見出し画像

居酒屋韓国 018 -コロナが残したもの-

【これは『居酒屋韓国』というエッセイ集の一つの記事になります。韓国で韓国人の友人たちとの交流を通して経験したことや知ったこと、韓国語についてなど色々と書き綴っています。(小休止は主に韓国語学習について書いています)】

 新型コロナが世界にもたらした変化、それは私にも影響しました。もちろん韓国に行くことができず、韓国で友だちと一緒にお酒を飲むことができませんでした。寂しい日々でした。しかしこればかりは仕方がないので、せめて行けるようになったらすぐに行こうと心に決め、ワクチンを接種したり情報収集をしたりと渡韓の準備を重ね、ようやくビザ無しで渡航できるようになり私はすぐに韓国へと向かいました。
 そこで見たのは思っていたよりも酷いコロナが残した爪痕でした。


明洞の表通り


 ソウルの中心地、日本で言うと渋谷とか原宿にあたる明洞(ミョンドン、명동)。表通りは人が戻ってきていましたが、一本路地を入ると、空きテナントが多く、人影さえ見えませんでした。

 空港では、必要なくなった飛行機が封印されたまま待機している状態でした。こんな風景を目の当たりにしながら、日本だけでなく、世界が変わったんだなと実感しました。きっと、何がどのように変わったのかはもう少し先に、頭の良い方々がまとめてくれるのでしょうが、私は私なりにいろいろと考えてしまいました。
 ところで、コロナ明け直後に韓国に行ったときは、珍しく日本人の友人と一緒に韓国に行くことにしました。ただ、友人は予定があって私から1日遅れて韓国に到着する予定でした。韓国が初めてということで、韓国の玄関口である仁川国際空港(インチョン国際空港、인천국제공항)まで迎えに行きました。


 成田空港ではなく、外国の空港で人を待つのはなんか変な感じがするな、と思いながら友人を待っていると、私の目の前に忘れることができない光景をいくどか見ることになりました。
 飛行機を降りて入国審査を終えて手荷物を受け取った後、自動扉を通り抜けると到着ロビーに出ることができるのですが、その自動扉が開くと欧米から来たような外見の男性が出てきました。その男性はゆっくりと歩みを2、3歩進めながら誰かを探していましたが、すぐに相手を見つけまっすぐその人元へ歩み寄っていきました。彼の目線の先には一人の韓国人と思われる女性がいました。二人は言葉も交わさずに抱き合いました。そして、いったん腕をほどき見つめ合った後、もう一度抱き合いました。
 二人の事情は何も断定することはできません。ですが、久しぶりに会ったのであろうことは簡単に想像できました。それがコロナに原因があるのではないかという推測を私はしていました。そんな想像を膨らましてしまっている私に気づくはずもない二人は手をつないでコーヒーショップへ入っていきました。
 しばらくして、10分もしなかったと思います。また欧米から来たと思われる男性の姿が自動ドア開いて見ることができました。その瞬間、私の目の前の女性が小さく手を振りました。その男性は、はにかみながら彼女の元へ。そして二人は抱きしめ合いました。
 その後も似たようなカップルを二組、見ることができました。
 偶然だったのかもしれません。たまたま国際カップルが私の目の前に連続して現れて、しかもそれがコロナとは関係なく……。私にはそうは思えませんでした。私もそうでしたが、皆さんもようやく韓国に来られるようになったんだと思います。ですから、本当に久しぶりに大切な人に会えたんだと私は思いました。
 あんなふうに抱きしめ合う二人の姿をどのように文章にしたら伝わるのか分かりませんが、そこには心を揺さぶるような感動がありました。けっして走ることはなく、ですがゆっくりではなく、まるで吸い寄せられるように近づき、言葉よりも先に、相手の存在を確認するかのように抱きしめ合う。力強くというよりは、優しくしっかりと抱きしめるような繊細さと力強さが混在したような抱きしめ方は、見ている私の心を揺さぶるのに十分な美しさがありました。そして驚きでありながらも納得のいくのが言葉よりも先に抱きしめ合うという行為でした。

 「何も言わないんだ。でもそうだよね」と。

 コロナが引き裂いた関係もたくさんあったと思います。ですが、コロナがより強くした関係もあったんだということを感じました。これもコロナが残したものなんだな、と。
 必死に言葉にしようとするのも野暮だと思うので、今回はこの辺にしておきますが、人間のこういう部分は本当に素敵だな思います。恋人ではありませんが、私にも会いたい人たちがいたから同じようにその時、私も韓国にいたのですからそんな素敵な部分が私にも、私の韓国の友人にもあるんだな思えたことは、さらに私を嬉しくさせてくれました。
 そしてようやっく出てきた初めての韓国でテンションの高い友人に「恋したいな」と思わず言ってしまったらキョトンとされ、「寂しかったの?」と聞かれてしまい急に恥ずかしくなったのは良い思い出です。

いいなと思ったら応援しよう!