#56 小説『メディック!』【第12章】12-4 俺×五郎 判断
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五郎隊は、無事崖下に到着した。
「大丈夫ですか!?航空自衛隊の者です。救助にきました」
勇登がそういうと、少し太めの男性は顔を覆っていた腕を外し、うっすらと目を開けた。額には艶があり、この雪の中でも血色がよさそうに見えた。年齢は40前後といったところか。
「どこか痛いところはありますか?」
「うぅ……」
男性はかろうじで意識のある状態だった。
勇登は男性の足元にしゃがんでいた五郎を見た。
――!!
勇登の心臓は、一度大きく跳ねた。
左膝から下が通常ではない方向を向いていた。
五郎は何ごともなかったように素早く男性の足に板を添わせた。自分たちが大騒ぎしたら、彼が不安になるだけだ。勇登は平静を装って、男性への声かけを続けた。
そして、男性を連れた五郎隊はピックアップポイントへの移動を開始した。
ピックアップポイント到着の頃には、日没を迎え辺りは真っ暗になっていた。
――蜘蛛の糸みたいだ。
ヘリからのダウンライトに照らされた、一本のワイヤーを見て勇登は思った。
雲の切れ間を縫って救難隊のUH60-Jが到着した。
未だ雲が多く天候は不安定だった。
「はじめに、要救助者と沢井だ」
五郎が端的にいった。
「俺は勇登の後で構いません」
ジョンはすぐにそういい返した。
「お前、本当は体調悪いだろ」
「!」
「顔に出てんだよ。いうとおりにしろ」
ジョンと担架に乗せられた男性が、ゆっくり吊り上げられていった。
風が強まると同時に、大量の雪が降りはじめた。雪雲がヘリの上を覆い始めた。
地上からロープで担架のバランスを取っていた五郎の表情が厳しさを増した。ヘリが大きく揺れ、吊られた二人も激しく揺れた。それに合わせて見守る勇登の顔も大きく揺れた。
一瞬風が止み、ヘリはバランスを取り戻し、二人は無事ヘリに収容された。
再びワイヤーが下ろされるはずだった。しかし、ヘリは大きなダウンウォッシュで、勇登たちを抑えつけると、そのまま飛び立ってしまった。
「――え?」
降りしきる雪の中、勇登は呆然と五郎を見た。
「天候が限界だ。ビバークするぞ」
五郎は再び装具を背負いながら、当然のことのように勇登にいった。
*
――皮肉だな。
いつも、あともう少しの時間を、神様はくれない――。
五郎は勇登を引きつれて、ビバークする場所に向かった。
いつも訓練で使っている山だったことが不幸中の幸いだった。
すぐ近くにいい場所がある。
――どうやら今回は学生じゃなくて、俺の試験らしい。
五郎は降りしきる雪の中を、確固たる足取りで進んだ。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。