見出し画像

岡村靖幸『操』

『幸福』から四年ぶりのフルアルバム『操』が届けられた。『操(みさお)』とはどういった意味で用いているのか、メディアへの紹介文としては以下のように述べられている。

『操』とは、自分の意志、主義を貫いて、誘惑や困難に負けないこと。貞操。上品で雅やかなこと。常に変わらないこと。様々な意味がありますが、そのベースにあるものは、一貫しています。

このタイトルの意味も頭の片隅に置きつつ、その存在を忘れつつ、各楽曲の、そしてアルバム全体への雑感をまとめていく。

1. 成功と挫折

太いッッ!!音がもうめっちゃブットい。重心低い重厚なミドルテンポのグルーブで突っ走ってる。その最中挟まれる「コンコンコン」というカウベルの音が浮いてきて気持ちいい(TR-808かな?)。
そしてこの曲の大きなトピックといえば、ギターでの小山田圭吾の参加だろう。ギターソロは間奏と後奏と二回設けられていて、いずれもガッツリ弾き倒している。彼のギターの音を意識的に聞いたのはMETAFIVEの音源からで、フレーズの特殊性については分からないが、音が超気持ちいいギターだという印象がある。

岡村靖幸のギターと言えば、ライブのオベーションでパーカッシブに弾く印象が強いのでピロピロと弾くのは新鮮さがあった。

歌詞の中では「あり金もハリガネも花びらも触り方しだいさ」というフレーズが特に素晴らしいと思った。「触り方しだい」と言うのはそれぞれ以下のことを指すのだと捉えた。
「あり金」→お金の使い道は色々あるということを示している。
「ハリガネ」→針金は曲げようで如何様にも造形可能なため、クリエイションの可能性が無限であることを示している。
「花びら」→えーと、これは、セクシースナイパーの歌詞から言葉を借りると「性にまつわる問題」のことではないでしょうか。。。
韻もおさえながら、一節で語りきるスゴさよ。


2. インテリア

これまで聞いてきたことのない感じの曲!あれっぽい、というのも今の段階では出てこない!文字で伝えられないの悔しい。。
前の曲より音は軽めでテンポも上げており、Aメロのボーカルは小気味よく言葉を転がすような歌唱をしていることもあり、ヒューッと曲が飛んでいく印象。しかし、アウトロで「ダッダッダッ!!」と繰返しキメをつけるタームがあり、そこで強い引っ掛かりを生んでいる。

「もっと顔を寄せてみて」「聖なる蜜を生みだしてごらん」のようにリスナーに呼びかけるような言い回しが使われているのは、「ビバナミダ」で西寺郷太アニキにアドバイスしたようなものだろう。

そして、何つっても、この曲から次曲へのつなぎの良さったらない。曲間のブランクが除かれたアルバムの流れの中でも一番気持ちいいポイントだと思う。


3. ステップアップLOVE

シングルとは異なりDAOKOの「現実を引き裂いていけー」というウィスパーを助走に曲に入っていくようなアレンジが施されている。
ホントグッドコラボレーションだったなあ。ウルトラ濃い味の岡村靖幸の歌声とDAOKOの細い声とのマッチング具合ったらない。

作詞はどこまでが誰によるものかはっきりしないものの、「まだ15の子くらいの大切な心」「弊害害ないより燃えちゃうよね」「頑張ってる姿 同様」のメロディーに乗った時の気持ちよさ、つまりデリバリーの良さったらないよなあ。

最後のサビ前のダフトパンクオマージュみたいなものが、「少年サタデー」に繋がってるのかなと思いつつ。

4. セクシースナイパー

イントロから太いベースでグイグイ引っ張る(何故だか山下達郎が頭に浮かんだ)。韻を踏むのとは異なる、硬質かつもっとフィジカルの屈強な井上陽水みたいな歌詞の歌い回しでうねらせていく歌い回しが何ともエロかっこいい。
「最近はどう?」と問いかけ「寂しいの?わかってるよ」と理解を見せる姿~!やるな~!

ここでイメージされる女性は壇蜜で。対談もしてるし、何といっても「エジプシャンな猫も反応してる」という一節。壇蜜の愛猫久石(クインシー)はスフィンクスという何とも「エジプシャンな猫」なのだ。


5.少年サタデー

全体の印象は「ラブメッセージ」的で、ベースとホーンの存在感が強い。前の曲での重めの雰囲気を振り切るような明るさを持つ楽曲。
サビの「ほのかに燃えてる~」の所が、少し小沢健二の「流動体について」の歌い回しを思い出す感じで好き。サビへのドドーンと来る入り方がスペクターサウンド的なドラム?ティンパニ?の音がするのもイイ。

で、「ステップアップLOVE」のダフトパンクに引き続き、アウトロのEW&F「september」よ。「分かりえない~」の所で、カメラのシャッター音や指のスナップ音といったような色んなサンプリング音が挟まれるところも含め、ヒップホップ的な意識によるものなんだろうか。

歌詞は「『これまで』の自分は今の自分の中に確実に存在し、それも含め現在の自分であり、『これまで』の自分の存在も大事にすることも必要」だということを歌っているのだと思った。


6. 遠慮無く愛してよ

全編裏声での歌唱によるバラード。前作『幸福』にはバラードらしいバラードは収録されていないため、久しぶりのバラード曲に感じた。これもまたカバー集にあるからか、パッと聞いた時に大橋純子「シルエット・ロマンス」が頭に浮かんだ。少なくとも、「イケナイコトカイ」的なドラマチックな大型のバラードソングではない曲となっている。

サビの「遠慮無く愛してよ 彷徨う都会の2時なら レストランで話しても 最果ての孤島にいるようなあなた」というフレーズもイイ…。実際はテーブル挟むくらいの距離なのに「最果ての孤島」くらいの距離感を感じているという。だから「Girl」とか「baby」とか「きみ」とは呼ばずに「あなた」という距離のある言葉を用いてるのではないか。
『靖幸』収録曲に「愛してくれない」という、「君」から愛されないことを歌う曲があるのだけど、今の岡村靖幸は「何で愛してくれないんだ!」とは不満を露わにせず、「遠慮なく愛してよ」と手を広げて構える大らかさを備えている。


7. マクガフィン

 打ち込みだけでなくバンドサウンドも、指のスナップとかもと『Me-imi』収録曲のような音の詰まり具合でありながら、「新時代思想」的な感じで整頓されつつ、いやもー、どーなってんだ。トラックがもうムッチャカッコええ。
岡村靖幸歌唱パートは、音の響きに対してどういう言葉を当てるか、というタナソーさん言う所の「デリバリー」の面での良さがバッチシキテる。「がってんしょうちな」「罠だもん」とかの滑らかさったらない。
ライムスターのお二人のラップも冴えわたってるけど、やっぱMummy-Dのパートよなあ。ハンパないわ。

8. レーザービームガール

ドッドダッダ、ドッドダッダというリズムで進んで行くなんともポップで可愛らしい印象の曲。「流れ星に誓えば二人でリング買いに行けるかな?」ってな調子で。でもよく聞くと、変だな、と思う所がいくつかあるような?可愛らしいようで音はかなり太めだし。
まず、イントロでハンドクラップが鳴らされるのだけど、2回に1回、指のスナップ音が重ねられているような…?どういう効果が…より高くて乾いた音に聞こえて、華やかになるように?
また、サビでのボーカルの重ね録りの仕方が独特と言うか、普通にダブルで重ねるのではなく、エフェクトが強くかかった声を重ねてる(重ねてエフェクトかけてるのか?)点も流して聞くと引っ掛からないけれど、聴きこもうとすると不思議に感じられた。

9. 赤裸々なほどやましく

のっけから「3+6みたいに10から1引きゃ9になるから」と、「CRAZY×12-3=me」にも通ずる歌詞に登場する計算式よ。それに「幅広く浮かんだイメージ描こう」と続けるのは、岡村靖幸が楽曲制作に際して、一曲のアレンジとして色んなパターンを試す、という姿勢(ベボベのラジオ番組に出た時に語っている)にも重なるものなのではないか。つまりは「正解」に向けてのルートは様々あるから想像力を生かして色んな方法を試して行こうよ、的な。

オベーションギターを弾き語っている姿もイメージできるミドルチューンとなっている。穏やかな歌い回しが中心となっているが、Bメロの「今流れ出る雨も涙も果てるの?」「きっとたえまなくいとなまれるはずでしょ」の歌い回しが特徴的。一音一音をつなげるような?歌い回しをしている。「きっと~」の方は何故だかひらがな表記になっているが、表意文字である感じより、表音文字であるひらがなの方が歌のニュアンスが伝わってくるような感じがした。

「やましく」というワードから「やましい たましい」という楽曲があったなーと思ったり、「赤裸々」というワードからサッズの同名曲が頭の中に流れてきたりしつつ。


○アルバム全体の印象

全体の流れとして、序盤の高い熱量をどんどん体に馴染ませていくような、汗をかきすぎないような感じを受ける。だけども、音はムチャクチャ太く屈強だという。そのスタイルは前作『幸福』含め10年代の復帰後の姿を踏襲したものだと言える。

「ステップアップLOVE」や「少年サタデー」でのオマージュに加えて、カバー集『思い出白書』の収録曲からもうかがえる影響元からのリファレンスが、厳密に各曲ごとに「この曲はこの曲」とまではいえないけれど前作以上に作品に現れているような気がしている。

岡村靖幸の楽曲全体に言えることだが、「君(基本的に女性)」に対して真摯にあろうとし、面と向き合おうとし、誠実であらんとする姿勢が歌詞に現れているように感じた。それは「童貞感」や「こじらせ男子」みたいなチープなコピーに矮小化してほしくない。。現れ方は似てるかもしれないけれど。

やっぱ完成度としてはムチャ高くてアガった。だけれども前作に続き音がマキシマム過ぎるので(それもムチャカッケエのだけれど)、スッカスカな音作りの曲とか、久々に長めの語りの入った曲とか、生音中心のものも新曲として聴いてみたくもあるな~と思ったりもしてしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?