#64【最終回】 小説『メディック!』【第15章】15-3 俺×仲間 目的が同じ道
前回のお話を読む(#63第15章 15-2へ)
はじめから読む(プロローグへ)
目次(マガジンへ)
第15章をまとめて読む
――――――――――――――――――――――――――――――――――
*
勇登たち同期は喫茶PJを貸し切って、ささやかな卒業パーティーを開いた。
それは、勇登とナオのお祝いも兼ねていた。ナオは勝手に、由良、美夏、亜希央を呼んでいた。いつの間にか四人が仲良くなっていて、勇登は驚きよりも恐怖を感じた。
ジョンは美夏のことが気に入ったようで積極的に話しかけていた。
酒が入った由良は、次々と勇登の秘密を暴露しはじめた。
「志島勇登君は、こう見えて自転車に乗れません!」
由良は右手をあげて、勝手に宣言した。
ずっと隠してきた秘密をばらされた勇登は慌てふためいた。
勇登が子どものころ走っていたのを知っていた美夏は「そうだったんだ」と妙に感心し、同期と亜希央は、マジか、と少し冷めた目で勇登を見た。
「男は走れっていって買ってくれなかったからだろ!」
勇登は思い切り釈明した。
「でも、そのお陰で体力ついたでしょ!こうやって卒業できたのは、きっと私の教育があったからね」
由良も負けずにいい返した。
ナオはクスクス笑っていった。
「車買う貯金なんてないだろうから、これから特訓しなきゃね」
卒業できて嬉しいはずの宗次は、店の隅でひとりちびちびと飲んでいた。
勇登が近づくと、宗次は暗い声でいった。
「保留された」
「へ?なにを?」
「さっき、告白したんだけど、今は難しいっていわれた」
「なんだよそれ、どういう意味だよ」
「俺はしばらく貝になる。知りたきゃ本人にきいてくれ」
そんなこときける訳ないだろ、といいたかったが、勇登は心を痛めている宗次をそっとしておくことにした。
しかし、真相はすぐにわかることとなった。
*
救難教育隊、最後の朝。
亜希央が話があるというので、勇登は整備隊の格納庫に行った。
亜希央は勇登の姿に気づくと、ヘリを降りて小走りで来るといった。
「あたし、もうメディックは受験しない」
勇登は驚いて亜希央の顔を見た。
「安心して。一度自分に正直になって、よく考えて決めたことだから。でも、ヘリに乗って助けに行くことを諦めたわけじゃない。あたしヘリの整備、実はかなり好きって気づいたんだ。だから、ヘリのフライトエンジニアを目指す。これからは、もっと勉強しなきゃ」
そういって亜希央は笑った。
「お前はやっぱり最高だよ。次は任務でだな!」
勇登は敬意を込めて、亜希央に握手を求めた。
亜希央はその手をしっかりと握り返した。
いよいよ旅立ちのときとなり、同期の仲間が集結した。
宗次は本当に強くなったのか、ポジティブになったのか「そういえば、俺、振られてないよな」といって急に元気になっていた。
学生長の剣山が同期全員に封筒を配った。
疑問に思いながら中をみると「救難員課程特製カレンダー」なる代物がでてきた。それは吉海が撮りためていた肉体成長記録写真を、剣山がカレンダーにしたものだった。
一枚一枚めくっていくと、この一年の出来事が一気に押し寄せてきて、涙が溢れそうになった。
1月から8月は同期だけで撮ったもの。9月は卒業式の後に撮った写真、10月はなぜか五郎の半裸が写っていて「間もなく50の肉体を見よ」というご丁寧な解説までついていた。11月は教官全員と亜希央、12月はプールでの相撲対決で、勇登とジョンがプールに落ちる瞬間の写真であった。
そして、最後のページに一言「日々自分を更新せよ」と五郎の字で書いてあった。
勇登は一生の仲間となった同期との思い出を胸に、次なる部隊へ向かった。
散り散りになったとしても、再び出会わないはずがない。
だって俺たちの目的は、同じなのだから――。
(おわり)
最後までお読みいただきありがとうございました! 和泉りょう香
――――――――――――――――――――――――――――――――――
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。