NHK「WDRプロジェクト」落選後のひとり反省会⑤

最終回「提案」

いよいよ10月からプロジェクトの活動がスタートするとのことだが、3月までの間、どういうルールで運営されるのだろうか。
今となってはただ寒い話だが、実は二次試験の面接まで進んだら、(もしかしたらNHKサイドからは言い出しにくいかもしれない)プロジェクトを進める上でのルール案をプリントアウトして持参し、その場にいる審査員の皆さんに配ってプレゼンしようと思っていた。
(結局、面談はオンライン開催だったみたいだが。地方在住で渋谷まで来れない人と条件をイーブンにすべく配慮したのだろう)

もちろん毎回情熱的で発展的なブレストが行われ、何の問題も起こらないに越したことはないし、このプロジェクトを応援している一人としてもその円滑な進行を強く望んでいる。

…しかしながら、自分もこれまで映像制作の仕事で大小さまざまなチームを組んできた経験から「人と人の組み合わせが生む不協和」というものを何度も目にしたり、またシナリオの学校でも当初は慈母みたいに慕われていた人が、クラス内の色恋でこじれた挙句に鬼のようなストーカーに変貌して周囲を大混乱に陥れたりするなど、様々な場面をこの目にしてきた。

それらの経験を踏まえ、いわゆる性悪説寄りの観点から、下記のことを提案しようと思っていた。

・ライターズルームで話した内容は絶対に口外しない
・ブレスト中の録音を禁止する
・デジタルデータの共有は基本禁止する
・上記を包含した秘密保持契約を結ぶ

東京五輪開会式の演出チームのアイディア出しのLINE内容がリークされて問題になったが、あれは本当に悪しき前例を遺したと思う。
他のメンバーがあの総合統括の人物に対して憎悪を募らせていった理由も理解できなくはないが、さすがにあのリークはルール違反だし、リークした人物は特定され、厳しく罰せられるべきだと思う(その後は犯人探しをする雰囲気でもなかっただろうが)。
特にドラマ作りのブレストは、ある程度モラルや常識というものを意識的に頭から外して取り掛からないと、面白いものなんか生まれないだろう。

ノーベル賞作家のG・ガルシア=マルケスが、それこそライターズルーム形式で他の映画監督や脚本家たちとブレストをしながらテレビドラマ用のストーリーを作っていく過程を記録した「物語の作り方」という本があるのだが、その中で下記のようなやり取りがある。

レイナルド「(中略)その時、魚の頭を切り落としている彼女を見かける」
ガルシア=マルケス「子供の頭でもいいんじゃないか」
レイナルド「えっ、なんですって」
ガルシア=マルケス「このストーリーにはきちがいじみたところがない、そう言いたいんだ。君たちは真面目すぎるんだよ」

状況を現代の日本に置き換えて、これがリークされたとしたらブタリンピックどころの騒ぎじゃないのでは...?とつい思ってしまうが、議論を刺激するとか硬直化したストーリーをひっくり返して考える際には、こういう火炎瓶を投げることも一つの手段だと思う。

(それこそ「ブレイキング・バッド」製作時のプレストなんて、「車椅子のパイプ部分に爆薬を仕込んでさー」「気管に〇〇が詰まるんだけどそれを放置してさー」とか、恐ろしい言葉とアイディアが飛び交っていたはずだ)

ただでさえNHKというだけで粗探しをされ、ネタにされ、足を引っ張られやすい現状で(考え過ぎかもしれないが…)、もしこのプロジェクトにおいて何かしらの失言が槍玉に上げられる、もしくは攻撃のネタになりそうなブレスト内容が切り取られリークされて糾弾された場合、プロジェクト自体が吹き飛んでしまう可能性さえあると思う。

日本における「秘密保持契約(NDA)」の有効性については、実はほとんど判例も無く、有名無実なものとなっているが、ブレストの内容漏洩防止のほか、メンバーそれぞれがリライトを重ね磨いていくパイロット脚本の流出を防ぐためにも「ライターズルームで話した内容は絶対に口外しない(これはメンバー全員を守るためのものでもある)」「デジタルデータの共有は基本禁止する」「ブレスト中の録音を禁止する」など、法務部と相談して抑止力のあるガチガチ特約付きの「秘密保持契約」を選抜メンバーと結んでもいいのではないかと思う。

・雇用契約を一ヶ月おきの更新とすること

選抜メンバーの活動期間は10月から5月までとなっているが、こちらも「どういう人的対立が起こるか分からない」という性悪説の観点から(考え過ぎですよねそうですよね)、雇用契約は一ヶ月更新にした方がいいと思う。

アメリカのライターズルームでは、そもそもリサーチャーからスタートしてシナリオライターになっていくという流れがあるので、明らかに協働が難しそうな人はそこでスクリーニングをかけられると聞いたことがある。
よって一軍のライターズルームには創造性とコミュニケーション力を兼ね備えた人が残り、結果としてブレストもより精度の高い、発展的なものになっていくらしい(アメリカではそもそもディベートの授業があり、また、すぐに「Let someone go」できる法律と相互認識があるというのも大きいと思うが)。

もちろん些細な問題すら起こらず、毎回、和気藹々と発展的なブレストが行われればそれでいい。
だが、もし個人が何か問題を起こした場合、NHKがドライな処理を行うのは一般的な企業に比べてさらに難易度が高いと思われるので、それであれば途中からルールを強めていくよりは、当初から性悪説に寄った雇用契約を結び、厳格な行動規範を定めた方が、結果的にメンバーの意識も高まり、自由にディスカッションが出来るのではないか。

そのほか

・マウンティング防止のため「ブレスト中は誰に対しても必ず敬語を使うこと」
・SNS使用のガイドラインを明確に定める(次の仕事に繋げるためのアピールをしたいと思うのも人情)

などなど、プロジェクトが円滑に進むためのルールをいろいろ考えたりもしたが、そもそも超優秀な方々が面談して、超優秀な方々が選抜されているので(2045人中の10人ですよ?!)、すべては杞憂に終わるのではないかという楽観的な予感もある。

ただ、絶対に成功して欲しいし、絶対につまんないことでコケて欲しくない。

この夏の全てを、このプロジェクトに賭けた人間としてそう強く思う。

最後に。

選抜されたメンバーの皆さん、おめでとうございます‼️
皆さんのご尽力により、WDRプロジェクトから生み出された企画が映像化され、日本のみならず世界を席巻するドラマになることを、心の底からお祈りしております‼️

(ようやく言えた。)

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