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Episode4「女は度胸、男は愛嬌」

「男は度胸、女は愛嬌」という諺はよく知られています。男にとって大事なのは、決断力があり物怖じしないことで、女にとって大事なのは、にこやかでかわいらしい振る舞いだといいます。

しかし、日本では有名なこの諺も、フィリピンでは全く通用しません。なぜならば、決断力があり、物怖じしないのは、フィリピーナ(フィリピンの女性)の方だからです。

私は、フィリピン人看護師が日本で就労するためのサポートを行っています。外国人が日本の病院で働くためには、まず、日本語検定試験で一番上のレベル「N1」を取得し、さらに、正看護または准看護師の試験に合格しなくてはなりません。試験はもちろん日本語です。

このことがどれだけハードルが高いかというと、例えば、私たちがフランスに行って、仏語検定1級を取得し、なおかつフランス国内の看護師試験に合格しなければならない、と言えばイメージしやすいかもしれませんね。

フィリピン人にとって、漢字は意味不明な記号です。しかも、医療用語は私たち日本人でも難解です。もちろん、看護師は人の命を扱う仕事であるため、試験を容易にすることはできません。適切なサポートがなければ、外国人が試験に合格するのは極めて難しいと言わざるを得ないのです。

家族のためにチャレンジするフィリピーナ達

先日、2015年の看護師国家試験合格を目指すべく、8人のフィリピン人看護師を留学生として日本に送りました。約半年間、日本でみっちりと受験対策の勉強をして、来年の試験に臨むためです。

彼らは以前、国の制度を使って日本の病院で研修生として働いていた経験があるので、日本語はある程度話すことができます。半年間必死で勉強すればきっと合格できるだろうと私も信じています。

さて、渡日の早朝、彼らと空港で待ち合わせをしました。半年以上フィリピンには戻れないとあって、看護師たちの家族や親戚が見送りに集まっていました。ちなみに、8名の看護師はみんな女性です。中には結婚したばかりの新妻や、乳児のいる若いお母さんもいました。

彼女らにとって、結婚したばかりの夫やかわいい盛りの子供と離れて日本で暮らすのは、辛い決断だったに違いありません。しかも、就労が保証されているわけではなく、国家試験に合格するという大きなハードルを乗り越えなければならないのです。

それでも彼女たちが日本で働きたいと願う理由はただ1つ。「お金を稼いで本国の家族や親族の生活を助けたい」、それだけです。自分のためにお金を稼ごうと考えている人誰もいません。

見送り集まったフィリピン男性陣たち

一方、彼女たちに付き添って空港に来ている夫やボーイフレンドはというと、奥さんの後ろにぴったりとくっつき、かばん持ちに従事している。

もし、彼ら男性陣がしっかりと稼いで家族を養っていくことができたら、彼女たちもわざわざ大変なハードルを越えてまでして、日本で働かなくてもよいのにと思っていまいます。

しかし、フィリピンではお金を稼げる人が海外に出て働き、せっせと稼ぎを送金して家族を養うのは当たり前のことなのです。

そして、これはよくあることなのですが、女性が外で働いて稼げば稼ぐほど、夫や家族はそれに甘え、だんだんと働かなくなっていくのです。今回の看護師のひとりに話を聞いてみると、以前日本で働いていた時に、夫は仕事をやめてしまい、家で彼女からの送金を待つだけの生活になったようです。

日本人の私からすると、どうしてそんな夫と別れずに、一生懸命稼いだお金を送り続けるのか疑問なのですが、情に厚いフィリピーナは、どんなに甲斐性のない夫であっても、見捨てることなく自らが働き続けるのです。

空港での別れのシーン

空港で、男性陣が妻との別れの挨拶を交わしています。自分の甲斐性のなさを悔やみ、涙を流すわけでもなく、むしろ旅立つパートナーを誇らしげに思っているかのような満面の笑顔で見送っています。

そして、心から感謝した様子で、私に「Thank you」と言ってくれる男性もいました。そんな姿を見ていると、確かに不甲斐ないフィリピン人男性ではありますが、やっぱり憎めないなと思ってしまいます。

「女は度胸、男は愛嬌」

フィリピンでは、こちらの方がはやはりしっくりきます。

Written in December 2013


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