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#54 小説『メディック!』【第12章】12-2 俺×五郎 判断

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客のいない喫茶PJで、ナオは音消しされたテレビを見ていた。
 たまにはニュースでも見て、最近の時事ネタを知っておくのも悪くない。それで、お客さんとの会話が盛り上がることもある。もう少ししたら混みはじめるから、今はリラックスタイムだ。
 店のコーヒーに砂糖とミルクをたんまり入れた。ブラック派の常連客に見られたら怒られそうだ、と思いながらテレビの時計を見ると、ちょうど5時になった。
 
 画面に本日のトップニュースのテロップが出た。

――民間の小型機、山中に墜落

その文字を見ただけで、心臓が一瞬止まり、父の顔が頭に浮かんだ。

ニュースが流れはじめる前に、チャンネルを変えようとして、手を止めた。そして、音量を上げた。

『本日午後4時過ぎ、岐阜県の山中で民間の小型機一機が墜落しました。現時点で事故の詳細は不明ですが、現場近くで訓練していた自衛隊の救難隊も救助に向かった、との情報が入っています――』

――勇登だ。

この間、最後に雪山での訓練が残っていると、大騒ぎしていたのをナオは思い出した。

心が、ザワザワする――。

勇登は6、7メートルの崖下で、スーツ姿の男性を発見した。

「要救助者発見!」
 勇登は五郎に向かって叫んだ。
 防寒着も着ずに寒々と横たわる姿を見た勇登の頭に、母の泣き顔が浮かんだ。

――この人を家に返さないと、この人の母さんが泣く。

勇登はもう一度崖下を覗き込んだ。二階建ての屋上より少し高いくらいか。

そう思った瞬間、足元の雪が崩れ落ちた。

――!?

直前に必死に掴んだ雪では、身体を支えることはできなかった。
 
 が、勇登は宙に浮いていた。
 見上げると五郎が勇登の左腕をしっかりと掴んでいた。

「そっちの手もよこせ!」
 横からジョンがそういって、手を差し出した。

勇登は必死の表情で二人を見た。五郎とジョンは勇登を引き上げた。

それから、五郎はすぐに自分の考察結果を勇登とジョンに話しはじめた。

「要救助者の服装から、彼は墜落機の乗客であると判断する。墜落現場との位置関係から察するに、墜落後、意識があり何とか抜け出したが、雪で足を滑らせ山を転がり落ちてきた可能性が高い」

五郎は引き続き淡々と、勇登とジョンに救助計画を伝えた。

「これから崖下に降りて彼を救助した後、近くのピックアップポイントまで移動、そこでヘリの到着を待つ。すぐに準備を開始するぞ」

準備をしながら、勇登はジョンに小声でいった。
「さっきは、ありがとう。助かった」

「当然だろ」
 ジョンはそういうと、勇登の背中を軽く叩いた。

準備を終えると五郎は二人を交互に見た。
「あの人を家族のもとへ帰す。そしてお前らも俺も家族のもとへ帰る。いいな!」

――俺と同じように、あの人にも家族がいる。

助けるのはこの人一人じゃない。
 この人に繋がっている人たちも救うのだ。
 勇登にはその意味が痛いほどわかった。

降下中、雪が降りはじめ、風が強くなった。勇登は背中の手形を思い出した。

――二度と泣かせはしない。だから、俺は死ねない。

勇登は慎重に崖をおりた。

つづく
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。


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