見出し画像

近道なんか、あるわけない。


わりと強めなタイトルですが、
マーケティング、ブランディング、そしてクリエイティブ について
学びたいという方からいただく質問で最も多いのが
「どうしたら、早く上達しますか」というものです。
今日は、この話について、書いてみます。


1 一人前までが、一番辛くて、楽しい。

僕がコピーライターになりたての頃、
いちばん辛いと思ったことが、いくらコピーを書いても採用されない、
ということでした。
採用されない、ということは、何も残らないわけで
自分の進歩を実感できないことになります。

デザイナーであれば、いいアイディアをたとえ出せなくても
その後に「データ制作」という作業によって、会社に貢献できますが、
コピーライターの場合は、アイディアがすべて。
コピーができないコピーライターには、居場所がありません。
その仕事が終わり、次のチャンスを待つしかないわけです。

どうしたら早く上達できるのだろうか。
僕がいま、多くの人から質問をいただくことは
自分が駆け出しの時、最も悩んだことでもありました。

しかし、今から思えば、この頃に悩んだこと、
たくさん考えたことが、自分を支えてくれています。
そして、あれこれ悩んでいたことが、逆説的ですが
後で思い起こすと、楽しかった思い出にもなるのです。


2 早く上達しようと思うから、上達しない。

ある時、師匠に言われました。

「上手に書こうとするから、書けないんだ。上手なコピーなんて
誰も求めてないからな」

上手になりたい、上手に書きたいという心理の裏側には
いくつもの「お手本」があります。

あんな名作を書いてみたい。
師匠やクライアントが納得するコピーを書きたい。
どうしたら、カッコいい言葉を生み出せるのか。

本を読んだり、先輩に話を聞いても、
早く上達する秘訣について、ヒントすら見つかりませんでした。

当時は、無我夢中だったからでしょうか、
結局のところ、そのまま秘訣も見つからないうちに
時間ばかりがすぎていきました。

しかし、一つだけ心がけたことがあります。
それは、結論を急がない、ということです。


3 クリエイティブには、答えが無数にある。

学校教育に慣らされてきた脳みそは、
いくつかの「正解」を出すように訓練されています。
広告制作においても同様で、クライアントのオリエンや
ディレクターの意に沿うように、答を出すように考えてしまうのです。

ところが後で気づいたのですが、この正解というのは、
最初の段階では、クライアントはおろか、ディレクターや師匠ですら
わかっていないのですね。

実際に考えを進めていきながら、おぼろげに「正解」のような
ものが見えてくる。いくつものアイディアを具体的に考えていきながら
それが「正解だろう」というように、思えてくるわけです。

また、クリエイターによって、この「正解」が異なります。
クリエイティブの仕事は、超属人的であり、人によってアウトプットが
異なります。そして、それぞれが、正解であるともいえるのです。


4 無駄な努力はしなくていい。

僕がコピーライターの修行をしていた当時は、
広告関係やクリエイティブに関する書籍も少なく、
情報が極度に少なかったという記憶があります。

今のように、インターネットがなかったわけですから
広告に限らず情報量は限られており、クリエイティブの修行も
何かのノウハウを教わるというより、それこそ「先輩の背中を見て
覚えろ」という、禅問答のような状態でした。

今改めて考えると、ちょっと遠回りしたかなぁ、という気持ちもあります。
そのため、若い人たちから質問をもらうと、自分がわかる範囲で
近道ができるような、セオリーや秘訣を教えてあげるように
心がけているのですが、それは僕なりの答えの出し方、でしかありません。

無駄な回り道はしなくてすむかな、程度のことでしかなく、
画期的な近道には程遠いものであるでしょう。


広告クリエイティブに限らず、アイディアをビジネスにする難易度は
今も昔もそんなに差がないような気がしています。
たしかに、過去事例などをもとに、「それ風につくる」ことは
昔よりはるかに楽になりました。

しかし「それ風なもの」は、参考にはなっても
実際の仕事では使えません。
むしろ、亜流である時点でクリエイティブにとっては弊害でしかなく、
場合によっては、「それ風」に囚われてしまい、ほんとうに
オリジナルなものを生み出せない、という悪循環もあります。

身もふたもない結論ではありますが、
近道を探すより、ゆっくりでも着実に歩き続けたほうが
目標にははるかに早く到達するのではないか、と思います。

僕も、もがいているうち、ある日急に目の前が開けたように
周囲が自分のクリエイティブを認めてくれた記憶があります。

きっとみんな、そんなもんです、たぶん。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?