クスリの力で眠らされ、そのままキャスター付きベッドで運ばれていくことになります。本人ではなく家族の意志で入院させるという意味で「保護入院」と言われています。入院後2週間もすると、問題行動はほとんどなくなっているはずです。これもクスリの力です。ただし、問題行動が緩和される一方で、元気なときのような覇気や活力のようなものは影を潜めてきますが、これは致し方ないことです。

入院して1ヵ月もすると病院(相談員)から退院時期について話があると思います。その際は、退院後の自宅での介護はむずかしい旨を伝えた上で、「然るべき施設を探すつもり」・「もうしばらく入院させてほしい」と伝えるようにします。強制的に退院させられることはありませんので安心してください。病院の状況によりますが、3ヵ月~9ヵ月は滞在できるはずです。

経済的なことを言えば、(医療保険の限度額適用認定証の交付を受けていれば)1日でも長く入院していたほうが安上がりです。そのためにも、病院の相談員に対して、「仕事の合間に、条件に合致する施設を必死で探しているのだけれども、なかなか見つからない。もうすこし地域を広げて探すつもり」等々と伝え、必死になっている様を表現することが大切です。そうして、いよいよ、これ以上の滞在はむずかしそうだなぁ~というタイミングが来たら、病院に頼んで、老健(老人保健施設)もしくは特養(特別養護老人ホーム)を紹介してもらうようにします。

ちなみに、「老健は自宅復帰のための中間施設だから3ヶ月で退所しなければならない」というのが定説になっていますが、全国の老健の8割が看取りまで対応しているということを記しておきます。病院からの紹介で老健にいったん入ってしまえばこっちのモノです。本人や家族の同意なしに退去させることは法律で禁じられていますので安心して大丈夫です。

これまで15年間に100人ちかい相談者に対して、「モノ忘れ外来→精神科認知症病棟→老健」の流れでサポートをしてきましたが、全員が老健での生活を継続中です(うち29名は老健にてすでに亡くなられました)。3ヵ月経過時点で退所勧告されたケースが数件ありますが、きちんと事情を話せば、老健側でも考慮はしてくれるし、別の老健を紹介してくれることもあります。まちがいありません。

あと、個人的には、老健以外であれば、地域で長年病医院を経営している医療法人が運営するサービス付き高齢者向け住宅がお薦めです。料金的にリーズナブルな物件が多いのと、職員による虐待等のトラブルが非常に稀だからです。逆に、全国展開している民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅だけはお薦めしません。高価格にもかかわらず、トラブルが多いからです。

さて、認知症の兆しが出てから、モノ忘れ外来のアポを取って受診して、相談員と面談して、入院させるまでの対応で実質的に4日。入院後、相談員との月次面談(関係性維持と退院後に係る折衝)に3日。退院後の療養先確保2日。施設転入に1日。だいたい10日相当のワークロードが見込まれます。これらをすべてお子さんに託すのであれば、交通費も含め、50万円程度のおカネを渡してあげてもいいのでしょうか。医療の世界にあまり馴染みがない場合、医者をはじめとする医療専門職とのやりとりは心理的負担もあるかと思います。そうしたことに見合うだけの経済的保証をしてあげたほうが絶対にいいと思います。

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