大体作家の対談本は文庫化されるものだが、何故か1980年7月29日と11月19日の二度に亘って行われ、1981年7月20日に上梓された村上龍と村上春樹の対談本『ウォーク・ドント・ラン』は現在に至るまで文庫化されていないから、読むならばネット上でなかなかほぼ入手不可能なレベルで高額で取引されているから図書館で借りるしかない。
個人的に興味深い発言をとり上げてみようと思う。最初に春樹の発言である。
さすが村上春樹は自身の特長を良く分かっているとしか言いようがないのだが、1995年に起こった阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件での惨状を目の当たりにし、「コミットメント」せざるを得なくなった。もしもそれほど売れていなかったら「デタッチメント」のままでいたかったのかもしれないものの、春樹は以下のようにも言っている。
つまり1995年を境に春樹の信条はブレ始めたような気がするのだが、それはそれぞれの作品の出来の良し悪しとは別なのかもしれない。
『文學界』1980年9月号に掲載された春樹の『街と、その不確かな壁』に関して龍が的確なことを指摘している。
言うまでもなく春樹はようやく去年長篇小説として『街とその不確かな壁』を上梓した。
あの『限りなく透明に近いブルー』の作家がドン引くほどのモテモテ振り(猟奇的?)であるが、これも春樹の作品の主人公のキャラに反映されているといえる。
完全にスベり倒してしまった直後に急いで取り繕っている龍のフォローをするならば、「ハッとしてグー」というのは田原俊彦が1980年9月21日にリリースした曲のタイトル『ハッとして!Good』から来ているのだが、ジャズしか聴かない春樹にはピンとこなかったのである。
このように今でも春樹の小説を理解する上で十分に読み応えのある『ウォーク・ドント・ラン』が文庫化される日がいつか来るのだろうか?