占い師が観た膝枕 〜大晦日の特別な夜編〜
※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】から生まれた二次創作作品です。
今井雅子作「さすらい駅わすれもの室」のシリーズの中に「本読む彼らのおとし玉」という話があります。
ここに出てくる「占い師の先生に聞いたら、あそこに行けば何とかなるんじゃないかって言われたもんでね」の一文を見て、それならば、その経緯となるストーリーを書こう!と、思い立ってしまいました(笑)
◉占い師が観た膝枕〜マメな膝枕編〜の内容も少し絡んでおります。
一緒にお楽しみください☺️
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出てくる登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️
できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)
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サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕 〜大晦日の特別な夜編〜」
年末の商店街。
業種関係なく、店の軒先で正月飾りやお節料理の素材、箱みかんなどが並び、お祭りのような盛り上がりをみせていた商店街も、大晦日の夜はガラリと雰囲気が変わる。
一年の中で、一番静かな瞬間。
ポツリ、ポツリと灯る店の灯りもとても静かで。むしろ、家庭の灯りの方が強く暖かい。
占い師は、そんな不思議な空気感を楽しみながら、ひとり、静かな灯りの中にいた。
「せんせぇー!いますかぁ!」
そんな静寂を打ち破る甲高い声。ヒサコだ。
両手にたくさんの荷物を持っていて、『あれぇ?年末年始は毎年連休してますよね?…まぁ、いいか』などと言いながら体を横にして荷物を押し込んできた。
「そこのコンビニで買いたいものがあるんですけど、この大荷物じゃ入りにくくて。少しの間だけ荷物を置かせてください」
よいしょ!と、両手の荷物を入り口の隅に置くと、背負っていた『男の腰から下が正座した形で座っているおもちゃのようなもの』をゆっくりと椅子におろした。
占い師はそれが「膝枕」だということを知っている。
「じゃ、すぐ戻りますから!」
ヒサコが出ていくと同時に、椅子の上の膝枕が「すみません」と言うように膝頭をキュッと合わせた。そして、カタカタと小刻みに動きはじめる。
「確か、マメちゃん。でしたよね?」
占い師が声をかけると膝枕は一瞬動きを止め、「はーい」と言うようにグイと片方の膝頭を上げた。そしてまた、カタカタと動きはじめる。
「マメちゃん」
ピタ。グイ。…カタカタカタ
「マーメちゃん」
ピタ。グイ。…カタカタカタ
占い師の口元が一瞬緩んだが、扉が開く音と共に咳払いをしながら慌てて顔を元に戻した。
「先生。お久しぶりです。今日はありがとうございます」
ヒサコではなかった。
重い足取りで入ってくる。それも一人ではない。二人、三人、それ以上。これまた人ではない、動物でもない。その七人は薪を背負い、本を読む姿の『二宮金次郎の銅像』だった。
「どうしても年内に、と、みんなが言うものですから」
七人の金次郎からほんのり漂ってくる鰹出汁とワサビの残り香から「年越しそば」と言うワードが占い師の脳裏に浮かぶ。
絶対、今、年越しそばを食べてきた。
「ジェン金さん。お久しぶりです」
占い師は、斜め前の蕎麦屋の混み具合を確認しながら、『どうぞ』と、七人の金次郎を中に通した。
ジェン金、というのは、金次郎禁止令によって全国津々浦々から集められた銅像が集まる『金次郎パニッシュルーム』で広報活動をしている金次郎のことだ。ジェンダー事情に詳しいことから、ジェンダー金次郎と呼ばれている。
ジェン金は、とある悩みを抱えていて、何回かここに相談に来ていた。いわゆる常連さんだ。
「ノーボールの件ですね?」
ザッツライト。と、リーダー格らしい金次郎がジェン金を押し退けてテーブルの上にあった受付票を手に取る。
入り口の椅子に座っていた膝枕が、急に左右の膝頭をバタバタと動かしはじめた。どうやら驚いているようだ。その様子を、違う金次郎が本の形をしたビデオカメラで面白おかしく撮っている。
「ちょっとぉ!何事?マメちゃんが意味不明のメッセージばかり送ってくるから、なにかと思えば」
勢いよく入ってきたヒサコが、膝枕に向けられたカメラのレンズを手のひらで押さえながら、慌てて膝枕を抱き上げる。その拍子に豊満な胸が膝枕の上に乗り、谷間が強調される形となった。
「オーマイゴット!なんて立派なボールなんだ!」
七人の金次郎の目は、そんなヒサコの胸元に釘付けだ。
「はぁ?なに言ってんの。これ、ボールじゃないし」
「そうですよ!それに、この方は女性です。完全なるセクハラですよ!」
ジェン金が間を割って押し入り、申し訳なさそうにヒサコに頭を下げた。抱き抱えられた膝枕はその場でカタカタと動いた。ヒサコにメッセージを送信したようだ。
「なるほどね。金次郎の銅像って、ノーボールなんだ。知らなかったー。…で、それで困ったことあるの?世の中がひっくり返ったりした?」
七人の金次郎は同時にかぶりを振る。
「それにしても、大きさも重さもジャストフィットで、右も左も揃っている。なんて羨ましい」
「そう?私の自慢は胸じゃなくて膝なんだけど」
そんなヒサコの言葉を聴いているのか、聴いていないのか。女には上にボールが二つついているのだな、などと、金次郎たちは本をめくりながらワイワイ話している。
「おいおいおい。女のボールを羨ましがるだなんて、お前らそれでもキ◯タマついてんのか?」
威勢の良い金次郎がそう言うと、調子の良い金次郎が「ついてねぇ。あー、ついてないアッシたちは本当についてねぇ」と続き、ヒサコは「うまいっ!座布団一枚!」と笑いながら叫んだ。
六人の金次郎は顔を見合わせて笑いを堪えている。真剣な顔をして落ち込んでいるのはジェン金だけだった。
占い師は他の六人の金次郎と目を合わせ、軽く頷くと、
「そういえば、この先の駅にわすれもの室があるのですが、そこに忘れ物のボールがたくさんあると聞いたことがあります。行ってみてはいかがでしょう?」
と言った。
「あー、知ってる。『どこかに何かをわすれた事さえわすれてしまっている人がいる』って。…そうか。もしかして、なくしたことを忘れているだけかもしれないわね!」
ヒサコも占い師と目を合わせて軽く頷く。
「さっ、そうと決まったらさっさと動きましょう!年が明けちゃうわよ!」
ヒサコは器用に帯紐で膝枕を背負うと、
「私も駅の方向に行くのよ。途中まで荷物持ってくれない?」
と、金次郎たちに荷物を渡しはじめた。
背中の膝枕が占い師に向かって片方の膝頭をグイと上げて見せる。
帯紐で更に強調されたヒサコの胸元に尊敬の眼差しをむけた金次郎たちは「へい!姉御!」「姐さん」と口々に言いながらヒサコの後に続き。
列をつくりながら暗闇の中に消えていった。
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