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#50 小説『メディック!』【第10章】10-4(剣山×子猫)+俺 思い出

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五郎はなにもいわず、勇登と剣山を誰もいない教官室に入れた。
 五郎は椅子に腰かけると、子猫を膝に乗せ、ゆっくりと背中をなでた。

「俺が、悪いんです。全て俺の責任です」
 剣山は口火を切ると、ことのあらましを全て五郎に話した。
 そこへ、見つかったという連絡を受けた宗次とジョンと吉海が合流した。

「この子猫が、飛行場地区の方に行っていたらどうなっていたと思う?」
 五郎ははじめて口を開いた。

「怪我をしているから、機敏には動けない。飛行機にひかれたら?エンジンが吸い込んでしまったら?それを、考えた者はいるのか?」

「……考えてませんでした」
 剣山が声を押し殺していった。

「あまいんだよ。詰めが。……では、どうすればよかったと思う?」
 五郎は極めて冷静に質問した。

「……はじめから、教官に相談すべきでした」
 はじめに宗次が神妙な面持ちで答えた。

「俺が猫を連れて来たのが、間違いでした」
 剣山が声を震わせながらそういった。

五郎は膝に乗っていた子猫をそっと勇登に渡した。
 かと思ったら、次の瞬間思い切り剣山の胸ぐらを掴むとそのまま壁に押しつけ、大声を出した。
「お前はそのときそれが正しいと思ったんだろ!だったら、そこだけは自信を持て!」

五郎は手を離すと、今度は落ち着いた声でいった。
「救難の現場では迷ってる暇はない。自信がなければ、常に決断を迫られる現場で何も決められないんだよ」

そして、五郎は勇登から子猫を取り戻すと、言葉を続けた。
「ここには困っている者を放っておける人間はいないんだよ。お前も、そうだったんだろ?」
 剣山は涙を流しながら頷いた。
 それを見た、吉海も泣いていた。

「ただ、なんの処分もなし、というわけにはいかない」
「はい。当然です」
 剣山は手の甲で顔を拭くと、毅然とした態度でいった。

「携帯、2週間没収」
 五郎は最強の罰を言い渡した。剣山の顔がこわばった。最近のスマホ依存気味の若者には、これが一番効く。

「それから、わかってると思うが連帯せき……」
 五郎がいい切る前に、ジョンが口を開いた。

「熊野曹長!俺の携帯を取り上げて下さい。もし、それでも足りないなら、壊してもらっても構いません」
 ジョンは持っていた携帯を、両手でさっと差し出した。

「ほう、お前がそこまでいうなんてな。……よし、それでカタをつけてやろう」

感心した表情の五郎に、剣山が食い下がった。
「駄目です、熊野曹長!俺だけでお願いします!これだけは、俺にきっちり責任を取らせて下さい!」
「却下だ。俺は一度下した決断は、覆さない。これ以上いったら、全員にするぞ」

五郎の決意が固いと知った剣山は渋々引き下がった。
 子猫は五郎が預かるということで話が決まり、全員教官室を出た。

五郎が小さく息を吐くと、勇登がドアからひょっこり顔だけを出した。
「あの、そいつの名前は今のところ『こしろ』です。あと、俺子どもの頃父と子猫を助けたことがあるんです。だから……、ありがとうございます!」
 勇登は笑顔でそういうと、部屋を後にした。
 
 ――ああ、よく知ってるよ。

五郎はこしろを一時的に部隊当直に預けると、その足で喫煙所に向かった。

「おい、ジョン。一体どういうつもりだ!」
 隊舎に戻ろうとするジョンに、剣山が声を荒げた。

「知ってのとおり、友達いないんで全然大丈夫です」
 ジョンはすたすたと早歩きで隊舎に向かった。

「それにしたって……!」
 剣山は苦痛の面持ちで振り絞るように声を出した。

ジョンは振り返ると、得意顔でいった。
「だって俺たちの仕事は人を救うこと、でしょ」

「……おまっ、えらそうに!」
 剣山はジョンに駆け寄って首に手を回すと、思い切りヘッドロックをかました。

 第11章へつづく――――――――――――――――――――――――――――――――――
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。


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