13日本文学講読Ⅲ 雨月物語

山崎健司 日本文学講読Ⅲ 1998 奥羽大学 記録尾坂淳一
教科書/新註雨月物語 勉誠社
参考文献/長島弘明 雨月物語の世界 ちくま学芸文庫
参考文献/図説日本の古典17上田秋成 集英社
(雨月物語「菊花の約」「仏法僧」「蛇性の婬」)

1、主情論と寓言論
本居宣長「主情論」源氏物語を頂点とするもののあはれ
上田秋成「寓言論」ぬば玉の巻で虚構(技巧)を説く

近松門左衛門
井原西鶴

白話小説(中国文学)情から知の文学に
‐史実を踏まえた構想
‐構成に工夫
‐人間の真実
‐一本の思想的中心線

読本
都賀庭鐘「美草子」「繁野話」
‐白話小説を源拠
‐設定を日本の中世にとり著名な人物事件に付会
‐歴史的事件を批判、高い思想性

上田秋成の登場

小説

2、「菊花の約」
首「交はりは~」
尾「咨々~」=同じフレーズ

青々たる春の柳=原典白話「結交行」
種樹莫種楊柳枝
結交莫結軽薄児
楊柳不耐秋吹
軽薄易結還易離
君不見昨日書来両相憶
今日相逢不相識
不如楊柳猶可久
一度春風一回首 =ほとんど翻訳

結交行に無い点
青々たる春(春)
家園に
楊柳茂りやすくとも(夏)
初風
「結交行」=春と秋の対比
「菊花の約」=季節の循環

作中人物名=「新撰姓氏録」

基本設定
「范巨卿鶏黍死生交」農民の張劭と商人の范巨卿、范が科挙を受けに上洛、うっかり約束を忘れたため自死
「菊花の約」博士丈部左門と武士赤穴宗右衛門

本文講読
「これらは愚俗のことばにて吾們はとらず」=死生交には無い文→出世できない左門の性格の造型

宗右衛門の話=「陰徳太平記」同族の争い、信義、武士道がテーマ
史実の宗右衛門 文明十七年戦死
本文の宗右衛門 文明十八年自死

挿絵
=源拠の種明かし
=陰徳太平記の内容(五月の祝いを装い富田城へ入城)=本文の外への目をつくらせる

母(左門の母)子(宗右衛門)の約束=死生交に無し

「きのうけふ咲ぬると」冒頭と同様、季節の変化に改作

引歌
初瀬山尾上の花は散りはてて
入相の鐘に春ぞ暮れぬる(新拾遺集)

菊花の約(九月九日)
宗右衛門 帰れず自死し霊となり帰宅
左門 帰る日まで決めさせる非常識

「信義」のテーマ

「日和はかばかりよさりしものを」万葉集256本伝(異伝)

「もしやと戸の外に出てみれば」源氏物語須磨

宗右衛門の告白まで死生交どおり

告白以降独自の展開=主題(乱世の中終始約束を忘れず軟禁されても再会を果たす)である「信義」

左門の信義=宗右衛門の骨を蔵めること

最初から仇を打つつもりだったか?
なぜ尼子経久ではなく赤穴丹治を殺害したか?

話しているなかで感情が激した
たまたま丹治に面会した
丹治は信義をわきまえず尼子にへつらった
「偶発的殺害」
非常識な左門を用いて一般的人々(常識人)を風刺

首尾のフレーズ「軽薄の人」
=丹治、尼子として→それほど重要人物ではない
=左門、宗右衛門として→信義の体現

特定の誰かを指しているわけではなく教訓

教訓=常識の次元
中の話=異界の論理、非常識
教訓=常識の次元

左門=認識者
宗右衛門=行為者→死

左門が行為者に=二人の魂が一つに

3、「仏法僧」
ゆったりした文調

豊臣秀次

突然歌の議論に
作品のひとり歩き
原作者と享受者とのずれ(「座の文学」尾形仂)
=秋成の自説を展開

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期

4、「蛇性の婬」
作中時間=時代が明示されない
「鰭の広者狭き者」古事記祝詞
「大宅、安倍、文室、当麻、巨勢、田辺」古代の姓
熊野信仰 平安時代から

「雨」「月」=怪異の前兆

「三輪」紀州三輪崎
    大和三輪
    三輪山伝説(蛇神)

「県の真女子」を尋ねる豊雄
誰も知らない 不思議とも思わず尋ねまわる
夢と同じ家 「奇し」
面会 「ついでに尋ねた」たしなみ

恋に狂う豊雄の様子

原典白話小説「警世通言」所収「白娘子永鎮雷峰巻」
姉夫婦に厄介、叔父の薬屋に勤める許宣
雨の日の出会い
一旦別れる
親戚に貸した傘を受けに行った帰りに再会傘を貸す
女の家へ、傘は女が他所へ貸しておりその日は帰る
再訪

「蛇性の婬」は複雑な設定を整理し単純化

家父長制と連座制
夢心地も「徒者」呼ばわり
太郎の嫁が唯一の同情者
盗品の所持により逮捕

女の家は廃屋、女は消える=「白娘子」同様

怪異の前兆=「源氏物語」

九月下旬真名子との出会い

釈放百日がほど(十二月末~一月)

年かはりて二月(雨月物語序文明和五年の前年は陰暦閏年のため)

時代設定=執筆年代

「二本の杉」
二本の杉の立ちどをたずねずは
古川の辺に君を見ましや(源氏物語右近の歌)
「喜しき瀬」
祈りつつ頼みぞ渡る初瀬川
うれしき瀬にもながれ逢ふやと(古今和歌集)
「真名子がことわり」
涙、二本の杉、大悲の徳、女に盗みができようか=雨月物語の独自性

「たつ雲と雨」
文選高原城(楚王と巫山神女の夢の中での交会)
=交情を暗示

吉野へ
「白娘子」誘いを断る
「雨月物語」不本意ながらも行く

秋成自身訪れた体験
源氏物語若紫の一節を引用
吉野の神秘性を強調

当麻神宮が看破、真女子正体を現す
蛇=竜神、水の神
二人の関係の断絶
「白娘子」では金山寺の法海禅師が看坡

ますらをごころ(丈夫心)→夢から覚める
夢=「夢応の鯉魚」「菊花の約」「仏法僧」

富子と結婚
「はじめの夜は事なければ書かず」突然現れる作者

富子にのりうつる真名子=嫉妬=蛇性(人間になろうとするがなりきれない悲しさ)
裏切り=丈夫心の欠如を指摘される=今も当麻のいう丈夫心を失っている状態

鞍馬寺の僧(仏教)→死「魂も身に添はぬ」=夢

出会い(夢)→当麻(現実)→僧(夢)

豊雄の決意と覚悟「丈夫心」
自立した男性像=豊雄の成長=母胎的存在としての真名子

法海和尚=「白娘子」の人物(道成寺にはいない)
豊雄が真名子を押さえる=「自力」

真名子=死=蛇性を全うし人間の道理で罰せられる
庄司が娘(富子)=死=「源氏物語」夕顔の死
豊雄=命恙無し

道成寺とは逆の結末

「道成寺」
法華験記
今昔物語
元亨釈書
道成寺絵詞
道成寺縁起
御伽草子
謡曲
浄瑠璃
歌舞伎

5、後期テスト「二つの挿絵について」記録者の考察
①挿絵の内容と本文の関わり
─道成寺縁起から蛇性の婬へ─
挿絵一「吉野見物」
「様式化された滝の表現は、今日も歌舞伎の舞台で見るところ、桜も造花めき、この絵のかぎり、舞台装置の観がある。真名子とまろやが二人からまって、すでに蛇体に半ばみえる。一見鱗型であろうか。」「図説日本の古典17上田秋成」集英社
=道成寺縁起(演劇)の影響

挿絵二「真名子の憑依」
豊雄は手に杯=真名子が富子に憑いた直後
左手を上げる=驚きの型
「富子の衣装は、宮滝の真名子のそれと異なり、鹿の子を置いた草花模様。侍女の着物も、前とは変わっている。」「図説日本の古典17上田秋成」集英社

②挿絵の効果
─真名子の変身─
挿絵一
鱗の様な着物と絡まった二匹=蛇らしさを強調

挿絵二
服装の変化=富子に憑依のため(童女も対応して変化)

声、言葉、表情の真名子化

外見、人間の体

真名子のヒューマンへの変身
挿絵の女性=心身ともにもはや真名子
蛇性=二人の人間の犠牲
人心=だらしない好色な豊雄への愛

富子はあっけなく病死=富子の人格の否定
豊雄は命恙無し=真名子の愛=作者の真名子への最後の親切か

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期