「あなたの考える日本の科学の〇〇問題とは?」を振り返って
執筆者:武田英一
(教育対話促進プロジェクト)
この記事は、2024年2月29日に実施した『「あなたの考える【科学の○○問題】とは?」ワークショップ』の振り返り記事です
1 背景と目的
ヤマシタトモコさんの漫画『違国日記』に「誰でもがまるで違う国の言葉で話していると気づいたのはもっとずっとあとだった」という主人公の独白がありますが、同じ国の言葉で話しているはずなのになぜわかりあえないのかという経験をされている方は、きっとわたしだけでないと思います。
日々のやりとりでさえそうですから「科学」や「教育」といった多くの人がかかわる事柄につき、そこで発される言葉をどう捌き、煮詰め、あるいは消化すれば、お互いにとって実りあるコミュニケーションとなるのか。企画「あなたの考える日本の科学の〇〇問題とは?」は、そんな試行錯誤のひとつでした。
この企画の目的は「日本の科学や科学教育について、個々が抱える課題感を共有し対話する場を作ること」でした。その方法として、日本NPOセンターさんが開催されていた「課題ラボ」(https://qadailab.jnpoc.ne.jp/)に着目しました。
課題ラボは、NPOが日々向き合うリアルな課題を集め、みんなで解く仕組みをつくれないかという思いのもとに生まれた、課題共有・対話・方向性を探るための手法です。JAAS入会前の2022年、ある課題ラボのセッションに参加したとき、多くのNPOが直面する問題をユニークな切り口で共有しようという姿勢に心動かされました。それが企画の背景です。
2 実施の手順
課題ラボを実施する具体的な手順は、アンケートの作成、編集会議、ワークショップの3つです。
まずはアンケートです。昨年8月「あなたが考える日本の科学の『 問題』」というアンケートを作成し、JAAS会員の皆さんに回答をお願いしました。この段階で50個ほどの「〇〇問題」が集まりました。
そして、編集会議です。集めた回答はそのままワークショップには使いません。というのも一つ一つの回答は情報量や感情の質といったものが全然違うので、ただ列挙しただけでは回答の寄せ集め以上の印象を与えられないからです。その回答の持ち味を生かしつつ、他の回答の味わいも引き出せるよう工夫しなくては深い共有はできません。多数の人から寄せられた言葉を、ひとつの共有の場に向けて推敲するのが編集会議の仕事です。
最後に、ワークショップです。まずは完成した「〇〇問題」をどんどん読みあげていきます。その後、参加者で強く関心をもった「〇〇問題」に投票したり(SlidoというWebサービスを使いました)、それぞれの問題について自由に発言していきました。昨年11月のワークショップと今年2月のワークショップで、合計30名ほどの方に参加していただきました。
3 企画を通じて得られたもの
まず、編集会議を通して気づいたことがありました。それは科学や教育といった社会的な問題を扱うとき、他責的な語りが用いられやすいということでした。
「他責」は「自分以外の人や状況に責任があるとして、とがめること」と辞書にあります。たとえば、国の予算が足りない、社会の関心が薄い、学界の権威主義のせい、といった言葉で語られるものが、他責的な語りです。
思えばたしかに、社会問題にはそういう面があります。自分が生んだ問題ではなく、かつそれによって自分が苦しめられているからこそ、社会問題と言えるわけです。
しかし、いつも他責的にばかり考えていると「自分にできることはないか」という問いを忘れがちなことも確かです。
課題ラボは、ある大きな社会課題を自分たちが「これなら扱える」という問題に小分けすることに意味があると日本NPOセンターの三本さんが仰いました。自分たちの行動をどう変容させるかが大事だと。
では、自分たちの行動に変化はあったか。現在進行形ですが、日本NPOセンターさんのような外の団体との関係を深めたり、JAASの中期目標に課題ラボの手法を応用する試みがされたりということがありました。それらは小さな変化かもしれませんが、何らかの変化であったと思います。
4 今後の課題
以上が、本企画の概要とそこから得たものについての報告です。
今後の課題としては、上述した課題ラボの趣旨をアンケートの段階からもっと伝えるべきだと思いました。それによって、他責的になりがちな回答に変化があるかもしれないからです。
また、研究にまつわる問題提起が少なかったという指摘もありました。これは、今後どういう層にアンケートをお願いするかということと関わると思います。
5 謝辞
最後に、企画の打ち合わせ段階からワークショップに至るまで全面的にご協力いただいた日本NPOセンターの三本裕子さん、企画をともに作り上げてくれた教育対話プロジェクトのメンバー、そしてアンケートに回答いただいた会員の皆さんとワークショップに参加していただいた方々すべてに、心より御礼申し上げます。