#44 小説『メディック!』【第8章】8-8(俺×オレ)+(ジョン×五郎) 限界の先にいた仲間
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山岳実習を無事終え帰隊した五郎は、一人ふらりと屋外の喫煙場所にきた。
――最近、ちょっと吸い過ぎか?
ふと、昔宴会の席で「煙草は体に悪いからやめたほうがいい」と、整備の同期にいわれたことを思い出した。俺が、年に数本だけだよ、といおうとすると、近くに座っていた亜希央が「人には、そうなるに至った歴史があるんです!」といい返してくれたことがあった。その真剣な顔に俺は吹き出してしまって、結局は俺が怒られた。
五郎はそんなことを思い出しながら、煙草に火をつけた。煙草を垂直に立てると、煙はオレンジ色の空に吸い込まれるようにのぼっていった。今日の飛行場地区は夕日で染まって美しい。
五郎は半分ほどになった煙草を、口にくわえた。
煙草の煙は、自分の中にある「何か」によくまとわりついて心地いい――。
救難員の学生時代、俺とあいつは煙草を吸っていた。あいつは俺に、禁煙勝負を持ち掛けてきた。俺はすぐに乗った。ルールは簡単、先に煙草を吸ってしまったほうが負け。どちらも譲らす、俺たちは卒業を迎え離れ離れになった。
そして、十数年後同じ部隊になった。お互い勝負はまだ続いているとすぐにわかった。あいつのことだ、離れていた間にこっそり吸った、なんてことはなかったと思う。
しかし、あの日雪交じりの冷たい雨を見ながら、あいつは急に「煙草すいたいなぁ」と呟いた。久しぶりの単身赴任でさみしかったのかもしれない。
ただ、俺もその気持ちは痛いほどわかった。禁煙に成功したものの、時々無性に吸いたくなった。たが、あいつを思い出して、我慢した。俺が「吸ってもいいんだぜ」というと、あいつは「冗談だよ」といってニヤリと笑った。
その日の夕方、俺たちはヘリに乗って出動した。
あいつがヘリから降下するとき、俺が「戻ったら一緒に吸おうぜ」というと、あいつは満面の笑みを見せた。本当に一緒に吸うつもりだった。
けど、あいつは二度と煙草が吸えなくなった。
それから、俺はあいつと話がしたいとき、煙草を吸うようになった。だから、勝負は俺の負けだ。
優秀なあいつにおれは勝てたためしがない。だから、これでいい。
五郎は煙を吐き出すと、それを見ながら思った。
人はどうして、身体に悪いこれをやめられないのだろう。
いや、違う、むしろ、
身体に悪いと知っているから、やめられないのだ――。
五郎は煙を肺に吸い込んだまま、火のついたそれを、ぐいと灰皿に押し付けた。
この毒が、心の中にある「罪悪感」を、麻痺させてくれるからだ――。
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「たまには外で撮りましょう!」
山岳実習から戻った夜、吉海が元気にいった。
ついに写真撮影も6枚目に突入し、恒例行事となった。勇登も乗り気で作戦会議に参加した。
会議の結果、前回の訓練で勇登が川に落ちたので、川つながりで撮影場所は基地内の橋の上となった。
教官にばれないように、撮影は人通りの少ない日曜日の早朝に決行することとなった。服装は夏制服。事前にフォーメーションを確認し、素早く上衣を脱ぐ訓練も行った。
決行当日は、何事もないように橋を通過し、さっと脱いで直ぐに撮って、その後はダッシュで帰ってきた。居室に着いてから、写真を確認すると、もう誰が誰かわからなくほど、みんな真っ黒だった。
そのせいかもしれないが、全員の顔つきが少し凛々しくなっていた。勇登はそんな自分の姿を、少し誇らしく思った。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。