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介護休業制度の問題点

ビジネスパーソンの介護離職対策としては介護休業制度が導入されていますが、実際に同制度を利用した人の評価は芳しくありません。これからの企業には、親に何かがあっても職場を離れたくない人のために、介護休業とは別の選択肢を用意することが求められています。

ということで今回は、昨年からすべての企業に義務づけられた介護休業制度について、知っておいたほうがいいことをお話ししていきます。読者のみなさんの中に、もしも介護休業の取得を検討されている方がいたとしたら、まずはこれを読んでみてください。くれぐれも軽率な判断をせぬよう気をつけてください…。

介護休業制度については、一般に三つの問題点が指摘されています。
(1)現場と本社部門との意識格差 
(2)介護保険制度との矛盾(「家族介護はせずプロに任せる」というのが介護保険の基本コンセプト)
(3)要介護2以上でないと取得できない

(1)は、本社の人事部門や労務部門は「当然の権利だから取っていいんだよ」と言う一方で、現場の上司は必ずしも同じスタンスではない…という意味ですが、昨春、従業員数にかかわらずすべての企業に義務づけられて以降は、さしてこの手の話は聞かなくなりました。世の中こぞって、ダイバーシティ、サステナビリティですからね。

(2)と(3)が今回のメインテーマとなります。

家族が要介護になったときに、労働者が介護のために3回まで、通算93日まで休業できる介護休業制度。ダイバーシティやサステナビリティに熱心であることを世間に対してアピールしたいのかどうかわかりませんが、取得可能日数を増やす企業がやたらと増えています。もちろん、94日目以降は介護休業手当ては支給されませんが…。

介護休業は働く世代の介護離職対策として制度化されたものですが、そもそも介護休業を取得するということは、3ヶ月間は仕事を離れなくてはならないわけですから妙な話です。

厚労省に取材したところ、「もしも離れて暮らす老親に介護が必要になったとした場合には、短期集中で(93日間で)体勢を立て直して会社に戻ってきてくださいね」…という主旨らしいのですが、このあたりのことが世間にはうまく伝わっていないのが実情です。

ちなみに、「体勢を立て直す」の意味ですが、「親子間・家族間で連携をとりながら、先の長い介護について今後の方針を立てたり、段取りしたりといった時間に充ててもらうイメージ」とのことでした。

私なりに解釈すると、老親に介護が必要になったり、認知症の兆しが出てきたりしたら、自宅から施設に移行する基準を決めたり、対象となる施設の条件(エリア・予算・サービス内容)を決めたり、手続き等における役割分担を決めたり、財源を明確にしたり…。要は、介護のプランニングをするための93日間だということです。

ただ、介護休業取得の要件に「対象者が要介護2以上」とあるので、プランニングのみならず、実際に施設に入所させるところまで想定している感があります。だって、要介護2以上の老親を娘さんや息子さんが会社を休んで介護するなんて、自殺行為ですからね。

でも、介護休業を取得した現役世代の人たちのほとんどが、実際の介助に携わってしまうから、仕事も家庭も変な方向に行ってしまう。心身ともに疲弊して、挙句の果てに会社を辞めざるを得なくなってしまう。酷いケースでは、家庭崩壊にまで至ってしまう。で、再就職しようとするものの、介護休業取得者のうち再就職できるのは半分だけ…。そういうことだと思います。
いや、これが現実なのです。

なぜそう言い切れるかというと…。
私どもの事務所では、24時間365日対応の電話相談サービス『お困りごとホットライン』を運営しています。ここに寄せられた相談を紐解いてみると、介護休業を取得した経験のある現役世代が34人いることがわかりました。
で、この人たちを対象に、昨秋、メール・LINE・電話でアンケート調査を行ったのです。結果はこんな感じです。

介護休業制度に係るアンケート調査結果

もう一目瞭然ですよね。
で、何が言いたいかというと、厚労省の人が言ってるのが事実なんだとしたら、介護休業の取得要件「要介護2以上」は取っ払え…ということです。

介護休業制度が、現役世代に老親の介護をすすめるものではないのだとしたら、加えて、今後の介護のプランを決めるためのものだというのであれば、対象者が要介護2になってしまったら手遅れです。認知症が絡めば尚のことです。なんせ、認知症患者の7割以上が要介護1以下なのですからね。

施設入所や入院の段取りは、介護度が軽いうちにやらないと意味がありません。要介護2にもなれば、即、条件と予算に合致する施設を確保して入所させる…。それだけです。93日も職場を離れる必要などありません。携帯電話があれば、職場に居ながら対応できてしまいます。現地見学には出向かねばなりませんが、それは土日祝日とか有給休暇で充当すればいい。そういう話です。実家で家族介護なんて、それこそ介護保険制度の基本コンセプト(介護はプロに任せろ。家族介護はするな。)から逸脱しています。

逆に、要介護度が低いとか、これから要介護認定の手続きに入るとか。そういった初期の段階にこそ介護休業を取得する意味があるのです。なぜかと言うと、介護や医療の段取りだけではなく、財産まわりの話も絡んでくるからです。

例えば認知症の疑いがあるとしたら、正常な時間帯があるうちに、本人名義の財産が凍結されぬように手を打つ必要があります。介護や医療や日常生活に充てるおカネも、あらかじめ役割を担うお子さんに渡しておく必要があります。

もしもお子さんが複数いて、財産を均等割りにはしたくないと考えている親の場合には、差額相当の金額は、(相続時の争族を避けようと思うのなら)判断能力が完全に損なわれてしまう前に渡してしまわなければなりません。

つまり、介護とか認知症とかの問題は、財産分与の話とリンクしているわけです。だから実に厄介で面倒です。3ヶ月くらい時間がないと、介護と医療と財産まわりの段取りなど、到底できっこありません。財産まわりの話の大変さ加減は、施設さがしの比ではありません。

だから、要介護度に関係なく、老親の異変に気づいた時点で介護休業を取得できるようにしなければ意味がないのです。

現行の介護休業制度は、実態に即していないということになります。そもそも、同制度の正式名称は『育児・介護休業制度』であり、中身的にも、出産・育児休業の比重が圧倒的に高くなっています。頻繁に制度改定が行われますが、介護休業のほうは、実質的な改善が見受けられません。

長くなりましたが、もしも介護休業の取得を検討されている人がいたら、その人の親御さんはすでに要介護2以上であるはずです。自宅療養中の老親を然るべき施設に移すだけのことです。多くの場合、月額予算内の施設を数件ピックアップして、現地見学をして、契約手続きを行うだけです。3ヶ月もの間、職場を離れる必要はありません。携帯電話で事足ります。ですから、決して早計に介護休業を取得しないでください。

そして、もしも親御さんがまだ元気であれば、今のうちに正しい終活を実践させるようにしてください。そうでないと、不利益を被るのは現役世代のみなさんなのですからね。

次回は、このあたりのことをお話しすることにします…。

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