風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
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今や朝飯の貝響くなる
相そりに噺の長き比丘尼共 兎文
名オ二句、仲良きことはいいのだけれど、こう噺が長くっちゃぁ叶わない。
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相そりに 反りが合う、合わないの意は、元々刀の反りと鞘との関係から発したこと。
噺の長き お喋りが止まないのですから、、、、
比丘尼共 びくに・ども、剃髪し出家した女性たち。
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いまや あさめしの かひ ひびくなる
あいそりに はなしのながき びくにども
前句の貝響くに、比丘尼共と応じた人情の句、寺檀を守る尼から諸国を遊芸する歌比丘尼、あるいは己が身を売る女まで、<伝承の世界>にはさまざまな姿で語り継がれてきた多くの女性たちの物語があったのです。
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まずは「徒然草」106段あたりから、
高野証空上人 京へ上りけるに 細道にて 馬に乗りたる女の 行きあひたりけるが 口ひきける男 悪く引きて 聖の馬を堀へ落としてげり
聖 いと腹あしくとがめて 「これは希有の狼藉かな 四部の弟子はよな 比丘よりは比丘尼は劣り 比丘尼より優婆塞は劣り 優婆塞より優婆夷は劣れり かくのごとくの優婆夷などの身にて 比丘を堀へ蹴入れさする 未曾有の悪行なり」と言はれければ 口ひきの男 「いかに仰せらるるやらん えこそ聞き知らね」というふに 上人なほいきまきて 「何と言ふぞ 非修非学の男」とあららかに言ひて きはまりなき放言しゆと思ひける気色にて 馬ひき返して逃げられにけり
尊かりけるいさかひなるべし
これを受けて俳諧に、
紅梅や比丘より劣る比丘尼寺 蕪村
納豆汁比丘尼は比丘に劣りけり 召波
相住や砧に向ふ比丘比丘尼 召波
御影供や顱の青き新比丘尼 許六
など。
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また俳諧の連句に
比丘尼馬かた鴬の声
ま一人またるる物はわたし舟 西鶴 (物種集)
相客七人はるのあけぼの 正反
比丘尼宿はやきぬきぬに帰る鴈 卜尺 (談林十百韻)
浜迄は宿の男の荷をかかえ 野坡
師走比丘尼の諷の寒さよ 孤屋 (炭俵)
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子規にもいくつか
歸り花比丘の比丘尼をとふ日哉
又けふも比丘尼佇む梅の門
比丘尼来て山吹折て帰りけり
小比丘尼の抓みかねたる胡蝶哉
小説に、尾崎紅葉「二人比丘尼色懺悔」がありました。
13.10.2023.Masafumi.
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