#30 小説『メディック!』【第6章】6-2 ナオ×美夏 セラピスト
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小学校の同級生であった美夏は、クラス会の翌年航空学生に受かっていた。現在は戦闘機パイロット目指して、浜松で教育を受けている。
勇登は入隊後、偶然入間で会ったことがあったが、時間がなくて少し話しただけだった。
宗次は勇登を散々疑いの眼差しで見ながらも、飛行機の時間があるので実家に帰っていった。
勇登は何事もなかったふうに、美夏をリビングのソファーに案内したものの、内心は驚いていた。
美夏はこんなキャラじゃなかったはずだ。家に来るとなれば、きっと何日か前に連絡をよこすはずだし、急遽用事ができたとしても、事前に連絡してくるはずだ。そういうところは、きっちりしている子だ。
それに、不自然に明るいところが一番気になる。
勇登はこの後、自主訓練しつつも久しぶりに一人になった解放感を味わいながらのんびり過ごす予定だった。
入校していると、24時間毎日同期と同じ空間で過ごすことになる。住む場所も仕事も同じ、休日であっても帰ってくるところは一緒。慣れてはいたが、たまには一人になりたいものなのだ。そして、夕飯はナオのところで済まそうと思っていた。
勇登はペットボトルのウーロン茶をにこにこ笑顔の美夏に渡しながらいった。
「久しぶりだな。そっちも休暇か?」
「うん」
「浜松の実家には帰らないの?」
「志島君と同じで、週末いつでも帰れるから」
「なんか、名古屋に用事でもあったのか?」
「ううん、ないよ」
「小牧基地に知り合いでもいるの?」
「ううん、いないよ」
「なんにもないのに、来たの?」
「なんだか、尋問されてるみたい。理由がないと来ちゃ駄目なの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、志島君に会いたくてきた、っていうのは?」
「――!」
そんな風にいわれて悪い気分になる男はいない。
美夏は初恋の子でもある。だが、なにかおかしい。
真面目という言葉を絵にしろといわれたら、自分はきっと美夏の姿を描くだろう。それくらい、彼女はしっかりしてる。無計画に行動するなんてかなり怪しい。
――まさか、脱柵!?
脱柵とは、隊員が外出等の許可を得ないまま、基地を抜け出すことだ。そんなことをすれば、処分は免れない。
勇登が黙ってしまうと、美夏はすくっと立ち上がった。
「じゃあ、帰るね」
美夏の顔からは、先ほどまでの笑顔が消えていた。
「待て、待て、待て」
勇登は玄関に行こうとする美夏の腕を引いた。
このまま彼女を帰してはいけない気がした。
もう一度ソファにすわらせると、今度は質問攻めにならないようにゆっくり話をきいた。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。