見出し画像

裏磐梯・五色沼を巡る

 凍ったサロマ湖をXCスキーで横断し、流氷を見るというツアーに一緒に参加した息子が「歩くスキーなんて面白くない」と言う。確かに、素晴らしい体験ではあったが、景色にあまり変化がないのでクロスカントリーの面白さには欠けていた。「本当はもっと面白いんだ」と言いうと、「それじゃあ、本当の面白さを見せてよ」と挑発する。そこで、私自身も一度行ってみたいと思っていた裏磐梯へ連れていくことにした。
 東京の実家で一泊し、翌朝早く車で発つ。三月は東京ではもう春だが、東北自動車道を北上すると霙がちらついて、福島県に入るころには完全に雪になった。昼頃に裏磐梯に着き、国民休暇村の常設コースで足慣らしをしてから、予約しておいたペンションに入る。
 食事の後、ペンションのオーナーに明日のコースを相談してみた。顎髭を生やした陽気なオーナーは、息子にクロスカントリーの面白さを見せたいと言うと、早速地図を出して、おすすめのコースを選んでくれた。
 朝、車を国民休暇村の駐車場に入れて、自動販売機で缶ビールを買う。寒いところを歩くのだから温かいコーヒーなんかが良いみたいだが、実は違うのだ。歩いていると結構汗をかき、のどが渇く。そんな時はやはりビールが一番。雪に埋めて冷やしてから飲む味は何とも言えない。
 昨日練習したコースを横に見て、道路沿いをしばらく歩くと「白樺展望台へ」の標識があり、林間に入る。多分遊歩道なのだろう。雪に覆われて道かどうかわからないが、先行者がいるようで、スキーの跡が付いている。さらさらと水の流れる音がして、川があった。その川に沿ってしばらく歩くと、少し急な登りになる。てこずっている二人の若い女性を追い越して登りつめると、そこが展望台で、凍った桧原湖が見える。あずまやがあって、数人がスキーを脱いで休んでいた。さっき追い越した二人もその仲間に違いない。われわれは歩きはじめたばかりなので、休憩をとらずにそのまま桧原湖まで下る。岸辺から凍った湖面に出て、中央部をめざした。ワカサギ釣りのテントが点在し、スノーモービルが走る。サロマ湖で見たのと同じような光景だ。湖のほぼ真ん中に出たところで小休止。こんな遮るものが何もないところで、もし行きたくなったらと、トイレの心配をしながらも、缶ビールでのどを潤す。そこからは磐梯山の方へ向きを変え、五色沼の入り口までひたすら氷上を歩く。
 岸に上がり、湖畔の食堂で昼食。いよいよ五色沼巡りだ。歩きはじめてすぐ、青沼に出る。凍っていない部分は確かに青い。木々の間を縫うように歩いてルリ沼。そして、大きな弁天沼を半周ほどすると登りになり、また下がる。道が狭いので、下りは慎重になる。時には、傍らの木がのばした枝をよけるために、腰を屈めて滑り抜かなければならない。テレマーク姿勢をとると安定するので、息子に教えてやると、若いからかすぐに要領を覚えて、面白がってやっている。やがて小さい沼がいくつか見え隠れするところへ出た。赤錆びたような色の水を湛えるのは文字通り赤沼。まさに五色沼だ。一つの沼でも水面に微妙な色の違いがある。
 そこから道はまた登りになり、まもなく大きな沼が眼下に広がる。コース最後の毘沙門沼だ。ユースホステルの脇を抜け出たところがホテルの駐車場で、ここが五色沼巡りの終点。スキーを脱いで道路まで歩き、バスで国民休暇村に戻る。
 帰路、ちょっと回り道をして、喜多方へ。言わずと知れたラーメンの町だ。街道沿いの真新しい店はパスして、古びた食堂に入った。中途半端な時間なので、他に客はいない。お婆さんが一人いて注文を聞く。かなり待たされたが、出てきたラーメンは「うまい!」の一言に尽きる。ラーメンどころ東京の荻窪はもちろん、北は札幌・旭川、南は博多・熊本と、いろいろ食べたが、もう一杯食べればよかったと後悔したのはここだけだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?