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ドライバーズシートに座るべき人は

総工費2,000億円を超える巨大再開発プロジェクトがとん挫する事態が起きた。2023年7月に惜しまれながら閉館した中野サンプラザ跡地の再開発案件だ。かねてから無理筋な印象がある案件だった。老朽化した中野区役所と中野サンプラザを解体して、その跡地にサンプラザのDNAを継承したアリーナを中心施設として、(わずかながら)都庁より高いビルを建設するという(ことになっていた)。区外の人にはほとんど知られていないと思うけど。

昨今の環境激変で、事業予算と工費見積もりがまったく合わず、報道等によれば、施工業者が都に提出した開発計画を取下げるらしい。当初の計画から10年以上の年月が経過しているので、想定外の環境変化が起こっていることは誰にもわかることだ。苦渋の選択だったと思うが、無理な前進をしなかった施工業者の大いなる勇気を称えたい。企業人としてさぞかしつらい思いをしたに違いない。

直観的に、あの場所にそんな超高層建築物を建ててどうするんだろうという感じはあった。周辺道路は普通の生活道路で狭いので、途轍もない圧迫感を与える建築物になるだろうし、周辺住民や通行人とってはビル風が大変になるだろうと思っていた。言葉を選ばずに言えば、「とん挫してホッとした」というのが率直な個人的感想である。

日本ではどうやらオフィスは都心でも余り気味だし、上層階をマンションとして分譲する予定(だった)らしいが、そんな不動産を買えるのは、某国のお金持ちくらいだろう。数百億円もの補助金をつぎ込んで、いったい誰のための開発なのかという気がしていた。せいぜい1,2度行けば満足する展望台に昇ることくらいか。だとすれば社会的対価があまりにも高すぎる。

個人的には、ぜひ公園にしていただいて、その中心部に中野サンプラザを模した小ぶりなアリーナを設置してもらえるのが一番ありがたいと感じている。一般的な区民は、新宿など都心の大きな区に負けじと超高層ビルの出現を望んでいるだろうか。しかし分相応という言葉がある。中野は中野らしくあるのが一番良い、と思う。

今後、どのような着地点を目指すのかまだ全然分からないが、おそらく数年先まで何も進まないだろう。その間に、施工業者の担当者はもちろんのこと、きっと区長も変わり、区議会議員も変わり、区役所の担当職員もみんな変わる。スタートから今に至るまで退路を断ってドライバーズシートに座る人がいなかった印象も否めない。

本件は結果オーライだったのではないか。一からやり直して、現実路線に転換してほしい。超高層ビル建設も、国威ならぬ区威発揚には資するかもしれないが、いつ発生してもおかしくない大地震への備え等、もっと目の前の課題に、限られた時間とお金を使ってほしいと願うのは少数派ではないだろう。もっとも、本来ドライバーズシートに座るべきは我々区民である。

都市計画法(目的)
第1条 この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。

密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律
(目的)

第1条 この法律は、密集市街地について計画的な再開発又は開発整備による防災街区の整備を促進するために必要な措置を講ずることにより、密集市街地の防災に関する機能の確保と土地の合理的かつ健全な利用を図り、もって公共の福祉に寄与することを目的とする。


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