#54 小説『メディック!』【第12章】12-2 俺×五郎 判断
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客のいない喫茶PJで、ナオは音消しされたテレビを見ていた。
たまにはニュースでも見て、最近の時事ネタを知っておくのも悪くない。それで、お客さんとの会話が盛り上がることもある。もう少ししたら混みはじめるから、今はリラックスタイムだ。
店のコーヒーに砂糖とミルクをたんまり入れた。ブラック派の常連客に見られたら怒られそうだ、と思いながらテレビの時計を見ると、ちょうど5時になった。
画面に本日のトップニュースのテロップが出た。
――民間の小型機、山中に墜落
その文字を見ただけで、心臓が一瞬止まり、父の顔が頭に浮かんだ。
ニュースが流れはじめる前に、チャンネルを変えようとして、手を止めた。そして、音量を上げた。
『本日午後4時過ぎ、岐阜県の山中で民間の小型機一機が墜落しました。現時点で事故の詳細は不明ですが、現場近くで訓練していた自衛隊の救難隊も救助に向かった、との情報が入っています――』
――勇登だ。
この間、最後に雪山での訓練が残っていると、大騒ぎしていたのをナオは思い出した。
心が、ザワザワする――。
*
勇登は6、7メートルの崖下で、スーツ姿の男性を発見した。
「要救助者発見!」
勇登は五郎に向かって叫んだ。
防寒着も着ずに寒々と横たわる姿を見た勇登の頭に、母の泣き顔が浮かんだ。
――この人を家に返さないと、この人の母さんが泣く。
勇登はもう一度崖下を覗き込んだ。二階建ての屋上より少し高いくらいか。
そう思った瞬間、足元の雪が崩れ落ちた。
――!?
直前に必死に掴んだ雪では、身体を支えることはできなかった。
が、勇登は宙に浮いていた。
見上げると五郎が勇登の左腕をしっかりと掴んでいた。
「そっちの手もよこせ!」
横からジョンがそういって、手を差し出した。
勇登は必死の表情で二人を見た。五郎とジョンは勇登を引き上げた。
それから、五郎はすぐに自分の考察結果を勇登とジョンに話しはじめた。
「要救助者の服装から、彼は墜落機の乗客であると判断する。墜落現場との位置関係から察するに、墜落後、意識があり何とか抜け出したが、雪で足を滑らせ山を転がり落ちてきた可能性が高い」
五郎は引き続き淡々と、勇登とジョンに救助計画を伝えた。
「これから崖下に降りて彼を救助した後、近くのピックアップポイントまで移動、そこでヘリの到着を待つ。すぐに準備を開始するぞ」
準備をしながら、勇登はジョンに小声でいった。
「さっきは、ありがとう。助かった」
「当然だろ」
ジョンはそういうと、勇登の背中を軽く叩いた。
準備を終えると五郎は二人を交互に見た。
「あの人を家族のもとへ帰す。そしてお前らも俺も家族のもとへ帰る。いいな!」
――俺と同じように、あの人にも家族がいる。
助けるのはこの人一人じゃない。
この人に繋がっている人たちも救うのだ。
勇登にはその意味が痛いほどわかった。
降下中、雪が降りはじめ、風が強くなった。勇登は背中の手形を思い出した。
――二度と泣かせはしない。だから、俺は死ねない。
勇登は慎重に崖をおりた。
つづく
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。