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居酒屋韓国 030 -韓国、電車での旅 春川 後編-

【これは『居酒屋韓国』というエッセイ集の一つの記事になります。韓国で韓国人の友人たちとの交流を通して経験したことや知ったこと、韓国語についてなど色々と書き綴っています。(小休止は主に韓国語学習について書いています)】

 今回は電車の旅とは話が少し変わってしまいますが、韓国、春川(チュンチョン、춘천)に住んでいる本当に仲の良い友だちとの話を書かせてもらいたいと思います。
 前回(中編)、紹介しなかった春川の観光地にスカイウォークがあります。名前は、昭陽江スカイウォーク(ソヤンガンスカイウォーク、소양강스카이워크)で、湖の上にあるガラスで作られた展望台で春川の素敵な景色が一望できる場所です。


 あるとき、友だちがこの場所に私を連れて行ってくれました。行った日は、秋晴れで空気は澄んでいて、風もなく本当に素晴らしい天気でした。スカイウォークからは美しい景色が見ることができ、スマフォでその景色を写真にしていました。そんな素晴らしい景色の中にちょっと変わった噴水?がありました。その噴水をよく見ると橋桁のようなものが見ることができました。友だちは、その橋桁について説明をしてくれました。


 この友人とは、日本で出会いました。友人は演劇に関わっている人で、友人の作品が日本で上演されることになり、そのイベントに少しだけ関わっていた私はそこで友人と知り合いになりました。その作品は朝鮮戦争をモチーフにしている作品で、言葉としては知っていても、深くは知らないその戦争をモチーフにした作品を私は、興味を持って集中して見させてもらいました。作品は戦争についてだけでなく、そこに描かれていた人間模様が感動的で今でも細部まで鮮明に思い出せるくらい素晴らしい作品でした。
 話を元に戻すと、スカイウォークから見えた橋桁は朝鮮戦争勃発時に壊された線路の橋桁だということでした。その線路はソウルまで続いていて、壊さないと北朝鮮の軍隊が簡単にソウルまで行けてしまうので壊したと説明してくれました。美しい景色の中にそんな物語が隠されているとは知らず、その説明を聞いていろんな事を考えてしまいました。
 でも、本当に頭をフル回転させて考えさせられたのは、この後の友人の言葉を聞いた直後でした。

「戦争があったから私たちは出会えたんだよね」

 私たちは何があっても、何かなくても連絡をとって、韓国でも日本でも会って話をして、お酒を飲む仲です。私にとっては、私の人生になくてはならない存在と言える友人です。その友人との出会いは先に書いたように、朝鮮戦争を題材にした作品を友だちが作ってくれたからです。ですから、戦争がなかったら友人の作品は存在しなかったわけで、作品が無ければ私たちは出会わなかったわけです。それを一言で指摘されました。
 友人も私も、戦争が大嫌いです。許せません。ですが、そんな戦争が私たちの出会いを創ったとも言える現実を目の前に、私は言葉を失いました。
 私たちは、戦争を肯定することは絶対にありません。
 私たちは、私たちの出会いを否定することは絶対にありません。
 この現実を、歴史の中にあっては矛盾してしまうこの二つの事実を私はどう受けとめたらいいのか、本当に分からなくなってしまいました。戦争がなければ私たちは出会えなくて、でもその戦争に感謝なんてできなくて、でも私たちの出会いは素晴らしくて……。
 秋晴れの気持ちの良い天気の下、美しい水辺の風景と色づき始めた山の景色を見ながら私は言葉を失いました。受け止め方も分からなければ、なんて言葉にしていいかも分かりませんでした。
 ただただ重たかった。重たくて、どうしていいのか分からなくて。悲しい話をしているわけでもないのに、とてもしんどくなって、でも今まで以上に友人との出会いが愛おしくも感じられて、私は混乱してしまいました。
 良いことも悪いことも、すべて歴史の中にはあって、それらはしっかりと繋がっていて、切り離すことなんてできなくて、それをどんなに重たくても受けとめて、その上に立って生きていかなくてはいけなくて……。友人との出会いには感謝をしながらも、その原因である戦争は否定して……訳が分からなくなってしまった感情を抱えて私たちは美しい景色の中にある橋桁をいっとき見つめ続けていました。
 今でも、どう言葉にしていいのか分かりません。ただ言えるのは、友だちとの出会いに感謝して、あの時に生まれたこの気持ちを、あの一言「戦争があったから私たちは出会えたんだよね」をあの場所、あの時に行ってくれた友人との関係をこれからも大切にし続けていこうという強い思いが胸の中に今も変わらずにあることを、今日もこうやって文章を書きながら確かめられることに感謝しているということです。こんな言葉にできない、特別な気持ちを与えてくれた友人に心から感謝です。
 これが私のスカイウォーク、春川への電車での旅です。これからも友人に会いに訪れると思います。皆さんも、もし興味があればぜひ行ってみて下さいね。もしかしたら、ソウルから遠出したからこそ、見ることができる、感じる事ができる何かがそこにはあるかもしれませんから。


 2024年最後の居酒屋韓国になります。拙い文章ですが、読んでいただいた皆様に心から感謝いたします。来年も、引き続き書いていこうと思っていますのでよろしくお願いいたします。
 皆様、良いお年をお迎えください。

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