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映画監督に聞く「出雲らしい景色」

観光で、せっかく出雲に来たのなら“出雲らしい景色”をスマホで写真に収めて帰りたい。

では、どこに行ったら、そんな写真が撮れるのか?

アドバイスを求めるべく出雲市出身の映画監督 錦織良成さんのもとへ。
地元の美しさを知り尽くした錦織監督なら、
きっと素敵な場所を教えてくれるはず……。


まずは、錦織監督のプロフィールをご覧ください。

錦織良成 1962年、島根県出雲市生まれ。96年、自身の脚本による『BUGS』で劇場映画監督としてデビュー。東京国際ファンタスティック映画祭に正式出品を果たす。
99年『守ってあげたい!』の脚本・監督を手がけ一躍注目を浴びる。初めて故郷の島根を舞台にした『白い船』(02)は、その年のミニシアター邦画作品の全国興行成績1位を記録。何気ない日常をとらえる描写力と柔らかい映像センスに定評がある。
《作品歴》白い船(02)/ミラクルバナナ(05)/うん、何?(08)/RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語(10)/わさお(11)/渾身 KON-SHIN(13)/たたら侍(17)/僕に会いたかった(19)/高津川(19) ほか。「たたら侍」では、第40回モントリオール世界映画祭最優秀芸術賞を受賞(16)

錦織監督のご自宅でお話をうかがいました(2024年1月)


365編集部(以下:365)
 錦織監督なら出雲市中をくまなく映画のロケハンで回っておられるので「出雲らしい景色」を撮るならここ!という場所をご存知なのではと、今日お邪魔させていただきました。

錦織監督(以下:監督) 難しいお題ですね。「出雲らしい景色」。たしかに映画に映る地元の景色を、皆さん素敵と言ってくれるんですけど……。

365 はい。私たちも素敵だと思ってまして。映画『白い船』の冒頭、少年の素潜りから始まって、日本海、小伊津町の町並み、バスが海岸線を走って、子供たちが階段を登って学校へ向かって、校庭を映したカメラが俯瞰からぐぐぐと、海を背景に塩津小学校が……。

監督 うーん。私は映画監督なので、まず最初にお話しなければならないのですが、あれは映画のストーリーに沿ったものしか撮っていないんです。出雲に美しい景色はたくさんあります、だけど、ただそれを映しても映画にはならない。
美しい景色の裏には物語があって、物語の中には地域の文化や歴史がある。そこで暮らす人々の生きざまがある。そういう自分たちの普段の暮らしとちょっと違う、暮らしや文化を観ることができる。それが映画の役割のひとつだと思っています。

365 生きざま……。

監督 僕としては景色の裏にある人の生きざまが写せるなら、それが一番美しいんじゃないかなと思います。
景色はデザートみたいなもので、メインディッシュはそこにある歴史とか、そこに住んでる人たちの生きざまです。
そこに居る人たちがいかに輝いているか。それが観光で、光を観に行くということだと思います。

365 出雲には、出雲で暮らす人が光り輝く文化があると。

監督 景色がいいから観光地になっている所もありますけどね。

365 でも文化を撮るとなると、ちょっと難しく感じてしまいます。

監督 文化と言っても、例えば『十六島(うっぷるい)のり』をとってらっしゃるおばあちゃんの姿とか……映画『高津川』の撮影は出雲市ではないですが、川でアユ釣りをしているおじさんたちがいて、川から見える橋の上を軽トラがガーッと走っていく姿をトータルで見たときに、その地域の文化が見えるでしょ。

365 なるほど。映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の中で、中井貴一さん演じる主人公が、母の入院を機に里帰りしてくるシーンがあって、家に着いたとき隣の家のおじいさんが畑を直してくれていますよね。

監督 そうそうそう。おばあちゃんが入院してる間に畑が荒れてしまうから、近所の人がお世話するっていうのは出雲のあるあるですよね。

365 都会だと、なんで勝手に人の土地に入っているんだ、となりそうです。

監督 地域が繋がってるからできることだよね。 立派な地域の文化です。

365 出雲は出雲大社が有名なので、神社のある風景というか、パワースポットとかスピリチュアルな文化も写せたらいいのですが。

監督 パワースポットとかスピリチュアルっていうのはその人が普段どう思ってるかだよね。 「潮汲み」という風習知っていますか?

365 稲佐の浜で「潮汲み箍(たが)」という竹筒で海水をくんで、出雲大社に参拝したあと、笹の葉で海水を振りかけて家を清める風習ですよね。

監督 そうそう、これはその地域の人たちが、家族を守るため、地域を守るため、目に見えない力みたいなものに願う姿ですよね。それは地域の人たちが結束するための行為の一つだと思うんです。

出雲市大社町「稲佐の浜」での「潮汲み」
竹の筒を「潮汲み箍(たが)」という(編集部撮影)


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 そういえば私も毎月1日には氏神神社を参拝してます。なんで続けているかと聞かれると困るんですが。

監督 それ明確な理由はないもんね。出雲では、目に見えない八百万の神や、森羅万象に神様が宿っているんだという価値観が自然なかたちでまだ多くの人の心の中に残っていると思います。目に見えない力、それを信じている人たちがいる景色こそが出雲であり、信じて祀って、ちゃんとお祭りをやっている人たちがいて、それが何百年も続いている。そのことが美しい。

365 それを住んでいる人は普通に、当たり前のようにやっている。

監督 海外の人の方がそういうことには敏感かもしれないね。景色を単なる景色として見ないで、文化が違うなって思って見ていますよね。 ラフカディオ・ハーンの『知られざる日本の面影』に書かれている美しい景色がまだ残っているんだと思います。

365 当時の出雲の人々の生活、美しい自然、信仰などが書かれたハーンの本を読んだとき、めちゃくちゃ褒められた気分になった記憶があります。

監督 あのころから失われたものもたくさんあると思うし、人口が減っていて若い人も少なくなっているかもしれない、でも一畑電車の無人駅でふらっと電車を降りたとき、その辺りを何気なく歩くと、田んぼのあぜが綺麗に整えられてて、草刈りして雑草も少ないし、各家の庭や畑には花が咲いて手入れされていて、丁寧な暮らしが感じられる。だから出雲の美しさって、単に風景、絶景ではなくて、そこに住んでる人たちが生きている景色が美しい。そう考えると「出雲らしい景色」というお題、難しいんですよ。ものすごく。

出雲市佐田町の田園風景(編集部撮影)

365 ううう、なるほど。「出雲らしい1枚が撮れるロケーションを教えてください」なんて、浅はかな考えでした。
ここまでのお話を聞いて考えたのですが我々編集部なりに出雲らしい景色を撮影して来ようと思います。それを監督に見ていただきたいです。

監督 なるほど。せっかくの機会なので、景色だけじゃないんだと。そこに住んでる人たちの生きざまが写ると、きっといい写真だよね。それを踏まえて撮ってきてもらえたら嬉しいです。



と、いうことで…
出雲365編集部は「出雲らしい景色」を探して、出雲市内へ!撮影した写真は別の記事で紹介します。
写真は継続的に撮影中!上で紹介した「潮汲み」「出雲市佐田町の田園風景」も編集部が撮ってきた写真です。

そして、Izumo365インスタグラムでも、動画や写真で出雲を紹介しています。フォローしてもらえたらうれしいです。



会話に出てきた錦織良成監督の作品をご紹介。


聞き書きIZUMO365についてはこちら


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