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Traveler with finder 2. 永平寺

旅と写真は楽しい。8月に初めて一人旅をして、僕はそれをよくよく実感した。それからというものの、僕はこの、高校生の寂しい財布事情に強烈な右ストレートをかましてくるこの趣味に取り憑かれ、気づけば常にスマホで旅情報を検索するようになっていた。
かくして11月、いよいよ紅葉が赤くなるその日に、僕はまた旅に出た。

今回の目的地は永平寺。仏教、曹洞宗の大本山である寺だ。福井県には多くの紅葉スポットがあるが、中でもここは格段に美しい紅葉が見られるそうで、前から一度は訪れたいと思っていた。

そうして朝イチのバスに乗り込み、曲がりくねった山道を一時間弱。どんな景色だろうか、どう撮ろうかと期待しながら旅へ出た。

さて、実を言うと今回の旅は一人旅ではない。同じくカメラ好きの友人二人を誘い、3人での旅行だ。一人で行く旅の気楽さといったらないというのは確かにそうだが、団体旅行にはまた別の楽しさがある。――まあ、3人共一眼レフを背負った集団なので、よくある友人間の旅行のそれとは違うのだが。少なくとも、スマホの内カメで自撮りをするタイプのそれではないし、お互いそういうのが好きな人間ではない。なればこそカメラ仲間なのかもしれないが・・・・・・

そして、今回は前に使ったSONY A37に加えて、新しいカメラを持ってきた。Minolta a9000 フィルムカメラだ。

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もとは家の押し入れを漁っていたら出てきたMinoltaのレンズ、それに合うようにAマウントのカメラを購入したわけだが、実は本体も発掘していた。とはいえ、流石に動かないだろうと特に触らず放置していた。
僕がフィルム写真に興味を持ったのはそのすぐ後。とはいえ新しいカメラを買うほどの金はなく、ダメ元で電池を入れてみると――動いた。
そして買うのを躊躇しそうな値段のフィルムを巻き、しっかり撮れることを祈りながら撮ってみると、見事に写っていた。初めてのフィルム、その写りにどっぷりとハマってしまった。
なお、一眼レフを2台、レンズは合計3本、これだけ持つと肩への負担が冗談にならないのだが、まあ、良い写真の対価と思えば安いものである。

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永平寺は、その周辺からすでに風情に溢れた町だ。上の写真は永平寺の少し前にある旅館の前で撮ったもの。流れる川のせせらぎと、並べられた木々の紅葉、そして和を感じさせる建築が見事に合わさった景色で、本題に入る前から3人そろってハイテンションだった。すでに求めていた景色を見れたと言わんばかりだったが、本命はここではない。もう少し歩くと、ついに永平寺が見えてきた。

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息を呑んだ。歴史を感じさせる寺院の建築に、紅葉と常緑樹、それによってできた影のコントラストが創り出した景色は、まるで異世界に来たようで。何枚も何枚もシャッターを切った。こんな綺麗なところがあったのか――正直、僕は自分の地元を舐めていたと思う。

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生い茂る木々は、まるでトンネルのように道を覆っていた。フィルムカメラを取り出し、巻き上げてシャッターを切る。美しい景色をフィルムに焼き付ける。これがとにかく楽しい。デジタルとフィルムを交互に構えて、あちこちを撮っていく。

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紅葉は燃えるように赤い。望遠レンズで拡大すると、葉の一枚一枚の形状が映り込む。ファインダー越しで見る紅葉には、普段何気なく見るそれとは全く違うものが見えてくる。
そんな紅葉の道を抜けてついに寺内部の見学だ。先に買っておいた拝観のチケットを手に進む。

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寺に入る前に、まず手を洗わなければならない。入口前に設置されたこの手洗い場。龍の口から水が飛び出る面白い構造だが、なんとセンサー式で、自動で水が飛び出た。見た目に反してずいぶんハイテクだ。
さらに入口には検温用にサーモカメラがあるし、寺内部に一歩足を踏み入れると、そこにはまるで普通の会社のデスクのような場所でパソコンを操作しているお坊さんが。僕はこういう宗教的なものはお堅く古いイメージを持っていたが、思った以上に時代に適応しているものだ。まあ、当然といえば当然ではあるのだが。

そして通路を進んでいると見えてきた、有名な「天井間」だ

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大きな和室の天井一面が正方形に区切られ、そこに見事な絵が描かれている。首が痛くなるのも忘れるほど圧倒的な光景だ。
ちなみに、なんでもこの中からある5枚の絵をすべて探し出せると願いが叶うのだそうだが、この時の僕はそんなことはつゆ知らず「すげえなあ・・・」とつぶやくだけだった。

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さらに進む、進む、進むが――広い。正直、こんなに広いとは思っていなかった。こんなにデカイ建造物、よく建てたものだと感心しかない。

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しかも、どこをどう切り取っても美しい。もちろん今の永平寺はかつてのそれとは違うが、しかしコンピュータどころではない技術の時代にこれほどのものを作るというのは、何が人をそこまで動かすのかと思う。

一通り参拝を終え、ちょうど良い時間となったので昼食を取ることにした。少し下ったところにあるそば屋「山楽亭」で蕎麦を食べることに。

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福井県といえばおろし蕎麦だが、いかんせんこの時期は寒い。と思っていたところ、温かいおろし蕎麦があった。おろし蕎麦といえばほぼ冷たいものだったので少し新鮮に思い食べてみる。
うまい。冷たいのよりも美味しいかもしれない。大根おろしの辛味が温かい出汁と美味しい蕎麦に絡んで、手が止まらない。駅そばやカップの蕎麦も好きではあるが、やっぱりそば屋の蕎麦は違う。あっという間に平らげてしまった。

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腹を満たし、最後に寺の奥に続く道へ。紅葉赤く木々が並び、川が流れる美しい風景があった。

苔が生えた道や橋、黒い木の幹に、葉の色もどちらかといえば黒が強い。シャッターを切ってみると、落ち着いていて、厳かな感じの風景が見える。ちょうど空も曇ってきて日光が弱くなってくると、黒、深緑、赤のコントラストが映えて来る

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いいものを見た――そんな満足感に包まれながら、帰りのバスに乗り込んだ。最後、帰るギリギリに雨が降らなければ、完璧な旅であったのだが――

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