24比較文化論Ⅰ
土井美徳 比較文化論Ⅰ 1998 奥羽大学 記録尾坂淳一
(比較文化論)
「いまなぜ文化か─その歴史的文脈─」
文化とは
ある社会の人々が共通してもつ特徴的な生活様式
人々の生活の歴史が生み出した活動の集積(歴史)
近代文化とは
西ヨーロッパの中世キリスト教世界がいくつかの領域国家へと統一されていく15~18世紀にかけて形成された、世界規模で浸透した世界の西欧化
近代西欧文化の基底
人間観=理性を属性とした個人=理性的人間像
自然観=機械論的自然観=開発の対象
思想観=合理主義、普遍主義
歴史観=進歩の観念=進歩史観
文明と野蛮
(古典古代ギリシアのヘレネスとバルバロイや日本の大和と蝦夷)
文明=近代化=西欧化
‐近代化され工業化された西欧文化こそが文明化された文化であり科学技術が遅れ工業化に着手していない地域の文化は「野蛮」「未開」であるとみなされた
文化の脱西欧化
二十世紀、文化が相対化した時代(多様性、等価性)
‐植民地化の進展によって西欧以外の異文化との遭遇、西欧の様式とは異なった高等文化の存在を認識
第一次世界大戦による西欧の没落
第二次世界大戦後に旧植民地が独立し西欧以外の第三世界が形成
=文化が(単一の文化尺土による優劣ではなく)比較される対等な対象として認識されるようになった
=ひとつの特殊な生活様式としての西欧文化の認識
「文化相対主義」と「多文化主義」
今日的な問題の所在
‐相対主義の適用範囲の問題(ナチズム、アパルトヘイトなど)
‐多様性を前提とした上での共通の地平は可能か?
「アイデンティティ」と「差異」
自己と他者=われわれ意識とかれらの画定(集合現象)
異文化理解=共存共生(秩序の形成維持とマイノリティーの権利保護)
ユーゴスラビア(セルビア・クロアチア・ボスニア)の例
↓
平和的共存(自意識)
↓
民族精神の覚醒(自他意識)
↓
対立・紛争
「アイデンティティ」
自己同一性
=特異性
=類似性→集団現象
↓
異質な他者
↓
民族・国民意識
「文化」とは
文化
=知的教養 =culture
=生活様式(慣習)=commonsense
文化のまとまり=民族≠人種
地域的まとまり=共同体・国家
国民国家=nationstate
国民 =people 国民主権
=nation 文化的同質性(民族)
↓
一民族一国家(国民、国家=上位概念)の理想
↓
大戦後の国家の増加傾向
80年代50、大戦前68、大戦後191、96年191ヶ国
↓
B・アンダーソン「想像の共同体」
ethnicギリシア語
民族<
nation造語
=多様なethnicの集まりとしてのnation
EU─イギリス─北アイルランド
スコットランド
イングランド
ウェールズ
ドイツ
フランスetc.
=同意共同体
=古典的ナショナリズム
=エストナショナリズム
「国民」と「民族」
民族=出自を同じくし言語をはじめとする文化的社会的な基盤を同じくする社会集団
‐生活様式、慣習、宗教
‐価値体系
‐文化(規範の内面)の担い手
‐言語を媒介
=相互に血縁と居住地による地縁の上に成り立つ文化の共同体
国民=主権としての国民、人民(people)
=出自を同じくし言語をはじめとする文化的社会的な基盤を持った集団(nation)
↓
国民と民族の乖離
‐国内的には都市化現象
‐国際的には脱国境化現象
↓
交流速度の高まり、移動量の増大
=地域的拘束の低下
↓
離れた民族現象=エスニシティ
=クレオール文化(アフロアメリカン)
参考ジョン・ハイアム「アメリカにおけるエスニシティ」放送大学特別講義
どのようにnationをまとめられるのか
参考「民族のモザイク国家カナダのゆくえ」出典不明
‐人種のるつぼケベック
‐多文化主義の採用
‐多文化政策のゆくえ
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期
(総論)
「近代文化」
ヨーロッパ文化の工業化民主化→植民地
↓
フロンティア(開化)=文明と野蛮
↓
文明は発展し尽くしフロンティアを目指さなくなる
↓
グローバリゼーションの台頭、ボーダーレス化
フロンティア文化相対主義からグローバリゼーション多文化主義へ
冷戦終結から文化の衝突へ
(各論)
ヨーロッパ
~70年代経済的発達→移民の増加(外国人労働者)
80年代経済停滞→移民の定着(移民の制限)
↓
政教分離のヨーロッパ、政教一致のイスラム
↓
多文化主義へ
エスニックアイデンティティ(エスニシティ)
↑分裂
ナショナルアイデンティティ(国民国家)=近代的軸
↓統合
ヨーロピアンアイデンティティ(EU)
=
フレキシブルアイデンティティ=「三空間並存」
EUとしての市民権
国民国家としての主権
民族
ヨーロッパの歴史
第一次世界大戦 ドイツvsフランス(ナショナリズム)
第二次世界大戦 冷戦(対スターリン、対アメリカ)
EEC→EC→EU
冷戦終結による東の脅威の減退
新たな敵=イスラム、文化衝突(スカーフ事件など)
近代の国民国家の典型
フランス=同質性が高い
ドイツ=強制的同質化
イギリス=異質性を統合した多文化前提のnation
イギリスの成り立ち
18世紀産業革命→資本主義発展、植民地支配、世界帝国に
17世紀市民革命→国民国家(多民族国家)へ
1536ウェールズ併合
1707スコットランドに自治権
1801アイルランド併合
1946アイルランド独立
1998和平交渉
共通性(nation)と異質性(ethnic)が同居するイギリス社会に(複合国家)
参考梶尾孝道編「国際社会学」名古屋大学出版会
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期