インサイダー取引と闇バイトに共通するもの
東証の職員や、金融庁に出向中の現職裁判官がインサイダー取引に手を染めるという衝撃的な事件が起きた。一方、闇バイト事件も絶えない。
かつて暮らした国では、いわゆるインフォーマル経済が一般市民の仕事の中心だった。平均月収は当時400ドル前後だった。真偽のほどはともかく、その国の強盗犯は、マフィアから1日100ドルでピストルを借りて強盗に臨み、100ドル以上のリターンがあれば、善悪は別として、経済的合理性ありとして犯行に及んだ。そもそも低賃金なうえ、社会保障も休暇もないインフォーマル経済において、明日の仕事は保障されない。そんな環境下、若者が犯罪に手を染めることは、残念ながら理解に苦しむことではなかった。もっとも、強盗犯に麻薬中毒者が多かったのも事実だが。
翻って日本での闇バイトは、同じくお金に困った人たちがやむにやまれぬ事情で引き起こした事件ではあるが、理解に苦しむ。経済的合理性があまりにもなさすぎる。いまどき、自宅に大金を置く家庭がどれだけあるだろう。一方で、今の日本では働く意思さえあれば仕事にはありつけるはずだ。少なくとも日本の一般事業会社はインフォーマルではない。強盗と普通の仕事を探すことのどちらが合理的か、比較検討は一切不要である。
東証の職員や裁判官によるインサイダー取引もあまりにも経済的合理性がなさすぎる。いくらなんでもルールを不知であるはずがないので、この2つのインサイダー取引の当事者は、お金目当てではなく、ハラハラ・ドキドキする刺激を求めて行動したのだろうか。一般に東証に就職したり、裁判官になることは容易ではないのだから、もし本当に善悪を判別できずこのような事件を起こしたとしたら、それはもう本人だけの責任ではなく、育った家庭環境や職場の問題だろう。
背景はよくわからないが、どちらもスーパーハイリスク・ネガティブリターンであるという点で、インサイダー取引と闇バイトは共通している。ともすれば新興国のピストル強盗の方が合理的にすら見えてしまうのは、本当におそろしい現代日本の現実だと思う。
刑法(強盗致死傷)
第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
Q1.インサイダー取引の罰則等
インサイダー取引規制に違反した場合、どのような罰則がありますか。
A1.5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれらの併科になります。また、法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には、その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます。
また、インサイダー取引規制違反によって得た財産は原則として没収又は追徴されます。例えば、インサイダー取引により200万円で買い付けた株式を売却することによって300万円を得た場合には、300万円が没収又は追徴の対象となります。
このほか、罰則ではありませんが、規制の実効性確保のため、行政上の措置として、インサイダー取引規制に違反して自己の計算で有価証券の売買等を行ったものに対して、金融庁から課徴金納付命令が出されます。これにより、違反行為によって得た経済的利益相当額を基準として定められた方法によって算出された金額を国庫に納めることになります。
(日本取引所グループホームページより抜粋/ほかでもない東証自身が両罰規定の対象になる可能性があるのはなんとも皮肉的である。)