桜の名所・平野神社 天災からの復興の道
歴史ある桜と社殿 そして――
今号(註:『THE FORWARD Vol.2』)の巻頭特集は「忘れられない旅」。
このテーマを聞いて最初に思い浮かんだのが平野神社だった。
平野神社は京都市北区にある、京都有数の桜の名所だ。
平安時代、花山天皇が境内にいくつもの桜を植えたのが名所となった由縁であると伝えられており、古くから桜の社として親しまれてきた。現在も60種類400本の桜が咲き誇る。
加えて、社殿の歴史的価値の高さでも有名だ。本殿は「平野造」と呼ばれる独特の造りを持ち、国の重要文化財に指定されている。ほかにも拝殿をはじめ、中門、南門などが京都府の有形文化財となっている。
初めて平野神社の桜を〝体験〟した日のことは今も鮮明に覚えている。歴史ある境内を埋め尽くすかのように咲く桜たち。あの、一面の桜に包まれているかのような感覚はまさに忘れられない旅の体験だ。
しかし、その美しい光景はある日突然失われた。2018年9月、関西地方台風21号が直撃。14名の死者を出したほか、関西国際空港の滑走路が浸水すなど、甚大な被害を出した。そしてこの大型の台風は、平野神社にも大きな損害を与えた。
拝殿が倒壊したのである。
地域の方々の支え
台風から3年以上が経過した2021年11月、ついに拝殿が再建されたというニュースが舞い込んできた。
安堵の表情でそれを伝えていた権禰宜・中村聡朗さんにこれまでの道のりを伺った。
「台風が直撃した日は、あまりに風が強かったため社務所の中で雨戸も締め切って作業をしていました。しかし、昼頃にその雨戸さえも風で飛ばされてしまった。そのときに初めて崩れた拝殿が目に映りました。ただただ唖然としましたね。風が収まってから現場の確認をしたところ、拝殿以外にも本殿の屋根ははがれているし、桜も何十本か倒れている。どうしたらいいのか……。全く分かりませんでした」
神社関係者だけではどうにもできず狼狽していたとき、協力してくれたのが地域の方々だった。その中でもいち早く駆けつけてくれたのが、近隣の大学生たちだったという。彼らは独自にSNSで呼びかけ合い集まったそうだ。
その輪は次第に広がっていき、気が付けば京都市中のさまざまな大学の学生たちがボランティアで訪れるように。そうした学生たちの協力のおかげで、倒木や境内・歩道に散らばっていた枝葉は一気に片付いた。
「ほかにも地域の方々には『再建支援コンサート』を開いていただいたり、手作り作品を販売し、収益の一部を寄付してもらう『手作り市』にご参加いただいたりと、さまざまな形でご支援いただきました。そのおかげで拝殿は無事再建することができました」
天災から復興するために
被災直後は、本当に境内を元の姿に戻せるのか、不安もあったという中村さん。しかし地域の方々の協力が支えとなり、本殿の檜皮屋根の葺き替えなど残っている工事もあるが、復興の兆しが見え始めている。
昨今は新型コロナウイルスの影響で、参拝客の減少に苦しむ寺社や観光地も多い。これも一種の天災の被害といえるだろう。
そういった場所にとって、地域住民と手を取り合い、天災からの復興の道を進んでいる平野神社は、ひとつの希望となるかもしれない。
春の見どころ
最後に春の平野神社の見どころを中村さんに尋ねた。
「平野神社は江戸時代に作られた品種が残っている珍しい神社です。なかでも『平野妹背』や『平野撫子』など“平野”という名が入っている桜があることからも分かるように、平野神社発祥の桜もございます。ですので、参拝される際にはそうした桜をぜひ見ていただきたいです。
さらに言えば、平野神社の桜は接ぎ木で育てているため、育てないとなくなってしまうものばかり。つまり江戸時代から大切に受け継いできた桜なんです。そういった歴史ある桜を見られるのも、京都の神社ならではの魅力ではないでしょうか」
(初出:『THE FORWARD Vol.2』2022年2月26日 実業之日本社)
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