超時空薄幸児童救済基金・4

#小説 #連載小説 #ゲーム

(はじめに)
 マガジンの冒頭でも簡潔に説明していますが、奇妙な慈善団体に寄付をし、異世界で暮らす恵まれない少女の後見人となった「私」の日記です。
 私信(毎月、少女から届く手紙)と、それを読んだあとの「私」の感想部分が有料となっています。時々、次の手紙が届くまでのインターバルに、「私」が少女への短い返事を送るまでの日記が書かれることがあります。こちらは、基本的に全文が無料となります。

(バックナンバーについて)
※だいぶ数が多くなってきたので、マガジンで一覧を見てください。時系列順に並べてあります。

では、奇妙な「ひとりPBM」的創作物の続きをお楽しみください。

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 騎士見習いの修業が始まってから一か月が過ぎた――。

 あの少女はどうしているだろうか。
 練習中の投げ槍は、上手く投げられるようになっただろうか?
 従騎士になるには、馬(例の『角があって蹄が二つに割れた馬』だが)に乗って森へ出られるようになる必要があるらしい。
 しかし、手紙によれば、夏の大森林は入ったが最後迷って出てこられないような恐ろしい場所みたいだ。
 彼女の願いのひとつ、竜に殺された両親の亡骸を見つけ出すには、まだまだ修業と準備が必要だろう。もうひとつの夢である一人前の騎士になれたなら、森を探索しても生き残れるはずだ。

 ……などと、会ったこともない、それどころか、私を都に住む奇特な金持ちと思っている異世界の少女の人生に、あれこれと思いを馳せてしまう。
  仕事が一段落して少し暇になったので、これまでに届いた手紙を読み返していたのだ。
 もちろん、読むのは訳文のほうなのだが、直筆の手紙とも見比べて、彼女の名前をあちらの言葉で書いてみたりしてみる。流れるような形の見慣れない文字だが、何回か書いているうちに名前ぐらいは書けるようになった。習いたての彼女の書く文字はどこかたどたどしい。読んだり書いたりする向きが、こちらの言葉と同じなので親しみを感じる。
 まあ、こっちの世界にも反対側から書く外国語があるし、たまたま一致しただけだろうけど……。

 連絡役の男がやって来たのは、そんなある日のことだった。

「そろそろ来る頃だと思ってたよ」

「手紙をお届けに参りました」

「えっ、もう届いちゃったの?」

「はい……」

 男は申し訳なさそうにうなずくと、いつもの通り、手紙と訳文をくれた。

「本当は、手紙が届く前に伺おうと思っていたんです。あなたの言づてを聞いて、彼女がすぐに書き始めたらしくて……」

 な、なるほど、あまり具体的な言づてを送ると、彼女も張り切って返事を書きたくなってしまうのかもな。便箋の心配もなくなったし……。
 もちろん、楽しんで書いてくれるのは嬉しいことなんだけれど。

 ところで、寄付の追加をするための新しい口実を考えてくれただろうか……と、思って聞いてみたが、あまり良い返事はもらえなかった。

「新たな寄付金をあちらの世界に投資して彼女名義の資産にする……というのは難しいようです。貨幣経済がそこまで発達していないので、御希望通りの形には手間と時間がかかり過ぎるのです」

「ふうむ」

「彼女が騎士になるまでの費用は、以前の寄付で十分過ぎるくらいです。砦の復興費用に見習い騎士の育成の経費も含まれていますからね」

「それはわかってるけど、騎士になったあとは?」

 『あしながおじさん』のジョン・スミス氏は、学院を卒業したあとのジョディを自分ちに“永久就職”させたから、卒業後も面倒を見られたが、こっちは異世界の後見人なんだから、なにかべつの手だてを考えないと……。

「騎士は、あちらの世界では、功績が認められれば尊敬される職業ですから、食いっぱぐれはないと思いますよ」

「ふむふむ」

 しかし、たとえ騎士になったって、大怪我をしたり、功績を挙げられなかったりすることもあるだろう。

「だったらさ、前回の金額で砦が直せたくらいなんだし、土地や屋敷を買えないだろうか。シォナン・ドルクドの名義で所有しておいて、あとで彼女に譲れるような……」

「わかりました。可能かどうか、先方に打診してみます。ああ、それから、これはこちらからのご提案なのですが……」

 そう前置きすると、連絡役の男は「もし寄付する気があるなら、もう一人、他の児童を支援するつもりはないか?」と聞いてきた。

「それって……つまり、別の子の後見人にもなれってこと?」

「はい。あなたは、異なる世界の児童の後見人を立派に務めてらっしゃいますから、お勧めしても良いかなと。また、別の世界に住む児童に……」

「払える範囲の金額で……?」

「ええ。前にも説明しましたが、後見人の無償の愛を必要とする可哀想な子どもたちは、ありとあらゆる時空にいるのです。たとえ、現代社会では少額だとしても、他の時代や異なる世界では充分な援助額に……」

 きまり文句をスラスラと並べたて、にっこりと笑みを浮かべる男。
 いや待て。その場合、後見人として受け取る手紙は二通になるのか?
 べつべつの時期に届くのだろうか?
 もうひとつの異なる世界の様子を知ることが出来る?
 ふーむ。まあ、今は懐事情が悪くないから別に構わないけど……。
 ただ、そんな話をされると、また「これって詐欺なんじゃないの?」疑惑が蘇ってくる。
 まあ、自分から寄付の追加を申し出ている時点で、とっくに引っかかってしまっているわけだが……。詐欺なら、わざわざそれを断って他の提案をしてくるだろうか?
 しばらく考えてから、私はうなずいた。

「わかった、それも考えとくよ」

「良いお返事をお待ちいたしております。では……」

 男は一礼して去っていった。

 ドアを閉めると、いそいそと手紙を開く私――。
 彼女からの手紙は、今ではもう毎月の楽しみになっていた。できることなら、こちらからも長い手紙を書いてあげたいくらいに。
 訳文を読み進めると、少女が修業を楽しんでいる様子が伝わってくる。便箋を前にして、あれこれ考えながらペンを走らせている姿が思い浮かんだ。彼女は、私の質問に答えようと一生懸命なのだ。
 そう。こんなふうに……。


 親愛なる“タフルィース”おじさま

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