#45 小説『メディック!』【第9章】9-1 俺×恋 変化
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第9章 俺×恋 変化
母、由良が転属してきて、勇登は週末余裕があるときだけ家に帰るようにしていた。訓練を重ねるごとに、救難員という仕事が非常に危険なもので、中途半端な気持ちでは到底やりきれないものであると感じていた。数カ月後卒業できて救難員になれたとしたら、再び別の基地で勤務することとなる。できるときに親孝行しようという気になっていた。
*
土曜の昼過ぎ、勇登は宗次と喫茶PJに行った。
宗次はこの間の山岳訓練で、勇登と亜希央に何かあったんじゃないかと疑っていた。勇登がしつこく質問してくる宗次をいなしていると、入り口のドアベルが静かに鳴って客が入ってきた。
その客を見た宗次は、焦った顔で勇登のほうに向き直った。
勇登は軽く手をあげて亜希央にこっちだと合図した。
「前に、プールのお礼がしたい、っていってたから誘っておいた」
勇登はしれっと宗次にいった。
勇登も断られるつもりで誘ったのだが、亜希央はあっさり誘いを受けた。
亜希央は宗次の横に、ちょこんと座った。宗次の体格がいいぶん、四人掛けのテーブル席では少し手狭だが、小柄な亜希央はぴったりとはまった。
「今日は宗次のおごりだから、何頼む?」
勇登がそういうと、メニューに顔をうずめていた亜希央がいった。
「あたしは……」
勇登と宗次は目を見開くと、同時に亜希央を見た。
「な、なによ……」
亜希央は顔を真っ赤にしていった。
「いやぁ、なんでも……」
勇登と宗次は顔を見合わせた後、表情を隠すように下を向いた。
「…………っ」
次の瞬間「お前ら、なに笑ってんだよ!」と亜希央はいつもの『オレ』になって立ち上がった。
「なんか、かわいいなって思っただけだよ」
宗次が真顔でそういうと、亜希央は更に赤くなって、ストンと座った。
いうときゃいう宗次の姿に勇登は「おおー」と感心たような声を漏らした。
三人がわいわい楽しそうに話しているのを、ナオはカウンター越しに見守っていた。
勇登は「どうせ同じ場所に帰るんだから」となかば強引に、宗次に亜希央を送らせた。そして、いつものカウンター席に移動した。
「仲いいんだね」
そういうナオに勇登は「そうかな」と答えた。
「なんかみんな見てると、いいなって思う反面、少し焦る。私ずっと地元でここしか知らないでしょ。一度外を見てきたほうがいいのかなって」
「へえ、ナオでもそんなこと考えたりするんだな」
「そりゃそうよ。そうやって他人と比較して焦っちゃうの。私だけかな」
「みんなそうだよ、俺も平気そうな顔して、いつも焦ってる。余裕ぶっこいてなんて全然できない。焦って間違って怒られて、それでも立てたら、それでいいと思って今はやってる」
「勇登、成長したね」
ナオは少し寂しそうに笑った。
「俺最近、ナオに似てきてる気がするんだよな」
「どこがよ?」
ナオは自分の身体と勇登の身体を見比べると、頬を膨らませた。
勇登は苦笑した。
「いや、見た目じゃなくて。なんだろ、考え方とか。俺が成長したのってナオのお陰だと思う」
そのとき、店に新たな客が入ってきた。
「褒めたってサービスはしませんから」
ナオは勇登にそういうと、仕事に戻っていった。
勇登はそのまま居座り夕飯をすませた。
いつもより量の多いナポリタンで満腹になった勇登は、カウンターでまったりしたり、漫画を読んだりして過ごした。いつからか、ここが気軽に帰れる家のような感覚になっていた。
――いつも同じ場所にあって、安心する場所。
今日は残っていたい理由があった。閉店時間になり、ナオが店じまいをはじめた。
「そういえば、怪我しかけたんだって?」
ナオは表情を曇らせながらいった。勇登は「鍛えてるから問題ない」と答えた。
テキパキと作業するナオを見ていた勇登は、何となく口を開いた。
「ナオ、俺とつきあ……」
そのとき、勇登の携帯が鳴った。
――呼集かもしれない。
勇登が携帯の画面を見ると、ジョンからだった。
拍子抜けしつつも、ほぼあり得ない人物からだったので、逆に不安になって電話に出た。
「なんかあった?」
「いや、BXって何時までだっけ?」
「はあ?知らねーよ。吉海にきけよ」
「いや、今部屋に誰もいなくて……」
「じゃあ、前まで行ってみればいいだろ。近いんだから」
「そうだよな。じゃあな」
勇登は変な奴と思いながら電話を切った。
ジョンの電話でナオとの会話は途中になってしまった。しかし、ナオは何もきかなかった。勇登もそのことには触れないまま、基地に帰った。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。