超時空薄幸児童救済基金・3

#小説 #連載小説 #ゲーム

 マガジンの初めにも簡潔に説明していますが、奇妙な慈善団体に寄付をし、異世界で暮らす恵まれない少女の後見人となった「私」の日記です。
 私信(毎月、少女から届く手紙)と、それを読んだあとの「私」の感想部分が有料となっています。時々、次の手紙が届くまでのインターバルに、「私」が少女への短い返事を送るまでの日記が書かれることがあります。こちらは、基本的に全文が無料となります。

(バックナンバーについて)
※マガジンで一覧を見たほうがわかりやすいですが、こちらにもリンクを。
超時空薄幸児童救済基金・1
超時空薄幸児童救済基金・1Re(全文無料)
超時空薄幸児童救済基金・2
超時空薄幸児童救済基金・2Re(全文無料)


 それでは、奇妙な「ひとりPBM」的創作物をお楽しみください。

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 あれから、連絡役の男は一向に現れなかった。
 おかげで私は、ここ数週間、かなりやきもきしながら彼を待っていた。
 「もしかしたら、次に来るときには少女の次の手紙を持ってくるんじゃないか?」そう思うと、気が気ではなかったのだ。
 手紙が届いてしまっては困るのだ。なぜなら……。

 前回の手紙を読んで、少女が必要としている品物を贈ってあげたいと思っていたからである。
 あの男は「寄付金の範囲でなら、あちらの物品を買い与えられる」と言っていた。しかし、私からは連絡の取りようがないのだ。あいつが訪ねてこない限り、その話ができない。
 贈ると彼女の助けになるのではないか……と思った品物は、三つほど思いついていた。

 一つは、便箋用の紙――。
 あちらの世界では紙はなかなかの貴重品らしい。
 これは推測でしかないが、専用の植物が栽培されて産業として成り立っている(彼女の手紙は植物の繊維で作られたものだった)ものの、大量には生産されていない――といったところだろうか。
 とはいえ、寄付の条件で手紙を送ってくるのだから、紙は必需品なのだ。不自然でない量を、「これで手紙を書きなさい」と“おじさま”からプレゼントしても問題はないはずだ。紙不足で手紙が書けなくなっても困るし。

 二つめは手鏡――。
 少女が、自分の容姿をぼんやりとしか伝えられなかったこと自体は、気にならない。ただ、年頃の少女なんだし、鏡ぐらい後見人として贈ってあげたい気持になってしまう。とはいえ、唐突に高価なものを贈り与えるのは、異世界の住人である彼女の人生に影響を与えすぎる気もする。
 やはり、特別な日にでも、理由をつけて贈るべきかも……。

 三つめは、手紙を読み返していてあとで思いついた品――簪だ。
 髪飾りというよりは「兜をかぶるときに髪を束ねるための道具」を贈ってはどうか……ということなのだが。
 前の手紙から一か月足らずだから(こちらと同じ時間が流れているかは定かでないが)、まだそれほど髪は伸びてはいないだろうし、髪を束ねる必要に迫られているかわからないが、今後のことを考えると、彼女にとっては鏡より必要な品物かもしれない……。

 ……とまあ、そんなことを考えていた。
 なので、玄関のチャイムが鳴ったとき、私は慌てて彼を出むかえたのだ。

「やあやあ、もしかして……もう手紙が届いたのかい?」

「いえ、申しわけありません。実は、手紙の遅れを伝えに来たのです。新しい生活が始まって、彼女は少し疲れているようでして。無論、あなたからの言づてはきちんと伝えてあります。もうしばらくお待ちいただければ……」

 それを聞いてホッとしている私を、男は不思議そうに見つめた。

「どうしました?」

「ああ、いやなに、ちょっと話があってね。できれば、彼女が手紙を書いてしまう前に相談したかったんだ」

「ほほう。ご相談とは?」

「以前、彼女に品物を渡せると言ってたよね」

「はい。可能ですよ。渡すものにもよりますが……」

「それじゃ、この三つはどうだろう」

 考えていた品々を告げると、彼は「いずれもあちらの世界にも似たものが存在するので問題ないでしょう」と請け合ってくれた。

「ただし……」

 ぴんと人さし指を立ててから、彼は話を続けた。

「一度に渡せるのは、三つのうちのどれか一つだけです」

「ふむ……」

 やっぱりそうきたか。
 では、渡したときの少女に与える影響や、あちらの世界でのこれらの品物の価値などを聞いてから判断するとしよう。
 彼の話では、やはり手鏡や簪はそれなりに高価なものなので、後見人からにしても、理由もなく突然に渡すのはよくないみたいだ。

「なにか特別な節目ならいいのか……。誕生日とかはどうなの?」

「あちらでも、祝う慣習はあります。もっとも、これまで彼女は、誕生日に個人で所有できる品物を贈られたことはないようですが」

 なんてことだ。恵まれなかったとはいえ、あまりに可哀想すぎる。誕生日には、ささやかながらプレゼントを贈らせてもらおう。

「彼女の誕生日はわかる?」

「いえ……。ああ、もちろん調べればわかります。あるいは彼女に、手紙に書いてあなたに教えるよう伝えましょうか?」

 自分のことを詳しく書いてきたところをみると、彼女は後見人が自分のことを何も知らないと思っている(実際、知らなかったけど)。誕生日のことも、なにも聞かずに突然送るより、彼女から教わった上でプレゼントする方が自然だろう。

「いつ14歳になるのかを知りたがっていた――と、さりげなく伝えてもらえるかな」

「わかりました。やってみましょう」

 では、手鏡(もしくは簪)を贈るのは、しばらく待とう。
 今月はまず……。

「便箋用の紙を何ヶ月分か、彼女に渡してください。『後見人から、騎士見習い殿への支援物資』と称してね」

「承知しました。そう伝えます」

 と、男がうなずいた。
 これで当分、紙不足で手紙が届かなくなる心配はなくなった……。


 それから一週間――。
 ようやく、待ちに待った手紙が届けられた。
 早速、訳文を読もうと文面に目を通すと……。

 あの、謎だった“タフルィース”という呼び名と共に、弾けるような感謝の言葉が、私の目に飛びこんできた。

 そう、こんな感じに……。


 親愛なる“タフルィース”のおじさま!

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