平和と健康を願う人びとを護る
聖マルシャル、聖レオナール
フランス南西部リムーザン(Limousine)地方で、独特なプロセッション(Procession 行列)を行う「オステンション(Ostensions Limousines)」と呼ばれる宗教行事がある。
「オステンション」とはラテン語で、「明示」「顕示する」という意味がある。しかし、リムーザン地方でオステンションと言えば、7年に一度リムーザン地方各地の教会から聖遺物を持ち出し、各町村で行う伝統的な宗教行事を意味する。
リモージュ(Limoges)の聖ミシェル・デ・リオン教会(St Michel des Lions)中央祭壇に聖マルシャルの聖遺物が顕示されている。
944年、中世にはペストなどと並ぶ恐ろしい疫病「|麦角病《ばっかくびょう》」がフランス南西部リムーザン地方、アキテーヌ地方で流行した。麦角病は、麦角菌が寄生したライ麦で作られたパンや料理を食べると、激しく焼けるような感覚に襲われ、手足が黒ずみ、壊疽し、時には精神錯乱を引き起こす恐ろしい病気であった。
麦角病に罹った病人たちは、教会や大聖堂に病気治癒を願い、集まった。中でもリムーザン地方の主要都市リモージュの大聖堂は、3世紀にフランス南西部でキリスト教の宣教に尽力した聖マルシャルの聖遺物があることから、多くの麦角病に罹患した信者たちが集まった。聖人の墓から聖遺物を持ち出しリムーザン各地を回ったところ、7000人以上が癒されたという。その際に、病気よりも悪いとされていた戦争を回避するために、リムーザン地方では兵士以外の戦闘、紛争の禁止、一般人の財産、所有物の保護なども盛り込んだ「神の平和(教会による平和運動)」が呼びかけられた。
2023年は、7年に一度のオステンションの年。3月19日、リモージュでオステンションの開幕セレモニーが開催され、復活祭の翌週の週末から、リムーザン地方各地で持ち回りのプロセッションが行われている。
キリスト昇天祭の週末は、リモージュから東へ50キロメートルほど行ったサン・レオナール・ド・ノブラ(St Leonard de Noblat)でプロセッションが行われた。この地は、リムーザン地方では生前から広く崇敬を集め、ヨーロッパ各国で崇敬されている聖レオナール(St Leonard)の帰天の地。
5月21日の日曜日、聖レオナール参事会教会(Collegiale de St Leonard de Noblat)で9時半から主要祭壇の上の鉄柵の扉を開けるセレモニーが始まった。
セレモニーには、リモージュ司教、サン・レオナール・ド・ノブラ市長、信心会(Confrerie)の会長が主祭壇前に集まり、主祭壇上部の聖遺物を顕示している棚の鉄格子の扉を開ける。鉄格子の扉の鍵は、司教、市長、信心会会長が所有していて、一人ずつ教会の聖具係に渡し、厳かに鉄扉が開けられ、中から聖遺物箱が二つ取り出された。
午後には主祭壇から降ろされた聖レオナールの聖遺物を含め、リムーザン地方各地に顕示されている聖遺物を持ち寄ってのプロセッションがある。
沿道で各地の信心会会員が聖遺物、御旗を掲げる中、聖レオナール、聖マルシャルの聖遺物が進む。
プロセッションにはリムーザン各地の聖人たち20人の聖遺物が参加する。
聖レオナールを守護聖人としているドイツ南東部のニーダーキルヒェン(Niederkirchen)村から約50名の信心会の会員が参加。お祭り広場でドイツ南東部バイエルン地方の民族音楽、伝統行事を披露し、祭事を盛り上げていた。
聖人録
聖マルシャル
St Martial
ノブラの聖レオナール
St Leonard de Noblat