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#22 小説『メディック!』【第5章】5-1 (宗次×亜希央)+ 俺 もう一人の同期

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第5章 (宗次×亜希央)+ 俺 もう一人の同期

 水面を見上げると、自分の鼻から漏れた息が円になって水面にあがっていくのが見えた。
 力を振り絞って足裏で水を蹴る。
 プールサイドに立つ数人の人影は、水のフィルターを通して歪んで見えた。
 水面に近づいた瞬間、何か棒のようなもので押されて再び水中に返された。
 遥か下にある底を見ると、暗い海の底に引きずり込まれる感覚になった。
 僕はパニックになりながら、必死に水面を目指す。
 地上から何かきこえる。
 いつもの教官の罵声?

 違う、笑い声だ――! 
 
 目を開けた宗次の体は、汗でびっしょりだった。
 ブラインド越しの月明りで、部屋の壁は縞模様になっていた。ジョンのかく規則正しいいびきの音で今居室にいるのだとわかり、宗次はホッとした。

 ――夢、か。

 それでも、心臓のバクバクが止まらなかった。久しぶりに昔の夢を見たのは、ここ最近の訓練の影響だろうか。

 プールでは海上総合実習に向けての訓練がはじまっていた。
 実際のプールでは驚愕の訓練が行われた。両手足を縛ったと思ったら、そのままプールに突き落とされたのだ。必死に這い上がっても、教官に沈められ、限界まで助けてはもらえない。呼吸ができると素晴らしさと、酸素の有り難さを嫌というほど感じた。

 ――もう、克服したはずだったんだけどな。

 宗次はゆっくりと起き上がって、シャツを変えるとベッドに横になった。
 それからは、壁の縞を上の端から下の端まで6回数え終わったあたりで、やっとジョンのいびきがきこえなくなった。

「ぶはっ」
 水中にいた勇登は、慌てふためきながら、水面に浮上した。

 新鮮な空気が肺に入ると同時に、脳みそが安心したのが手に取るようにわかった。続けて浮上してきた剣山、吉海も必死の形相をしていた。

 プールに沈められるという初日の恐ろしい訓練の後、更に恐ろしい訓練が勇登たちを待っていた。
 プールの底、四隅に設置された酸素ボンベ、四人の学生が酸素を求めてボンベからボンベへ泳いで移動する。途中で浮上することは許されないから、四人が呼吸を合わせて動く必要がある。

 この状況を30分続けるのだ。

 もし、途中で誰かが酸素を独り占めしてしまうと、玉突き状態になって後ろからきた人は酸素が吸えない。そうなると、苦しくなって浮上するしかない。全員の呼吸が合って成り立つ訓練だった。
 『過去何人か脱落して、元の部隊に帰った者もいる』と担当教官の武造がこの訓練前にいった言葉が、急に現実味を帯びてきていた。

 最後に宗次が浮上するなり、武造が叫んだ。
「また、お前か!一体何回みんなに迷惑かけりゃ気が済むんだ。もうやめちまえ!」

 宗次は真っ青な顔をしていた。
 身体が冷えたからなのか、恐怖からなのか、勇登にはわからなかった。

 その後も、何度やっても宗次が途中酸素を独り占めして、玉突き状態になっては浮上するという状況が続いた。
 武造の罵声も「やめろ!帰れ!」と激しさを増した。

 宗次がメンバーにいるときは、一度も成功できないまま訓練は終了した。

 その日の夕方、濃霧の中にいるような重苦しい空気が漂う中、屋外の鉄棒付近でいつものように皆で黙々と自主トレをしていた。勇登はこの空気を変えようと試みたが、適切な言葉を見つけられずにいた。

 鉄棒にもたれかかった吉海がついに沈黙を破った。
「こんなの、ほとんどいじめですよね」

 剣山もすぐさまその意見に同調した。
「ああ、マジ地獄だよ。鬼だな」

 ジョンも負けじと頷きながらいった。 
「もしかして俺ら、ストレス発散に使われてるんじゃね」

 はじめは宗次を庇おうと発せられた言葉だった。しかし、日頃のストレスや疲れが相まって、それぞれが不満を口にしだして、段々と教官の悪口がエスカレートしはじめた。

 勇登が口を開こうとした次の瞬間、宗次が叫んだ。
「違う!これはいじめじゃない、訓練だ。僕にはわかる!……僕なんかのために、教官のこと悪くいわないでくれ」

 宗次はその場から走り去ってしまった。

 つづく
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。

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