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「無理のない演劇」「敷居の低い演劇」は、どのようにして生まれるのだろう?


はじめに

ワークショップを始めて、9年が経ちました

2015年4月12日に、第1回の演劇ワークショップ「Jack Out the Box」を開き、それから約3か月に1回のペースで、半日や1日のワークショップ、1泊2日の合宿形式のワークショップを開催してきました。
数えると、半日や1日のワークショップは計25回、1泊2日の合宿形式のワークショップは、計8回開催しました。

ワークショップのスタイルも変化してきている

「シアターゲームやプレイバックシアターを中心とした場づくり」という点は大きく変わりませんが、ワークそのものの力に頼っていたところから、文脈や流れといったものと、ワークの質感などをより融合させられるようになってきた、というところが、変わってきている(自分も経験を積みながら成長してきている)のかなぁと感じています。

「無理のない演劇」「敷居の低い演劇」という感想をいただく

先日の25回目の1dayワークショップのなかで、「こういった『無理のない演劇』っていいですよね。自分もまさにやりたかったことなんです」といった感想や「『敷居の低い演劇』に誘ってくれて、ありがとうございます」といった感想をいただきました。それらの感想を聞いて、「あ、そうか。そうだよな。演劇がより人々の身近なものになって、彼らの生活が豊かになる一助になるように活用していきたい、という思いを持っていて、なんだかそこに近づきつつあるのかなぁ」と、静かに喜びを感じていました。

ちょうどよい機会なので、考えてみようと思いました

「無理のない演劇」「敷居の低い演劇」は、どのようにして生まれるのだろうか?自分はファシリテーターとして何を意識しているのか?どんなことが重なって、そのような場に導かれるのか?ということを考えてみようと思います。

「無理のない演劇」「敷居の低い演劇」は、どのようにして生まれるのだろう?

ファシリテーションのスタイル:構成的から非構成的へ

ワークショップの開催にあたり、最初の頃は頭からお尻までプログラムを組んで、基本的にその通りに実施するスタイルでした。経験が浅かったこともあり、目的・内容・方法を考えて、一貫して実施したことは、よい経験になりました。
その後、プレイバックシアターの仲間であり、心の友として親交を深めるEddieに出会い、ファシリテーターとして指針となる考え方を教わりました。

ワークショップの準備として、さまざまな状況を想定して、使いうるワークをポケットに入れておくんだ。自分の感覚値だと、当初予定していたワークをそのまま実施するのは3割くらいかな。残りは、場の様子を見ながら、その場で組み立てていくよ

Eddieの言葉

準備をし、ワークをポケットに入れながら、その場で組み立てていく。最初は勇気がいるところもありましたが、参加者の様子や場の流れに応じて最善だと思われるワークを直感的に、かつ、構造的な視点から選択していくことは、よりワークショップに参加する私たちが進みたい方向へ向かっていくような感覚があり、大切にしていこうと感じました。

参加者の感覚:「まず自分が満たされる」ことを大切にする

プレイバックシアターでは、テラーの話を聴き、受けとり、テラーのために演じるという側面があると思います。そのため、私がプレイバックシアターに出会ったときは、「相手のために」「テラーのために」という意識が強くありました。もちろん、そういった演劇がやりたかったですし、その心構え・姿勢は必要なものだと感じます。
一方、その意識が強すぎてしまうと、自分が留守になってしまう感じで、自分とのつながりを十分に感じる機会を持てていないと思うようになりました。
そのような経緯から、「自分とつながる、仲間とつながる」ことを掲げ、まず自分が楽しむ、自分のことを話す、自分の気持ちに気づく、といったプロセスを大切にするようになりました。最初の休憩までのゲームやエクササイズは、自分とつながって、満たされることを目指しています。

言語と非言語:五感をひらく

私自身がビジネスパーソンとして、フルタイムで会社で働いているため、普段の仕事では思考偏重になりがちなところがあります。参加者の中にも、なんだか頭が疲れたなぁ、という方もいらっしゃいます。
その日、その場に集まった方のリズムやエネルギー、どんな風に過ごしたいかといった声を受けとりながら、どんなワークだと心地よいかということを選択しています。
言葉を使って話したり聴いたりすることもあれば、音や動き、温度を感じるといった五感に委ねていくこともあります。
先の「自分が満たされる」感覚に至るようなワークの選択を、言語・非言語の観点からも行っています。

「演じる」ことは、「表現する」ことの延長になるようにする

あるワークショップで、最初のチェックインの際に、「友人に勧められて、演劇っていうこと知らずに来てしまいました…。演じるって思うとすごく怖いです…。」と共有してくださった参加者がいました。
その気持ちや状態を共有してくださったことに感謝しながら、確かに「演じるって怖いことだよな」と共感しました。
私自身も大学で演劇を学び始めるまで、学校の文化祭でしか演じたことはなかったし、プレイバックシアターに出会ったときも、「即興劇か…即興は苦手だなぁ」と怯んだことを思い出しました。
改めて思うのは、「演じる」って特別なことだ、という認識が強いのではないかと思います。確かに、特別なこと・特殊なことと捉えることもできますが、そうではない捉え方もありそうですし、「演じることは特別なことではない」と感じる体験をすることもできるのではないかと思います。
普段から、私たちは何らかの表現をしています。笑うこと、泣くこと、意味深な表情をすること、小躍りすることなど、気持ちと体の動きは関係しています。ですので、ワークショップでも、ゲームをやって遊んだり、ジェスチャーやポーズをとってみたり、音に合わせて動いてみたりすることで、さまざまな表現を楽しんでいきます。すると、考えるよりも、心と体のつながりが強くなり、自然と表現が表れたり、湧いてきたりします。それは、意識的に「演じよう」と考えることの対極にある、力が抜けて、自分・仲間・場に委ねて、自然とその場に「いる」ことだと思います。

そして行き着くところ

結局、はっきりよくわからないまま、書くことを通じて、自分の内側に降りていっているなぁと感じています。
最後のチェックアウトのとき、最初のチェックインのときからの変化として、どのようなことを感じているのか、それが一番場を表しているような感じがするので、その感覚を共有したいと思います。

境目があいまいになっていく

あくまで私から見えている世界、私が感じている感覚になりますが、自分と相手との境目があいまいになっているような感覚があります。
自分もいるし、相手もいるんだけど、輪郭がぼやけて、あたかも一つであるように感じられます。「一体感」というよりも、「ぼやーっと一つ」な感じです。

場に導かれる

今日のこの場は、皆でつくり出した場とも言えるし、この場自体に導かれて、起こるべきことが起こった、という感覚になります。
今日この場に、このメンバーで集まったこと。それも流れの一つであるし、そのなかで語られること、分かち合われること、すべてが今日この場のわれわれにとって必要だったなと感じられる。
偶然でもあり、必然でもあるような感覚は、大いなる何かに導かれる、あるいは、その波や流れに乗っているような感覚でもあります。

人間の力を感じる

表現を楽しんだり、ストーリーを分かち合ったりするなかで、人間の豊かな感情や想像力に感動しますし、
コントロールを超えて、そういった大いなるものとつながっていくことは、人間の神秘というか、人間の持つすごい力だなぁと驚嘆します。
「人間ってすげえなぁ」と、毎回のワークショップ後にしみじみと感じ入り、またそのような奇跡に出会えたらと思い、次はどんな場になるかなぁと楽しみにしながら、次のワークショップの企画をしています。

さいごに

前章で終わろうと思っていましたが、自分の願いが湧いてきたので、そちらを書き留めておこうと思います。

演劇を社会性を持ったものにしたい

演劇をやり始めたときは、見よう見まねで、周りの仲間と意見を出し合いながら、一つのものを創り上げ、観客と分かち合うこと、エネルギー交流することが最も楽しいことでした。
それから、学部の上級生になったときに、私のことをよく見てくださっていた教授から、「Nao、ワークショップをやってみない?」とオファーを受け、学部生向けの演劇のワークショップを開き始めました。この経験が今につながっています。
「演劇はコミュニケーションの結晶だ」と考えていたため、そのような要素を取り入れて実験的なプログラムを実施してみたり、他のコミュニケーション学部の教授にコンタクトして、学部の授業のなかで実施・フィードバックをもらったりしました。卒業プロジェクトも、まさに「演劇のエクササイズを用いた、コミュニケーション活性化のプログラムの開発」を行い、演劇を社会や生活に適用することを意図していました。
演劇が、高尚な芸術として手が届かないものではなく、日常の生活を豊かにするツールとして、より認知され、より活用されるように、体験する機会をつくっていきたいと考えています。

人が集う神秘を追求したい

6年ほど前に、田舎道をぼーっと歩いていたときにふと湧いてきた言葉。
人間の力、場の力に魅せられていて、その現象はもはや説明できない。
不思議で興味がそそられるMysteryであり、人の美しさが垣間見えるBeauty。そういった「神秘」をこれからも味わっていきたい。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
なんだかおもしろそうだなぁ、何が起こるのかなぁと興味が湧いた方は、ぜひ遊びにきていただけたらうれしいです。
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どんな場になるか、見てみましょう~😊