#62 小説『メディック!』【第15章】15-1 俺×仲間 目的が同じ道
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第15章 俺×仲間 目的が同じ道
由良に「週末絶対に帰ってこい」といわれ、勇登は実家にいた。すると、玄関のチャイムが鳴った。当然勇登がでる。
「こんばんは」
ドアを開けたらにこやかな五郎が立っていて、勇登の口から心臓が飛び出しかけた。
五郎から大量のビールを受け取ると、勇登は彼をリビングに案内した。
「俺はお前の母さんに25年前に出会ったんだ」
「息子の前で、意味深ないいかた、やめてもらえませんか」
「はは、すまん。基地のクラブ活動が一緒だっただけさ」
五郎は仏壇の前に座った。
『俺が死んだとしても、それは誰の責任でもない。この仕事を選んだ俺の責任だ』
それは、事故の後、五郎が由良のもとを訪ねたときにきいた言葉だった。「生前彼がよくいってたの。誰にも責任取らせてくれないみたい」と当時の由良はおだやかな表情でいった。
これまで、その言葉に何度も救われた。
五郎は「ありがとう」と呟いた。
そして、しばらくの間、若くして亡くなった仲間に、彼の息子の成長を伝えた。
勇登は五郎をテーブルに案内した。
そこへ由良ができたての鍋を運んできた。
「今日は豪華海鮮鍋!」
「すげえ!」
鍋からはみ出したタラバ蟹のあしを見た勇登と五郎は同時にいった。
鍋をつつきながら、五郎は勇登の知らない父の話をたくさんしてくれた。 志島家では父が死んでから、ちゃんと父の話をしたことがなかった。
父の同期が父の昔話をして、それをきいた母が笑う。
自分はその雰囲気が嬉しくて笑う。
それは勇登にとって、とても心地のよい時間となった。
勇登が仏壇の父の写真を見ると、父はいつもと変わらぬ笑顔でそこにいた。
――父さんも、にぎやかな食卓を見て笑ってる。
なんだかそう思えて、勇登は更に嬉しくなった。
*
勇登は閉店後の喫茶PJに行った。
この時間にきたのには理由があった。
「もうすぐ卒業だね」
ナオは小さく息をついた。
「ああ」
「いいな、いろんなところいけて。私はずっとここだけだから……」
「一緒に来るか?」
ナオは顔をあげた。
「まだどこになるか決まってないけど、俺と一緒に来るか?」
勇登はいつになく真剣にいった。
ナオが口を開くと、見計らったように勇登の携帯がなった。
勇登は無視してナオを真っすぐ見ていた。
「早くでないと!」
ナオが焦っていった。
「今はこっちが大切、これなら聞こえない」
勇登は両手でナオの耳を塞いだ。
真っすぐにナオを見据え返事を待つ。
恥ずかしさのあまりナオは目をつむると、大きく二回うなずいた。
勇登は笑顔になって、ナオの顔を引き寄せると、そっと唇を重ねた。
*
勇登は居室のドアを開けるなり叫んだ。
「おい、ジョン!お前何なんだよ、いつもいつも大事なところで電話してきやがって」
「いや、俺も噂の喫茶店行ってみたいな、って」
ジョンは小声でいった。
「はあ?何いってんだ!もう怒った。ジョン、俺と勝負しろ!」
吉海がなにか面白いことになりそうだと、真っ先にベッドを動かした。それを見た剣山と宗次も、喜んでベッドを部屋の隅にやった。
宗次が勝負の方法を決めた。
相撲で3回戦。2回勝った者が勝者。
1回目は怒りのパワーであっさりと勇登が勝った。しかし、ジョンも負けてはいなかった2回目はジョンが粘って勝った。3回戦を始めようとしたとき、居室のドアが勢いよく開いた。
「お前らぁ!全員まとめて追放されたいのか!」
そういって、当直である武造が乗り込んできた。
すぐ下が当直室ということを忘れていた。
勇登たちは一瞬でその場に整列した。
宗次が横目で勇登を見てきた。その目は「まじやばい」と訴えていた。
武造からお決まりの言葉が発っせられた。
「その場に伏せぃ!」
消灯後、誰一人動く者はいなかった。勇登たちはかつてないほどに腕立て伏せをさせられた。ベッドに入った後、ナオにメールをしたかったが、指が震えてできなかった。
暗闇の中で、行司をした宗次がいった。
「今日のところは引き分け、だな」
つづく
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは関係ありません。
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