#33 小説『メディック!』【第6章】6-5 ナオ×美夏 セラピスト
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翌日。
ナオは勇登に電話した。ナオは昨晩の『志島勇登について語る会(主に悪口)』が気に入ったらしく、美夏はしばらく泊めてもらえることになったからだ。
「勇登のやつ、たまに電話でなかったりするんだよね」
ナオは、またか、という顔をしていった。
「電話に気づかないなんて、ありえないわ」
「そうなの?」
「自衛官は基本24時間勤務なの。呼集がかかれば、即呼ばれるの。だから、着信には敏感なのよ」
勇登とナオの関係がなんだか悔しくて、美夏は少し意地悪っぽくいった。
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休暇最終日。
美夏はナオの家を出る際、先輩の眠る仏壇にもう一度手を合わせた。
これからも、ナオちゃんをお守りください――。
きっと今後も訓練の厳しさは変わらないだろう。
しかし、思い切り話ができて、心はすっきりしていた。自分の中でずっとドロドロしていた何かが、減っているのがわかった。
解決策などいらない。
ただ、話をきいてもらえただけでこんなにも心が軽くなった。
勇登は走って美夏を迎えにきてくれた。時間があったから、喫茶PJ近くの公園で少し話した。
いつも飛んでる空は、橙色に染まっている。
――やっぱり、飛びたい。
「どうして夕焼けって、こんなにきれいに見えるんだろ」
美夏は素直に感じたことをいった。
「それはお前の気分がいいからじゃない。俺も今だけはきれいに見える。また訓練始まったら、わからんけど」
休暇の後、心が折れたまま戻ってこない人もたまにいる。
休暇前は、今回自分がそうなってしまうのでは、と思っていた。
でも、救われた。
「本当は底抜けに挫けてたんだ。きてよかった。ありがとう」
美夏はそういうと、軽い足取りで浜松基地への帰路についた。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。