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読書録/失敗者の自叙伝

「失敗者の自叙伝」 一柳米来留 近江兄弟社


 明治38年に来日、明治から昭和にかけて日本 で数多くの西洋建築を手がけた建築家として知られるウィリアム・メレル・ヴォーリズの自叙伝。建築家として紹介されることが多いが、自身は学生の頃神の召 命を受け、建築家になるという夢を捨てて、キリスト教伝道のため日本へ赴いた、という経緯がある。そんなわけで、本書の中心は、彼の信仰と、信仰によって 日本への移住を決断し、そこでいかに神の計画によって、滋賀県という「最もキリスト教の伝道が困難な地」と当時の宣教師たちが語っていた土地で、多くの人にキリスト教を伝え、ともに同労者として働く人々が増し加えられたか、という、まさに神の働かれた記録ともいうべき書物となっている。

 教え子のひとりが、ブロークンイングリッシュで目を潤ませ…「世界中にあなた以上に、私に親しみを感じさせてくれた人はありません」と伝えてくれたことが日記に記してある、とある。彼は英語教師として来日したが、伝道の熱心さで多くの教え子がキリスト教に改宗したことに反感を抱かれ、職を解かれてしまう。何が、それほどまでに近江八幡の青年たちの心を惹き付けたのか?そんな疑問がとける、教え子の言葉だった。友となって、異文化の若者たちのただ中に飛び込んでいったヴォーリズの伝道には、今も教えられることが多くある。

「神の国と神の義とを求めなさい。そうすればこれらのものは、すべて添え て与えられる」(マタイ6:33)のみことばを生きたヴォーリズは、だからこそ、米国で捨てて来た建築家の夢を、日本で実現するに至ったのだ。そしてま た、一生涯信徒の立場で、建築家、メンソレータム(現メンターム)の製造販売といった事業を通して社会に貢献する姿は、時代を先取りするような新しさに満ちている。素朴で真摯な語り口の中に、多くの感動と教えられることがある一冊。

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