コロナ失業してラブホ清掃やってる人に会ってきた話
イソップ童話「アリとキリギリス」の話を覚えているだろうか。夏を謳歌したキリギリスが冬になって寒さと飢えに苦しむが、これまで必死に備蓄に勤しんできたアリにはロクに相手もされない。
努力しなかったキリギリスの自業自得なのか?それとも友達を見捨てたアリは思いやりのない自己中なのか?
もうじき新型コロナとともに2度目の夏を迎えるわけだが、国内の完全失業者数(季節調整値)は4月時点で194万人。前月比で14万人も増加しているのである。
2021年の現状は大半の人にとってまさに冬の時代。前年よりいくらか持ち直したとはいえ全く理不尽な話である。
なんの前触れもなく未知のウイルスに生活の全てを壊された怒りと悲しみを一体どこにぶつければいいのか。いきなり非日常がやってきて2年も居座っている現在、コロナによって日常を奪われた人々はどのような生活を送っているのだろうか。
取材相手である白秋氏(@Nulls48807788)は23歳。Twitterのフォロワー30,000人以上を抱える都内在住の男性だ。
彼は理系の大学を2週間で中退(原因は興味のミスマッチ)後、飲食店で2年、IT企業で2年勤務した後コロナ倒産で失職する。
ITといえば花形のイメージだが、実際にはピンキリだという。
「僕がいた会社は下請けの下請け。仕事もシステム開発じゃなくアプデやマイナーチェンジがメインでした。だからコロナ禍で対面営業ができなくなって新規の客が止まると真っ先に切られたんです。2020年の5月に失職してから、転職しようにも経験年数の浅さやスキルの応用の効かなさが足枷になって思うように働き口が見つかりませんでした。」
前職の人間は連絡を取り合う仲でもないし、他業種も全滅。頼れる実家もないのでUberEatsなどで日銭を稼ぐ日々が続いた。
「朝起きた時が1日で1番絶望しますね、また今日が来たって。知人に誘われて新聞の営業バイトをやってみたんですけど、高齢者を騙すのに良心が痛んで辞めました。『家庭を養うために購読料を稼がなければいけない』『大学の奨学金を返済したい』といって泣きつくと温情で買ってもらえることがあるんです。ひと月で80万稼いだこともあるんですけど、自己嫌悪になってやめました。全部終わりにしたくて横須賀の海に飛び込んだけど結局生き残っちゃって。今でもナチュラルに死にたいとは思ってます。」
↑(取材地のにあった地下トンネルの落書き。どこか壊れてしまったような子どもたちの眼差しに第6感がゾワゾワした)
そんなある日、家の近くにラブホの求人を見つけた。
「性風俗に興味があったわけでも、特殊な性癖があったわけでもないです。たまたま目にしたのがラブホの求人で、僕は食べるために金が必要だった。ただそれだけです。」
ラブホの清掃は、むきだしの欲望の跡とひたすら向き合い続ける仕事。
「朝10時に出勤。1時間の休憩以外はほとんど掃除で1日が終わります。とにかく汚すやつは汚したいだけ汚して帰っていくんですよ。テレビやソファ、トイレに至るまで部屋中が排泄物と酒で濡れて、マットレス自体を交換する羽目になったこともあります。アメニティのコーヒーを湯船に溶かしたりプッチンプリンを枕元に“プッチン”して帰りやがった客もいるくらいですね。あまりにも問題がある客は廊下やフロントの監視カメラから特定して出禁にするんですけど、働く側もこういった汚物処理でやられて結局飛びがちなんです。この仕事を続けられるのは奇跡に近いですよ。」
体力勝負・精神勝負な仕事なのだ。同僚は外国人かおばさんおじさん。ベトナム人の同僚などは前述の放置されたプッチンプリンを美味いからと食べていたらしい。
民度が終わっていると言ってしまえばそれまでだが、どこか清々しい人々であると筆者は思った。
「常連は週に何度も来るからすぐ覚えちゃいますね(笑)。腰が90度近く曲がったご老人が贔屓にしてくれているし、No. 1風俗嬢も来ました。色んな社会階層やバックグラウンドを持った人間が集まってくる場所だから、大抵のことには驚かなくなりますよ。でも廊下に漏らされた時はアンモニアの匂いが尋常じゃなくて、シフト中に窓を全開にしてマット全部張り替えました。客が途切れてる間に大急ぎでやったからヒヤヒヤしましたよ。」
コンプラ上掲載できない詳細については、白秋氏のnoteを参照のこと。
毎日が奇想天外なことばかりだが、なんだかんだで飽きない職場だという。彼は激動の1年を通じて、いったい何を感じたのか。
「コロナ以前からそうなんですけど、人生は《自助》だということですね。僕は常に他人と対等でいたいから、同情の入った支援が欲しい訳じゃない。いくら困っていても『助けてやった』という認識を持たれるのはストレスです。親兄弟・友達とも連絡は取りますけど、別にカネの無心はしません。他業種の誘いも来たんですけど、結局ほとんど断ってます。僕は僕の裁量でしか稼がないし食べていくつもりもないんです。こんな状況ながら、色々掛け持ちしてなんとかやっていますよ。確かにコロナは未知の災害だったけど、今となってはきっかけに過ぎないですね。」
感染症で生活が180度変わってしまう未来なんて誰も想像できなかっただろう。備えあれば憂いなしと言うが、時として自然はその動力源を根こそぎ奪っていくことがある。
蟻もキリギリスも想像力が足りない。自力救済の精神を捨てて他人の善意に寄りかかるのは間違いなく迷惑な話だが、手を差し伸べる余地の全くない社会というのも味気ない。全員が共犯だし、全員が被害者だ。
そういう時、どんなコンテンツでも人でもいいから、自分を奮い立たせる何かがあれば救われるのではないだろうか。実際、白秋氏は日々ストリーミングサービスを利用して好きな音楽に触れることで英気を養っている。
そういう時、自分で原動力になる何か…どんなコンテンツでも人でもいい、見つけることができたらそれが這い上がる第一歩になるのではないか。実際、A氏は音楽でバイブスをあげて日々をやり過ごしているという。
「白人が台頭する前の80年代くらいのヒップホップが1番好きですね。シューゲイザーとかメロウな感じも。」
白秋氏は現在、別名義で書籍を出す予定があるそうだ。物書きとして食べていけるのか実力を測るため、あえて宣伝はしないという。
音楽や文学は些細なものかもしれない。しかし何かに行き詰まってしまった時こそ、立ち止まる価値を教えてくれる。
根本的な救いにはならないかもしれない。だが重要なのは、身体の怪我は回復しても心はひとつしかないということだ。体が丈夫とは言え、心だって動かさなければ錆びてしまう。誰にもわからないその孤独や悲痛を、まずは自分自身が抱きしめてあげてほしい。
自分とさして変わらない年齢の人が社会と感染症の狭間で苦しむ様はかなりリアルである。今回の取材を通じ筆者も将来への不安が掻き立てられた。
最後に、弊学では新型コロナの影響による生活への支障を鑑みて給付型奨学金の募集が行われている。生活や勉強に不安のある学生は、気軽に学部事務室などに相談してみてほしい。
中央大学給付型奨学金リンク
※新規募集の締切は2021年6月18日まで
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