強く風が吹いている（生活には暇が必要だ）

風が強く吹いており満月はきれいに浮かんでおり、すべてはあっという間に過ぎ去り、なんだか夢のようだと思う。
でもそれが今目の前にしっかりと漂っており、それできれいだと思う。
強く風が吹いており、また日は沈み、私はまた眠るだろう。
私は歯が抜けて、口の中が歯でいっぱいになり、それを苦労して吐き出すと、黒い石のような歯と、歯茎くらいの赤色をした歯と、コーンのような黄色の歯と。
それらが手の中にゴロゴロと溢れる。
そんな夢を見て、私は今朝めざめて、その夢の暗示するところをグーグルで検索してみた。
でもそこにはいろいろなことへの（いろいろの中身はサイトによって違ったのだけど）不安を暗示している、という記述が溢れており、とてもつまらない。
前歯が抜けるのは世間体への不安である、と言われて、まあ外れてもいないのだが、当たってもいない。
ストレス、と言われて、まあ外れてもいないのだが、もちろん当たってもいない。
強く風が吹いており、私は庭を走り回る。犬と遊びたくなる。猫とじゃれ合いたい。好きな人と笑いたい。
都市は私の好きなもの（ある種のドラッグ）を常備しているが、草や風を常備していない。その点、田舎はいい。無気力が支配し、インターネットの中の熱狂がバカらしく思えるほどであり、ワサワサと雑草がはびこり、優しい風が吹き、そして強く風が吹いている！
暇なので、私は食べたいモノを思い浮かべようとするが、せいぜい味噌で味付けをした豚肉、あるいは現代日本を代表する食材たるギュウドン、そして、らあめん、くらいから思いつくので、大して暇をつぶせない。じぶんの食に対する想像力の貧困を思う、というほどにもたどり着かない私のロゴス。
人間の真実を知ると、私はとてもではないが宇宙の法則には逆らえないのだと思う。つまりいまの時代を楽しむしかないのだ。とそう思いたい衝動に駆られる。でも、私は宇宙の法則を知らない。だからそれを知りたいと思う。知りたいと、思う。
でも、そんなもの知らなくてもいい。とも思う。あまり知りすぎる必要はない。それに、知りたいと思うけど、その前に焼き鳥を食べたいと思う。このグロテスクな、しかしどうしようもなく自然な、つまり動物的な、つまり宇宙の法則にのっとった欲望を抑えることができない愚かな私を、赦してください。
でも、許しを乞うのも気に食わない気もするのだ。
私は宇宙を食べて生きる。こう書いてみて、とても清々しい気持ちになる。ペトロールズの音楽を聴いている。Reiはその音楽を、無色だと言い、そのコメントを聞いて長岡亮介はうれしいと言った。音楽はいつの世も、いつの夜も、流れていて、私はその一部をたまに聴く。その時に地球の裏側でブラジル人はサンバを踊る。孔雀のような、くねくねと揺れる、激しく揺れる、鍛えられた肉体が踊る。
とても力強い女性が、高い場所で動いているが、意外と動きはシンプルであり、そのトサカのような緑色を基調にした被り物はこまかく震えている。
私はすべてを手に入れる。そう信じることで、それはやっと現実化の可能性を得る。という信仰によって現代社会は発展する。割と信じている。私も。求めよ、さらば与えられん。
なぜかと言うと、世界が一定程度に複雑化し、多様化した今、私の求めるものは、どうにかこうにか、どこかには存在しうるからだ。ただし、それを超えて私は想像力を羽ばたかせたい。そのためにインスパイアするものが欲しい。だが、モノはすべからく商品化されてゆき、貨幣を媒介し始める。すると私は労働をする。だから私は歯が抜ける夢を見ながら目覚めるのである。
人は椎名林檎にアンコールを叫ぶ。
拍手は鳴り止まない。私はむしろ永遠に拍手をしていたいのだが、それは許されることはなく、だから私は他人の表現を探しに行くほかない。
でも、まず自分を救済すればいい。つまり何も考えずに生きていい。
そのために、街には広場が必要だ。頭の中には、空洞が必要だ。森には空き地が必要だ。音楽には間が必要だ。議論には沈黙が必要だ。恋愛には距離が必要だ。食事には管（の囲む空間）が必要だ。生活には暇が必要だ！