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命懸けだった瀋陽

今考えても恐ろしい経験だった。
商工会議所のメンバーと中国に行ったことがある。
この行程になった経緯はわからないが、メンバーの一人が通化市の業者と取引があったらしい。通化に行く経由地であった瀋陽に立ち寄ることになった。市長との面談が設定されているという事なので期待していた。

約束の時間に市役所のホールに入った。

舞台付きのホールだったが、舞台に訪問団の代表と瀋陽市長のテーブルが並べて有る。
こちらが待機しているのに市長は出てこない、30分経っても来ない。これは、『例の焦らし』だなと直感で理解した。中国では相手が、目上だと思うと、早くから待機して接待をする。目下だと判断すると1時間でも2時間でも平気で待たせる。
今回は目下だと判断されたわけだ。私は、別に瀋陽市長などに会いたくもなかったので勝手に街の見物に出かけることにして席を立ち出口へ向かった。

市の職員が三人ほどすっ飛んできて「どこへ行かれますか」と、取り囲まれた。私は「市長はお忙しそうなのでまた、機会があればお会いします。街が見たいですから外へ出ます。」

職員たちは「もうすぐ市長はいらっしゃいますから」と引き留めるが、私は言い出したら聞かないので歩き出した。一人が付いてきて「どちらが見たいですか?」と聞くので「市役所の上階から見えた川か海のほうに行きたい」と言ったところ「私が案内します」と言う。

市の職員が一緒だと心強いので案内を頼んだ。市役所の正面は都市化が進んで近代的なのだが海か川の方へ向かう方は未開発地域だ。

侵入口は半間くらいの狭い入り口で簡単な戸が付いている。中に入ると目を疑った。目つきの悪い男達が上半身裸でトランプや麻雀をしている。我々を目で追ってくる。
道路は未舗装で、中央が盛り上がったカマボコ状。建物はバラック造り。軒が波打っている。下水は垂れ流しなので、街中が臭い。

市役所の職員は一番見られたくない所を見せてしまったので慌てている。顔が引きつってきた。どうやら、進行方向が分からないらしい。
たむろしている子供達に道を聞いても、ニタニタ笑いながら教えてくれない。

約2時間程歩き回ったけど出口が見つからない。市の職員は焦りまくっている。私も先ほどの海か川か分からない水辺に行きたくなくなった。彼に「帰りましょうか?」と声をかけた。彼は緊張している。帰り道がわからないのだ。

向こうの方から、見るからに派手な格好をした若い女性が歩いてきた。大きなラゲージを引っ張っている。多分日本かどこか外国からの出稼ぎの帰りだと思う。職員は彼女に話しかけようやく出口を教えてもらった。

先ほど粋がって会議室を飛び出したが、永久に帰れなくなるところだった。

会議室に戻るエレベーターから降りると、会議が終わったと見えて、ちょうど帰りの市長と鉢合わせした。

「面白かったですか?」と市長が聞いたので「はい」と答えておいた。

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