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#35 小説『メディック!』【第7章】7-2 俺×母 降臨

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 五郎は滑走路に定期便のC1が着陸するのを見届けると、ベースオペレーションの待合室に向かった。

「お久しぶりです、熊野曹長。どうしたんですか?こんなところで」
 C1で小牧基地に降り立った由良は、目を見開いた。

「おつかれさまです、志島2佐。いやいや、うちにいる同じ苗字の人間が『今日恐ろしいものが、小牧に来る』と大声で噂してまして」
 由良ははにかんだ。

 五郎は由良とオペレーションの前で飛行場地区を見ながら立ち話をした。
 由良とは、はじめて着任した部隊で知り合って、もう25年以上の付き合いになる。由良は幹部、五郎は空曹という立場で五郎が二つ年上ではあったが、基地内の合気道部で一緒になり、仲良くなったのだった。

「相変わらず、鬼ですか?」
 そうきいた由良は、少し躊躇しているように見えた。
 本当は息子のことを知りたいのだろうが、立場上遠慮しているのだろう。彼女の母性に触れて、五郎の心は温かくなった。

「まあ、鬼ですかね。今時スパルタは流行らない、古いっていう人もいますけど、僕は必要だと思ってるんですよ。この仕事は常に、反省後悔迷いが尽きない。過酷な任務を乗り切るためには、強い心が必要なんです。ところで、志島2佐は、植物とか育てますか?」

「いえ、サボテンを枯らすタイプです。そういえば熊野曹長の趣味って、確かガーデニングでしたよね。見た目とのギャップ、激しいですよね」
 由良はそういって、くすっと笑った。

 きっと皆そう思っているのだろうが、彼女のようにはっきりという人は少ない。見た目が怖いせいで、本当のことをいってもらえないこともある。
 彼女は自分にとって貴重な存在だ。

「昔小さな温室で植物を育ててたことがあるんです。掃除をした冬のある日、温室に入れ忘れた植物があったんです。数日後に気がついたとき、そいつはぐったりしてました。焦って温室に戻しましたが、そのまま枯れてしまいました」

「……それは、残念でしたね」

「実は僕、新しい学生がくる度に、彼らに種を蒔いています」

「へえ、面白いですね」
 由良は興味深そうに五郎を見た。

「地面にどっしりと根を張るには、ただ発芽させるだけじゃ駄目なんですよ。散々踏みつけられて発芽した種は強いんです。そうやって、一度底まで落ちてから、再び這い上がった心は強くて、たとえ体が悲鳴を上げていても、心がまだやれると思えば体はついてくるんです。僕は学生に罵声を浴びせながらも、その中にある種の状況を見てます。水は足りてるか、栄養をちゃんと吸収しているか、気にしているんです。だから、安心してください」

 五郎がそういって微笑むと、由良は安心したように笑った。

 つづく

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 ※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。

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