戦いの歴史を刻む街を護る
聖ゲオルギオス
スペイン、ポルトガルはアフリカ大陸に近いことから中世8世紀初頭からイスラム勢力に侵略され、約800年間15世紀末に解放されるまでイスラム教徒に支配されていた。イスラム教徒に占領されるとほぼ同時に、キリスト教徒による領土回復戦争(Reconquista レコンキスタ)が起こり、イベリア半島全域で戦いが絶えなかった。戦乱の時代、キリスト教徒側に力強い援軍が現れる。スペインの守護聖人サンチャゴ(聖ヤコブ)と、戦いの守護聖人聖ゲオルギオス(英:George ジョージ)が勝利を執り成してくれたのであった。スペイン語では、ゲオルギオスを「ホルヘ(Jorge)」と言い、それがスペイン南東部、ヴァレンシア地方、アリカンテ地方では「ジョルディ(Jordi)」とも「ホルディ」とも呼んだ。「モロ(Moros)」は、北西アフリカのイスラム教徒たちを指す。
1276年、ヴァレンシアとアリカンテの中間にある都市アルコイ(Alcoy)の郊外で、キリスト教徒がこの地域の領土回復した後、イベリア半島に残っていたイスラム教徒たち、ムデハル(Mudéjares)の指導者アル・アズラック(Al Azraq)の軍隊とキリスト教側のアラゴン王ハウメ(Jaume)一世が率いる軍隊が熾烈な戦いを繰りひろげ、最後に聖ホルディ(ゲオルギオス)が天空から現れ、キリスト教徒側に勝利をもたらしたとされる。
その戦いを記念した祝祭事が聖ホルディ(ゲオルギオス)の記念日4月23日を前後して3日間、アルコイで開催される。
1日目は、午前中にキリスト教徒の軍隊のアルコイへの入城パレード「ラス・エントラーダス(Las Entradas)」、午後からイスラム教徒の軍隊の入城パレードがある。
両軍とも14軍団から成りたち、その色とりどりのユニフォームを「フィラ(Fila)」と呼んでいる。フィラは近年考案されたデザインなので史実的には中世の両軍の軍服ではない。
キリスト教徒の軍団は、アンダルシア(Andaluces)軍、アストリアノス(Asturianos)軍、チデス(Cides)軍、ラブラドレス(Labradores)軍、グズマネス(Guzmanes)軍、バコス(Vacos)軍、モザラベス(Mozarabes)軍、アルモガバレス(Almogavares)軍、ナバロス(Navarros)軍、トマシナス(Tomasinas)軍、ムンタニェソス(Muntanyesos)軍、クルザドス(Cruzados)軍、アルコディアノス(Alcodianos)軍、アラゴネソス(Aragonesos)軍などスペインの14地方の軍団をイメージしている。いずれも華美で豪華な軍服だ。
一方、イスラム教徒(モロ)の軍団は、ヤナ(Llana)軍、ユディオス(Judios)軍、ドミンゴ・ミケス(Domingo Miques)軍、チャノ(Chano)軍、ヴェルデス(Verdes)軍、マヘンタ(Magenta)軍、コルドン(Cordon)軍、リヘロス(Ligeros)軍、ムデハレス(Mudejares)軍、アベンセラヘス(Abencerrajes)軍、マラケーシュ(Marrakesh)軍、レアリステス(Realistes)軍、ベルベリスコス(Berberiscos)軍、ベニメリネス(Benimerines)軍と、中世のイスラム社会全域の軍隊の軍服をイメージした軍服を着ての大行進。各軍団、100名から200名で成り立ち、両軍合わせると約4000名。毎回市内を約2時間ほど大行進する。
2日目のアルコイの守護聖人である聖ホルディの記念日には、午前10時から市内中心地ある聖ホルディ教会で記念日のミサがある。その後、全軍団が教会の前に集まり、聖ホルディの聖遺物、聖ホルディの聖像のパレードがある。聖ホルディの聖遺物を、聖ホルディに扮する少年が先導。約1時間のパレードの後、聖ホルディ教会の裏手の広場に面して立つ、「聖母マリア(神の母聖誕)教区大聖堂(Parròquia de Santa Maria "Nativitat de la Mare de Déu")」で12時から聖ホルディ記念日のミサがある。
夕刻、再度、全軍団が参加し、聖ホルディの聖遺物、聖像の大パレードがある。大パレードの後は、深夜遅くまで爆竹を鳴らし、花火を上げ、各所でテクノ・ミュージックの大音響に合わせて路上の大パーティ。
約100年ほど前の1921年にネオ・ビザンチン様式で築かれた教会の祭壇後方の壁画には、アルコイの戦いと天空から聖ホルディが舞い降りる様子が描かれている。
3日目は、朝10時から両軍の将軍たちの入城だ。市役所広場に仮設されたアルコイ城にイスラム教徒側から停戦を申し込みの書状が届けられる。しかし、停戦をキリスト教徒側が拒否、戦闘が始まる。
両軍相まみれる戦闘が始まる。全軍の軍人たちが空砲を約1時間打ちまくる。毎年取材している報道陣たちは、耳栓を用意し戦闘準備も万端だ。轟音のような砲音があちこちで絶え間なく鳴り響き、町中硝煙に包まれる。知り合いになったスペインのTV局のスタッフが耳栓をプレゼントしてくれ、私もかろうじて鼓膜の破壊から免れることができた。
聖人録
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