青息吐息のパチンコ業界

今やあれ程隆盛を極めたパチンコ業界は風前の灯と言わざるを得ない。

昨年10月に、民事再生法の適用申請をし事実上の倒産となったガイアは記憶に新しい。
タレントを使い派手なCMを打ったりしていたが、社長が覚醒剤で逮捕されるなど、企業経営としても問題だらけである。
そもそもガイアは『出ない店』として顧客からは認識されてもおり、いわゆる締めた店として公然と認知されていた。これは信用調査会社でも認知されていたのだから驚きだ。

こういう話しをすると『パチンコ廃止』を求めて活動していた連中が『我々の実績だ』と鼻息荒げて虚栄心いっぱいに騒ぎそうだが、それは単なる勘違いである。

近年、パチンコ業界の不振は娯楽の多様化による客離れや設備投資が原因である。
また、この3年程はパンデミックが影響している。

ガイアだけでなく、最大手マルハンも業績不振により青息吐息である。

マルハンの2024年3月決算を見てみよう。
売り上げは1兆4344億円である。この数字だけ見れば相変わらず2兆円産業だ。
営業利益は197億円である。大きな数字である。
200億近くあるのだから良い様に見える。
もっと詳しく見てみよう。

売り上げ 1兆4344億円
原価   1兆3726億円
粗利     618億円
営業利益   197億円
利益率     1.3%
これが2024年3月のマルハン決算だ。
因みに、2023年3月決算を見て見よう。

売り上げ 1兆3196億円
原価   1兆2604億円
粗利     591億円
営業利益   183億円
数字だけ見れば、微増ではあるが回復傾向にあるかの様に感じる。
では、更に10年前と比較してみよう。

2014年3月決算

売り上げ 2兆1116億円
原価   2兆0323億円
粗利     792億円
営業利益   579億円
利益率      2.7%

2014年と2024年を比較すれば、売り上げは3分の2に落ち込んでいる。
営業利益に至っては3分の1にまで落ち込んでいる。
倒産寸前とまでは言わないが、相当危ない状況である。

因みにパチンコ屋の原価とは、払い戻し金の事である。パチンコ屋に10,000円投入し、払い戻しが9000円だとする。つまりは1000円の負けだ。
この払い戻し9000円がパチンコ屋の原価となり粗利が1000円と言う事だ。
マルハンの場合、原価から計算すれば還元率は95.6%〜96.2%となる。
通常パチンコ屋の還元率が80〜85%と言われているので客への還元率はかなり優秀であろう。

宝くじの還元率が45.7%、競輪が75%、競馬は77%と言う事である。
しかし還元率の高さは射倖心を煽る事にもなる。
例えば、海外のオンラインカジノは還元率が98%であるから相当なものだ。
最近はコレにハマった日本人が話題にもなった。
還元率は勝敗の平均であるから、還元率の高さは勝敗の差が激しいとも言える。

直近ではやはり新型コロナウィルスの影響を受けてはいるが、そもそもこの不振は娯楽が多様化した事が影響しているのであろう。
その昔は日常の娯楽と言えば、酒とパチンコぐらいで成人男性の『嗜み』といった赴きもあった。

しかし、今やネットも含めて個々人が強調され一日中やかましく、他人と密接する日常を避ける傾向にもある。仕事が終わり帰宅すればビール片手にYouTubeやNetflixを見る。
わざわざパチンコ屋などに行かない。
マルハンにしても、店舗数こそ微増しているが人件費は削減方向だ。

更に、国の出玉規制なども客足を遠のかせる。
勝てない店には誰も行かない。
パチンコ台の設備投資もバカにはならない。
おまけに今年は新紙幣発行に対応せねばならない事態もまた追い討ちをかけている。
パチンコ屋は今尚現金だ。
パチンコ屋がクレジットカード決済が出来たら、其れこそ恐ろしい話しである。
例えば、飲食店など新紙幣対応に対して補助金が出るのであるがパチンコ業界は補助金対象外である。
そしてタバコだ。禁煙化により更に客足は更に遠のいた。

マルハンより酷いのはダイナムである。
2014年決算
売り上げ 9045億円
原価   7434億円
粗利   1611億円
営業利益 302億円
である。

2023年決算
売り上げ 4643億円
原価   3569億円
粗利   1074億円
営業利益 14億円

2024年決算
売り上げ 5123億円
原価   3952億円
粗利   1171億円
営業利益 35億円

2023年に比べて2024年決算は僅かに良くなっているように見える。
しかし、もう少し詳しく見てみよう。

2024年の利益率は0.6%だ。
更に、2014年の還元率は82.1%であるが2024年の還元率は77.1%である。
つまり、利益の僅かな上昇は、還元率を絞ったからである。
しかし、平均が80〜85%の中で77%は明らかに『出ない店』てある。
出ない店に客は来ない。完全な悪循環に陥っている。
例えば、この還元率を80%にしてみると営業利益は一気にマイナスで100億の赤字に転落する。
店舗数はマルハンが312店舗に対して、ダイナムは434店舗だ。この辺りが経営を圧迫しているのであろう。
ダイナムは完全に倒産寸前で、恐らくパチンコ業界でなんとかやっていけるのはマルハンぐらいであろうが伸びしろは希薄だ。

パチンコ業界が生き残るには明らかに業態の変化をしなければならない事は明白だ。

そもそも気軽に行ける場所や駅前に賭場が存在している事がおかしな話しでもあり、その手軽さが逆に多様化する時代に合わなくなっているのだ。
手軽に行ける場所は、何ら特別感もない。
行かないからとて、どうとはない。

例えばテーマパークの様に一度は行きたい場所などと言う話しでもない。

パチンコ業界が生き残るならば、特別感のある場所でなければならないのであろう。
つまりは、駅前や自転車で行ける手軽さは捨てるしかあるまい。
早い話しが、IRなどに打ち込み『そこに行かなければ出来ない特別なもの』に業態を変化させるしかない。
街のあちこちにあるものと言うこれまでの常識を捨て去るべきであろう。

そうすれば、パチンコなる手軽な博打に身を投じて破滅する人も少なくなるであろう。



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