占い師が観た膝枕2 〜タワシ膝枕編〜
※こちらは、脚本家 今井雅子先生が書いた【膝枕】のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。
このお話は、
今井雅子作『信じる者は救われる⁉︎─熱量10割の男・新島「タワシ膝枕はあの日のタケシ君です!」の巻』
に繋がるかな?という話しとなっております。
占い師が観た膝枕 〜熱量7割の男編〜 に出てくる男も登場します。
(ここでは、熱量10割の男・新島は、熱量7割の男とは別にいる設定になっています)
こちらの二作品を読んでからお読みいただくと、更にお楽しみいただけます✨
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登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️
できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)
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サトウ純子 作 占い師が観た膝枕2〜タワシ膝枕編〜
まだ、梅雨もあけていない7月。
強い日差しで周りの景色が陽炎のように揺らいでいる昼の13時。
窓枠に映る日傘が、日差しを跳ね返しながらクルクルとすれ違う。占い師は、冷房の効いた涼しい部屋の中で、それらを他人事のように涼しい顔をして眺めているのが好きだ。
今日も、そんな一日になるはずだった。
『ね。ピーちゃん』
占い師はため息をつきながら、横に座っている、ぬいぐるみ膝枕に視線を送った。
この、女の腰から下しかない、オモチャのようなもの。占い師は、それが「膝枕」だということを知っていた。しかし、ピーちゃんは、ノベルティで送られてきたオマケなので、プログラミング等の機能は搭載されていない。ただのフワフワのぬいぐるみだ。
なのに、それに対して、膝頭をガクガク震わせて警戒している膝枕が目の前に座っていた。
見慣れた白い膝の子ではないことは、一目瞭然だ。なぜなら、その膝にはゴワゴワした茶色の毛がついていたからだ。
「先生!聞いてくださいよー」
正面に座っている暑苦しい男。熱量7割の男だ。
「これ、どう見てもタワシって読めますよねー。この写真もブレブレで、モノがなんだかわからない」
男は、身を乗り出して一枚の紙と写真をテーブルに置いた。確かに、占い師が見ても、男の言い分は充分納得できる内容だ。
「でも、タワシ膝枕って、普通ありえないじゃないですか。だって、タワシですよ?あのタワシに頭を預けようだなんて、そんな人、います?」
占い師は、男の髪型と膝枕を交互に見ながら、一緒口元を緩ませた。が、小さく咳払いをして、すました顔でカードを混ぜはじめる。
「おかしいな?って思って、よくよく写真を調べてみたら、ほら、ここに足みたいのがみえるじゃないですか。たぶん、これ、動物なんですよ」
占い師は、並べたカードを返しながら『犬、のようですね』と、読み解いた。
「でしょー?で、お客さまに確認した方が良いと思って。その前に製造をストップさせようと、慌てて開発部に行ったんですよ。そしたら、もう、こいつが出来上がっていて」
男は小さくため息を吐くと、横目でチラッと膝枕の方を見た。膝枕はまだ、震えている。
「あ、こいつ。人見知りなんすよ」
あ、イテテテッ!と、男は痛がりながらも膝枕の膝頭をポンポン優しく叩いた。膝枕はホッとしたように力を抜く。
「開発部の奴ら、なんていうのか…ほら、技術者って変わっているから、全然疑問に思わず、むしろあれこれ手をかけて作ったらしくて」
男はネクタイを緩めながら椅子の背もたれに寄りかかると、片手を上にあげて、ひとつ、大きなのびをした。腕にしていたゴツい腕時計がチラリと見える。
「で、膨大な経費がかかりまして…もう、後には引けないんです」
やんなっちゃうなー。と言う男の声に被るように、行政防災無線放送が突然、遠くに鳴り響く。どうやら、光化学スモッグ注意報が発令されたらしい。
そういえば、窓枠に映る日傘も少なくなっていた。皆、涼しいところに避難しはじめたのだろうか。
しかし、涼しいところにずっといた占い師は、目の前にあるゴワゴワの茶色の毛が生えた膝枕を見ながら、なぜかヤマネ商店のコロッケが食べたいと思っていた。
「でもコイツ、結構可愛いんすよ…あっ!イテテテッ」
男の言葉に反応して、膝枕は甘えるように男の膝にピョンと飛び乗る。確かに反応が犬のようで可愛い。しかし、痛がりながらもそれを喜んで受け止めている男も、なかなか可愛い。
「コイツなら、絶対気に入って貰えると。ほら、ハリネズミ飼っている人もいるじゃないですか」
それとは違うだろ。と、心の中で軽くツッコミながら、占い師は残りのカードを表に返した。
「カードには『救世主現る』と出ています。火や戦車のカードが並んでいるので、熱い人かもしれません」
占い師は、ピーちゃんを膝枕の近くに座らせた。膝枕は最初は恥じらっていたが、そのうち男の膝から飛び降りると、喜んでピーちゃんにもたれかかった。ピーちゃんはぬいぐるみなので、膝枕のゴワゴワの毛も平気だ。
「熱い男、燃えてる男…いたかなぁ…」
男は、ぼんやりと天を仰ぎながら、目線を左右に動かす。
「あ!そういえば、コールセンターにすごい奴がいるって、センター長に聞いた気が。なんだっけ。膝っぽい名前だったんだよな。膝松、膝浦…いやいや、もっと砕けた感じの…なんだっけ」
一瞬の静寂が訪れる。
受付の子が出入りしたのか、戸を開けた音と共に、外を通り過ぎる子供の甲高い声が、店の中に響き渡った。
「にーちゃん!待ってよぉー!」
戸が閉まる音と同時に、男が背筋を伸ばして膝を叩いた。
「knee…あ、そうそう!新島だ!…あっ!イテテテッ!」
声に驚いた膝枕が、また、男の膝に飛び乗る。
そして、今度は容赦なく男の腹に膝頭を押し付けた。どうやら怒っているらしい。
「驚かしてごめんよ。ほら、ピーちゃんが待ってるよ。イテッ」
手慣れた様子で膝枕を横におろすと、男はカバンからそっとスマートフォンを取り出した。
「お客さまから電話が入ったら、アイツに繋ぐように裏で手を回しておこう」
男は、独り言を言いながらスマートフォンの画面に目を落とす。
「あと、もうひとつ。口コミで広がる、と、出ていますが…」
占い師がそう、言いかけると、男は突然、スマートフォンの画面に高速で指を滑らせはじめた。
「なるほど…なるほど。そうか!大きなお風呂やプールがある家だったら、コイツ、案外役に立つかもしれない!水場でペットと一緒に遊ばせて洗いやすくするとか?防水加工はしっかりしてあるって開発部も言っていたし」
ヤバい。金持ち相手に量産もいけるかもしれないぞ!熱量が突然10オーバーに跳ね上がった男は、「ありがとうございました!イテテテッ」と言いながら膝枕を抱き抱えると、スキップでもしそうな軽い足取りで受付の方に消えて行った。
口コミで広がるのは、膝枕の事ではなかったのだが。
占い師は「ま、いっか」と呟きながら、ピーちゃんをまた、自分の横に座らせた。
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