【連載小説】ある青年の手記 第Ⅱ章 2021年3月18日 


三月十八日。水曜日。晴れ。

 一匹のお利口さんな社畜のように矢継ぎ早にシフトを入れておいたおかげで比較的早く研修期間が終わり今日からベテランの人と二人一組でお店を回すことになった。
 今日のペアの人はぼくの二個上の男子大学生の方でいわゆる「にわかおしゃれ風眼鏡」を着けているせっかくの生まれながらの黒いストレート髪に何を血迷ったかぐるぐるパーマをかけておまけにそれをノロウイルスにかかった時の下痢のような茶色に染めてしまっている背が低くて弱々しい人だった。「科学的に証明された健康法」と題した本をモグラ叩きゲームのようにあれよあれよと読み捨てて行きサプリメントだけで栄養を補給している偏屈そうな人でぼくは彼の姿を一目見ただけで「うわぁあああ嫌だぁあああ」と思ってしまった。彼は自分が「早稲田大学法学部三年生」であるという事実をまるでそれがこの国の免罪符であるかのようにやたらめったらぼくに押し付けて来た。ぼくはこれから彼とシフトが一切合切被らないことを祈るのみである。
 しばらくこの百円ローソンで働いてみて気がついたことなのだがぼくは人と話すことがこんなにも楽しいものだとは知らなかった。「話す」といってもおおよそが社交辞令に過ぎないわけなのだがでもお客様の白いマスクで隠されていない極小の部分からちらっと笑顔を見ることの出来るのがすごく嬉しい。胸の奥深くが温かくなる。なんだかぼくという一人の人間の存在を肯定してくれているようだ。ぼくはアルバイトを変えて良かったと思う。AmazonもAmazonでやりがいを感じてはいたのだが。