価値観のピポット
なにげなく携帯に保存している昔の写真を眺めていると、5年前のボクシング動画が目に留まりました。
当時の私は39歳で、30代最後の記念としてアマチュアの大会に向けて練習していた時のものです。その動画を見て懐かしさがこみ上げる一方、今の自分との違いに少し喪失感を覚えました。
「44歳のこの体では、もうあの時のようには動けないんだな」と思うと、やはり寂しさが募ります。
特に実感しているのは、反射神経や認知処理速度の鈍化です。例えば、ミット打ちの際、トレーナーの指示に従ってパンチを繰り出す一連の動作が、以前より遅くなっているのが分かります。
頭では理解しているのに、体が思うように動かない。この違和感は30代の頃にはありませんでした。体力や回復力の衰えも顕著で、改めて加齢の影響を思い知らされます。
このままボクシングを続けたとしても、5年前の自分に勝つことはもうできない。そのことに気づいた今、ジムに通い続けるための新しい目標が必要でした。
そもそも、私がボクシングを始めた理由は、海外での護身術としてでした。海外に出た後も続けているのは、他人に舐められないようにするためです。
優しさと誠実さだけで世の中渡っていけるほど、世界は成熟していません。心優しい福祉の世界から飛び出した私にとって、格闘技は、アウェイで生き抜くための心の支えになっていました。
しかし、40代も半ばになり、単純に「強さ」を追求することに限界を感じました。現状維持だけを目標にしていては、モチベーションが続かないと思ったのです。
そこで、ボクシングから少しピボットしてムエタイを始めることにしました。
パンチ中心だったトレーニングで上半身は鍛えられていましたが、下半身はというとカモシカのように細いままです。ムエタイを通じて、上半身と下半身のバランスを整え、健康で美しい体作りを目指すことにしました。
蹴りやヒザ蹴りで下半身も鍛えられるだろうという、非常に単純な発想です。
強さから美しさへと価値観をピボットしたこの考えは、我ながら秀逸だと思います。美しさの基準は人それぞれで、多様です。20代には20代の、40代には40代の美しさがあります。
さて、老後を幸せに生きるためには、加齢とともに価値観を柔軟に変えていくことが重要だと思います。
価値観は、これまでの経験から自然に形成されていくものです。そのため、大きな変化を一気に受け入れるのは難しいです。ただ、軸足を残したままの「ピボット」なら、意識次第でできるはずです。
介護の現場で多くの高齢者を見ていると、価値観をしなやかに変えてきた人と、そうでない人の老後には大きな差があると感じます。介護職として、後者の方々の介護は難しい傾向があります。
いずれ私も介護職の皆さんにお世話になる日が来るでしょう。そのためにも、今から価値観を硬直させず、柔軟に変化し続けたいと思います。
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